新劇場版「頭文字 D」、クリエイティブの裏側を探る

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CGクリエイティブプロデューサーを務める松浦裕暁氏(サンジゲン代表取締役)
  • CGクリエイティブプロデューサーを務める松浦裕暁氏(サンジゲン代表取締役)
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  • (C) しげの秀一/講談社・2014新劇場版「頭文字D」製作委員会

『新劇場版「頭文字D」 Legend1 -覚醒-』が2014年8月23日に全国公開となる。1995年から「ヤングマガジン」(講談社)に18年間連載されてきた人気マンガを原作に、若き“走り屋”たちが公道最速を目指してバトルを繰り広げる。
累計部数は4860万部にも達した本作は、これまでにもたびたびテレビアニメ、実写映画、アニメ映画で映像化されてきた。今回は新たな劇場アニメとして、2014年の新たな映像で3部作で描く。その『劇場版 頭文字D』でCGクリエイティブプロデューサーを務める松浦裕暁氏(サンジゲン代表取締役)に、作品についてお話を伺った。
[取材・構成:数土直志]

新劇場版「頭文字 D」Legend1 -覚醒-』
8月23日(土)全国公開
http://initiald-movie.com/

―『新劇場版「頭文字 D」』はCGをたっぷり盛り込んだ作品ですが、一方で手描きアニメの魅力も満載です。CGの部分と手描きの部分の違いから教えていただけますか?

松浦裕暁氏(以下松浦)
車の外に出ているキャラクターは、すべて手描きでやっています。最初からそういうスタンスで行きましょうと。
一方でサンジゲンで制作するのだから派手なカメラワークや、これまでに見たことのない映像も作りたいなというのもありました。今回はカメラが後ろから車の中に入って横から抜けるといったカットみたいな部分で成立したかなと思っています。あのようなカットを作画でやらずに、CGでやります。

―確かに車の回転などは、手で描くにはハードルが高いですね。

松浦
作画でやろうとすれば、たぶん、まず間違いなく避けて通るカットです。それに挑戦をするのに意味があると思っています。

―本作はCGだからこそ映像として成立したということでしょうか?

松浦
CGでの車の表現は前作でもすでにやっています。今回はそれを違った表現で可能にしたと思っていますね。2014年の夏に新しい「頭文字 D」を発表するためには、どのような絵がいいのかを考えました。サンジゲンが将来にわたってブランディングをしていく中で、サンジゲンの絵作りをしっかりと作品に込めたいなと。
何か新しい要素、新しい絵作りをしたいと考えた時に、原作のしげのさんのタッチを再現できないだろうかと思いました。しげのさんのタッチは本当に独特で、あれこそが「頭文字 D」です。あれを再現したら、もっと「頭文字 D」が良くなるんじゃないか。漫画の表現をアニメにみえる形でやってみるものです。今回僕らが、“Dタッチ”“Dエフェクト”と呼んでいる表現です。

―その漫画のタッチは、どこが個性のポイントになっているのでしょうか。

松浦
通常の絵はキレイな線を描いて、線画に塗りをして終わります。けれど、しげのさんのタッチは汚れの様なものがあります。通常であれば汚れですが、それがスピード感を現わして、空気の流れも表現します。激しさや空気のゆらぎを線で表現しているんですよ。
それと車の後ろから出ている煙のような塵の再現です。それは熱かも知れないですし、ブレーキのタイミングを表わしたものかも知れない。表現方法はひとつですが、でもいろんなふうに見える。それが独特の世界観として成立しているんです。
それはしげのさん独特の手法なのですが、僕たちはあえてそれをCGで、しかも誰が作っても同じ表現にする。それを技術的に開発しました。

―本作の見どころのひとつに車がありますが、車体の表現はどうでしょうか?

松浦
それが今回僕たちがやろうと思ったことです。車をCGで作るとキレイな形は作れるんですよ。もちろんそれはメリットですけれど、今回の「頭文字 D」でやるときれいな形のものが動くことに違和感を覚えてしまうんです。
なのであえて歪ませたり、寸詰まりにさせたり、ひねったり、伸ばしたりを、カットごとや、そのカメラから見える印象によって変えています。手描きだと自然にクリアしていることですが、僕たちはCGからそちらに持って行き、表現します。

―CGの車であれば、そうしたモデルはすでにたくさんあるのですが、それを選択しないわけですね。

松浦
一番重要なのは画面から伝わる印象で、それがハチロクに見えなければいけないわけです。さらに「頭文字 D」の作品の中のハチロクに見えなければいけない。ただハチロクという実際にある車を寸分たがわず作ることが正解ではないんです。僕たちはそのオリジナリティ、癖みたいなものを取り入れることで、やっと「頭文字 D」のハチロクの画が成立すると思っています。

―アニメのキャラクターの絵にメリハリがあるのと同じように、車の絵にもメリハリがあるわけですね。

松浦
そうです。絶対必要です。なぜかと言うと、アニメ自体が基本的にすべてデフォルメされたものなんです。ただデフォルメされたものを1個作ったからと言って、すべてに対応できるわけじゃない。アニメーターが真っ白い紙に1枚1枚描くように、CGも同じモデルを使っても、画面によってひとつひとつデフォルメしていかなければいけないと思っています。「頭文字 D」に限らず、他の表現でも同じで、一つのモデルを作ればOKかというと、全然そうじゃないんですよ。

―車のモデルはいくつぐらいあるのですか?車に対する取材はどのくらいされましたか?

