【土井正己のMove the World】トヨタFCV、「長い長いチャレンジ」のはじまり

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トヨタ自動車 加藤光久副社長
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  • トヨタ セダンタイプの新型燃料電池自動車(FCV)
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  • トヨタの燃料電池試作車 FCHV-adv
  • ホンダ FCEVコンセプト
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プリウスから始まった「連続イノベーション」

「1997年にトヨタがプリウスを発売してから、今日まで長い年月をかけてハイブリッドカーを当たり前のクルマにしたように、いつか、水素が、FCVが、当たり前の技術となるよう、本日が、私たちの長い長いチャレンジの始まりです」

6月25日、本年度中にFCVを発売すると発表したトヨタの加藤副社長は、燃料電池車(FCV)開発進捗説明会で、このように述べた。トヨタは、これまでも常に「イノベーションは普及させて、初めて意味がある」と語ってきた。すなわち発売がゴールではなく、「当たり前にする」ことがゴールだということだ。

1997年に初代『プリウス』を発売した時も、「ハイブリッド・コンポーネントのコスト、重量、容積を3分の1に、性能は数倍に」という目標を既に持っていたという。それを実現させて搭載したのが2011年に発売された『アクア』だ。この「普及に関する考え方」と「連続イノベーション」が、まさにトヨタの強さだと思う。

今回のFCVも、ある意味ハイブリッドシステムの「連続イノベーション」の一環と見ることもできる。記者会見で、トヨタの小木曽常務役員は、「FCVは、燃料電池だけでなく、回生ブレーキで発電をし、バッテリーに蓄えて、そのエネルギーも使用しており、この部分は全くハイブリッドシステムをそのまま使用している。だから、かつてはFCHVと呼んでいた」と述べているように、今回のFCVもプリウスから始まった「連続イノベーション」の延長線上にあるわけだ。

一方、燃料電池スタックや高圧水素タンクなどは、新規に自社開発しており、これらは新たなイノベーション・サイクルの始まりだ。既に、トヨタは2008年に『FCHV-adv』というモデルを限定市場導入していたが、今回のFCVは、FCHV-advと比較して燃料電池システムコストを20分の1以下にした。この飛躍的なコストダウンの背景には大きなブレーク・スルーがいくつもあったに違いない。しかし、加藤副社長の「長い長いチャレンジの始まり」というコメントは、ここからがスタートだという意味だ。

◆ジャパン・ブランドの新たな技術フラグシップ

価格については、佐藤常務役員は「競合のセダンなどの価格も見て、環境に意識が高いお客様が、手が届くところとして700万円程度とさせて頂いた」と述べた。政府の補助金も期待できることから、十分競争力のある価格帯だ。欧米での価格は、まだ発表されていないが、日本の価格並だとすれば、世界が注目している技術であること、また、この斬新なデザインを考えると「ジャパン・ブランドの新たな技術フラグシップ」となる可能性はある。

今回の記者会見では、珍しいことであるが(素晴らしいことだと思う)、政府の燃料電池政策が語られた。その中で、「日本は2009年にエネファーム(定置式の家庭用燃料電池)を世界で初めて市場投入し、未だ世界に追随されていない。そうした中で、今回、日本が世界に先駆け、燃料自動車を市場投入(量産)する意味は大きい」とした。また、インフラの整備に国を挙げて取組むことや2020年の東京オリンピックでは、世界に水素社会の可能性をアピールすることなどをビジョンとして掲げる。

◆世界にアピールしたい日本の「水素社会」

国としても、それほど水素に期待をしている。それは、水素はエネルギー密度が高く、いろいろなものから生産が可能だからである。例えば、夜間、発電所で捨てている電力を使って、水の電気分解をして水素を造れる。また、太陽光発電でも、電気を使用していない時は、水を電気分解して水素を造れる。それを家庭やクルマに運んで、酸素と結合させ電気を造る(水の電気分解の逆)のが燃料電池である。エネファームでは、都市ガス(天然ガス)から水素を取り出している。

FCVの今後の課題は、何といっても充填インフラの整備である。政府は、FCVの普及に向けて水素ステーションの建設基準を変更することを検討しており、現在、安倍政権で行われている一連の規制緩和の重要な柱ともなっている。水素ステーションは、1台当たり約3分で水素を充填できるため、1台数10分(急速充電)から数時間(普通充電)掛かるEV用充電ステーションに比べると一定の収入は期待できるので、ビジネスモデルとしては成立しやすい。現在は4億円~5億円の建設費がかかっているが、2020年頃には2億円程度に引き下げられるという。また、政府は助成金を出すことも検討しているようだ。

ホンダも2015年には燃料電池車を市場導入するという。このように、卵が先か鶏が先かの「水素社会」であるが、取り急ぎクルマの方が整ってきた。資源エネルギー庁の戸邊千広氏が語られたように、2020年東京オリンピックは、世界に「水素社会」の可能性をアピールするいい機会だと思う。そして、それは、前回の当コーナーで書いた中国などで起きている「都市化問題」への回答でもある。できることなら、ITS都市交通システムと抱き合わせ、「未来の都市交通の在り方」として日本の技術を官民挙げて世界にアピールして頂きたい。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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