【土井正己のMove the World】トヨタ、「米国で2位」の深い意味

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トヨタ RAV4(米国仕様)
  • トヨタ RAV4(米国仕様)
  • トヨタ タンドラ
  • TMMCウッドストック工場
  • トヨタ テキサス工場
米国の自動車市場が極めて好調だ。8月の新車販売実績は、年率換算で1753万台とリーマンショック前の水準(1600万台レベル)を超えてきている。これは、米国経済が、順調に回復・拡大してきていることを表しており、FRB(米連邦準備制度理事会)が、いよいよ平常時の金利政策に戻ろうと判断する理由ともなっている。現在の米国経済には、バブル性も薄いことから、この傾向は当面続くと見てよいだろう。


◆立役者はRAV4

この順調な米国の自動車市場で異変が起きている。「トヨタの2位」が定着してきていることだ。トヨタは、7月、8月の2カ月連続でフォードを破り2位の座を確保した。8月のシェアで見てみると、GMが17.2%、トヨタが15.6%、フォードが14.0%となっており、僅差ではなく堂々の2位である。

これまでも、トヨタが2位の座を奪ったことは何度かあるが、ほとんどかガソリン価格が上昇した時で、トヨタの得意なハイブリッドや高燃費性能でシェアを伸ばした時期だった。しかし、今回は異なる。ガソリン価格はむしろ低位安定の状況で、市場全体としてはトラック系やSUV系が伸びている時期である。米国の各紙は「トヨタの8月の躍進に貢献したのは、昨年末にモデルチェンジをした『RAV4』(前年比51.5%増)」と書いている。『タンドラ』も好調で、前年比4.1%増(1-8月累計では10.1%増)となっている。


◆リーマンショックを耐えた2つの工場

北米向けのRAV4は、カナダのウッドストック工場で生産されている。この工場は2008年の稼働開始で、リーマンショックという不運の中でのスタートであった。タンドラを生産するテキサス工場も2006年の稼働開始だったので、立ち上がり早々に不幸に見舞われた。前述の通り、リーマンショックの前(2007年まで)の新車市場が1600万台レベルであったのが、ショック後の2009年には1100万台レベルへと激減したので、米国中の自動車工場で在庫の山ができた。GMなど米国の自動車会社は、全国各所でレイオフを行っていた。

しかし、トヨタは、リーマンショック後の市場激減の間も、極力従業員のレイオフをせず、稼働日を減らして従業員も交代出勤させるなど「ワークシェアリング」を行った。また、従業員に、よりフレキシブルな生産に対応させるための実務研修を受けさせたり、地域のボランティア活動に参加させるなど工場に残す努力をした。そして、トップやマネジメント層が率先して、給与をカットした。


◆工場の従業員こそが競争力の源泉

トヨタの考え方は、「工場の従業員こそが競争力の源泉」であるとしている。その競争力とは、品質の改善や原価低減が、従業員の自主的な創意・提案によって行われることにある。リーマンショックの時にもレイオフを控えたのは、「市場が回復した時に、その競争力がモノをいう」と信じていたからである。そして昨年、市場が回復基調にあると判断したトヨタは、RAV4を生産するウッドストック工場での追加投資を決め、年産15万台から20万台へと能力増強した。

今回の様にトラック・SUV系が強くなっている市場においても「トヨタ2位」が達成できたのは、そういう歴史の積み重ねの結果なのである。トヨタの生産体制や従業員は、以前に比べ市場の変化にフレキシブルに対応できるようになっており、これから、さらなる強さを発揮すると思える。

一方GMは、これだけ市場が好調(8月は前年比5.5%増)にも拘わらず、8月の販売台数は、前年を1.2%割っている。「トラック・SUV系の販売では、前年比18%増と好調だ。収益的には大変好ましい状況」とGMの役員は豪語しているようだが、これは、いつか来た道である。市場は生き物で、それにどれだけ巨大像GMの生産や販売を適応させられるか、これが破産後の新生GMに与えられたテーマであったはずだ。(GMに関しては、次回のこのコラムで詳しく述べる予定。)


◆真の競争力とは

2013年の年初、豊田章男社長は「真の競争力は何かを考えて欲しい、そしてそれを身に付けて欲しい」と世界の各工場に問いかけた。北米のトヨタは、リーマンショックで大きな苦難を経験した。そして、その後も品質問題・疑惑や東日本大震災などで揺れ続けた。その試練が「真の競争力」の源泉になったことは間違いない。当事者たちは、順位など気にせず、「真の競争力とは」を引き続き議論していることだろう。しかし、米国での「トヨタ2位」の座は「真の競争力をつけてきた証」と私には見える。(注:1-8月累計では、GM 17.8%、フォード15.3%、トヨタ14.6%とトヨタは3位)


<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学工学部 客員教授。
《土井 正己》

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