松浦
車自体はそう多くないですね。元々持っていたデータもあるので、それも組み合わせて表現しています。新規で作ったのはおそらく30台ぐらいだと思います。
取材も、それほど多くはないです。まず、重要なハチロクを取材しました。京都にハチロクにこだわって「頭文字D」のハチロクそっくりそのまま模して車を作ったかたがいらっしゃいます。漫画と同じ仕様にしているので、京都へ行って取材をし、写真をたくさん撮らせていただきました。あとは雑誌やカタログで資料を集めました。

―キャラクターについても教えてください。2Dパートはライデンフィルムさんが制作されているのだと思いますが、これまでよりさっぱりした今風に表現されたなと思いました。

松浦
前作がありますけれど、前作と同じでいいのか?というと、同じじゃよくない。僕たちは新しくしたいんだという思いもあります。でも前作と違う絵を作ることで原作とかけ離れるのはNGです。原作はすごく大切にしたい。キャラクターデザインはその条件で何人かにお願いして、選ばせていただきました。実は最初から明確な方針があったわけでなく、僕たちが目指す方向、目的に向かって歩み寄れるデザインを作っていただいた感じです。

―サンジゲンさんの制作した作品で言えば、前作の『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』では「可愛い女の子を可愛く描く」がポイントだったと思います。その前の『009 RE:CYBORG」の時は「セルルックをCGに落とせるか」ですが、今回の「頭文字 D」での挑戦を一言にすると何になりますか?

松浦
「新しい絵作り」ですね、漫画の延長上にある絵作りは何かという課題です。そのひとつの答えが「漫画アニメ」だろうと。
例えば「少年ジャンプ」を開くと、作家さんによってタッチが違います。絵のタッチ、その線の太さ、それを含めてタッチが違うわけじゃないですか。僕たちアニメ側は原作をもとにアニメを作ることが多いのですが、アニメになった瞬間に全部同じ絵なんです。線画に塗りです。勿論、僕たちもかかわった『放浪息子』の水彩画みたいな挑戦はあります。それでも一般的には線画に塗るから、あんまり変えられてないんですね。
僕たちはCGでやることで、そのコンピュータのテクノロジーを使ってもっと違った表現が、しかも誰でも同じようにできるというメリットがあります。ならばその挑戦をしたい。今回はアニメに見える形で漫画を表現しました。
「アルペジオ」とも違う絵作りができたなと思っています。これからさらにもっと違う表現ができると思います。工夫して、アイデアを出して、挑戦することで、僕たちは普通のアニメと違った絵作りもできるんだと証明する。これが今回、僕がやろうと思ったことです。

―漫画をアニメにするという話ですが、今回の「頭文字 D」は非常に線の太い作品ですが、逆に同じ技術を応用して極端に絵が細い少女漫画とか、あるいはもっとラフに描いた漫画とか、そういったものにも応用は出来ますか。

松浦
もちろんです。3Dアニメーションのこれまでのトレンドは、輪郭線のない海外のCGアニメーションの方向性だったんです。僕たちは日本になじんだアニメにこだわることで、セルルックという一つの方向性を見出しました。
その見た目の違いもありますが、僕はやっぱり一番重要なのは動きだと思っているんです。滑らかな輪郭線のないキャラクターであれば、滑らかな動きがいい。だけど線画で作られる日本のアニメのテイストで絵を作るならば、やっぱりリミテッドアニメーションがいい。これが一番合っていると思っています。重要な点は、どんな絵作りにしても、アニメに見えなきゃいけない。そうでないとお客さんたちが、新しさや面白さを感じてくれません。
もっと線の細い少女漫画でも、僕たちがアニメーションを作るならば動きもセットで考えなければいけないと思います。微妙な違いはあると思っていますので、そこは今後も研究が必要です。今後もいろんな挑戦ができると思っています。

―最後に全体も含めて本作の見どころを一言いただけますか。

松浦
今回は映画60分ということで、原作とは一部、話を組み替えながらも、映画として成立するような形で組み立てています。トータルで見ると、ちょうどいいリズムで、テンポのいい作品に仕上がったなと思います。人間の感情表現もできているし、それがアクションにもつながっています。作画と3DCG、リアルとフィクションも含めて、それらが一体になった新しい作品として楽しんでもらえるとすごくいいなと思っています。

―本日はありがとうございました。  

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《animeanime》

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