毎年、F1世界選手権の開幕戦の舞台となるアルバート・パーク・サーキット。オーストラリア・メルボルン市街にあるこのサーキットは、世界じゅうのF1サーキットのなかでも、数少ない公道コースとして知られる。
アルバート・パーク湖は、メルボルン中心地から5km南にある。穏やかな湖面、小鳥のさえずり、どこまでも続く芝生。そんな都会のオアシスが、300km/hで突っ走るF1マシンのサーキットに化けるとは……。
春めいた陽気の9月のメルボルン。“世界で最も穏やかなF1サーキット”を自分の足で走ってみたくなり、12コーナー付近にあるホテル(Pullman Melbourne Albert Park)を出る。F1マシンと同じように、時計回りで、アルバート・パーク・サーキット(1周5.3km)を走ってみた。
朝7時、気温24度。涼しい海風にあたりながら、「セナ」や「プロスト」と名づけられたコーナーを駆ける。F1マシンはいないが、クルマや自転車たちがゆっくりとこちらを追い越していく。
最終コーナーの手前で、信号もないのにクルマたちが止まっているのが見えた。何かと思ったら、コクチョウが道を横断していたのだ。サーキットコースの両脇では、コクチョウたちがのんびりと草を食んでいた。このサーキットをランニングするさいは、コクチョウの横断と、彼らの糞を踏まないように、気をつけよう。
このサーキットでは自転車がエキサイティング。バイシクルモトクロス(BMX)に乗る少年が15コーナーを高速で走り抜け、ロードバイクに乗るビジネスマンが直線で彼を追い抜く。さらに子どもを連れたママが後に続く……。それぞれがハイスピードで突っ走る。
直線コースへと入った。ピット・レーン側を走っていると、「ICHIBAN」Tシャツを着た男性ランナーと出会った。「ピット・レーンの北側にブラバムやジョーンズの銅像があるよ」と彼は優しく教えてくれた。ブラバムとジョーンズ、二人ともオーストラリア出身のF1ドライバーだ。
ピット・レーンから直線コースへと戻る。F1マシンはこのポイントを300km/hで駆け抜ける。“鈍足ランナー”は、フルブレーキを強いられる1コーナー直前に立ち、スリップした痕跡を眺めて感極まった。
3コーナーで周囲の風景が変わり始める。競技場や体育館といった施設の間を走り、アルバート・パーク湖の北側を行く。ゆっくり走っていると、水鳥たちに餌をあげる親子に出会った。次第に、ここが波乱を引き起こすF1サーキットであることをすっかり忘れてしまった。
メルボルンの超高層ビルを眺めながら10コーナーを走る。この街のサーキットにはゆっくりとした時間が流れていた。ミハエル・シューマッハやセバスチャン・ベッテルはこのサーキットを1分20秒台で駆け抜けてしまう。F1マシンを持っていないランナーは、街の景色や人たちを見つめながら走ると、1時間はかかる。
アルバート・パーク・サーキットを1周走り、ホテルに戻る。Pullman Melbourne Albert Parkのイケメンホテルマンが語りかけてきた。
「来年はホンダがF1に参戦し、いままで以上にいろいろな国の人たちに出会えるだろう。いまから楽しみだ。Kobayashi Kamuiの活躍も期待している。そして僕はDaniel Ricciardoが大好きだ。オーストラリア出身のF1ドライバーだからね。彼には来年もがんばってほしい」