【BMW i3 試乗】サスティナビリティとドライビングプレジャーは両立できるか…鈴木ケンイチ

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◆ただのEVではなく、まったく新しい構造を持つモビリティ

ユネスコの自然遺産にも選ばれた屋久島。周囲100kmほどの島の大部分が険しい山岳エリアになっており、そこに「1年に400日も雨が降る」と揶揄されるほどたくさんの雨が降り注ぐ。そのため、屋久島の緑は濃いけれど、雲の多い空からの光は柔らかい。まばゆい光にあふれる沖縄諸島とは異なる、しっとりとした独特の赴きが屋久島にはあった。

水に恵まれた屋久島は、島内で使う電力のほとんどを水力発電で賄う。つまり電力はCO2フリー。また、人口1万人ほどの小さな島でありながら、島内には100台を超えるEVが走っているという。これも街の環境意識の高さの表れだ。そんなサスティナビリティにあふれた屋久島で、BMWの次世代モビリティである『i3』の試乗会に参加した。

i3は、21.8kWhのリチウムイオン電池を床下に納める電気自動車だ。しかし、これまで市販された日本のEVとは異なり、まったく新しいコンセプトの車体が与えられた。それが「Life Drive(ライフ・ドライブ)」と名付けられたボディ構造だ。車体は、カーボンでできた上屋の「パッセンジャー・セル」と、パワートレインを納めるアルミ製の「ドライブ・モジュール」という、上下2つのモジュール構成からなる。これにより、電池という重量物を納めながらも、ガソリン車同等の車両重量を実現している。

そうした意欲的な構造を採用したi3は、そのインテリアも凝りに凝ったものであった。ざらざらとしたユーカリのウッドパネルや、ケナフ麻の繊維が見える内装材、ペットボトル由来のシート表皮など、環境に配慮したサスティナブルな素材が巧みに配される。また、ドライバーの目の前に構えるメーターは、真四角のモニター形状。斬新かつセンスの良いインテリアに、乗り込むだけで「従来のクルマとは根本的に異なる未来のモビリティ」ということが誰もが理解できるはずだ。

車高は日本の立体駐車状でも使いやすい1550mm。コンパクトカーとしては、かなり背が高くなるため、ドライバーの視線は高い。窓が広く、視界は良好だ。後席に座ると、足元に十分なスペースがあり、顔のすぐ横に大きな窓があることもあって、窮屈さはまったくない。大人4人の移動でも快適だ。


◆「駆けぬける歓び」を体現した痛快な加速と骨太なハンドリング

では、その走りはいかがなものか? 

走り出した瞬間に、カーボンとアルミでできたボディが尋常のものではないことが分かった。格別にステアリングが重いわけでもないのに、手に伝わるのはとてつもなく高い剛性感だ。サスペンションも相当に締め上げられている。シティコミューターというよりもBMWの最新のスポーツモデルのハンドルを握る気分になる。

そして、もうひとつ驚いたのが、アクセルペダルのフィーリングだ。加速方向は普通なのだが、ちょっとアクセルを戻すと、まるでブレーキを踏んだような強烈な減速Gが発生する。いわゆる減速エネルギーを回生しているのだが、それが日本のEVやハイブリッドカーとは比較にならぬほど強く働かせているのだ。

試乗会場から出る脇道から大通りへの合流の一時停止では、ほぼブレーキ操作なしで止まる直前までもっていけた。赤信号にも、やや手前からアクセルを抜けば十分な減速を得られ、最後の止まる瞬間にちょっとブレーキで抑えるだけでいい。つまり、慣れてしまえば、街中のほとんどをアクセル・ペダルひとつで走ることができる。これは便利だ。無駄にパカパカと動かさず、アクセルの位置をキープすることができる人間であれば、この回生が強烈に効くアクセル・フィールにもすぐに慣れるだろう。

走行中の室内の静粛性は非常に高い。エンジン音のないEVだから当然なのだが、それでも、これまで乗ったことのあるEVと何かが違う?と考えてみて、ハッと気づいたのは、タイヤの発するロードノイズが格段に静かなのだ。このi3は、175/70R19という、直径は大きいくせにトレッドが細いという特別な専用タイヤを使う。幅を細くすることで走行抵抗を減らし、航続距離を伸ばすのが狙いであるが、抵抗の少なさによりノイズも小さくなっている。これも日本のEVとは大きく異なる点だ。

回生の強烈なアクセルフィールにも慣れたところで、少し足先に力を込める。アクセルを踏み込んだ瞬間から、レスポンスよくトルクが発生する。カーボンを贅沢に使った車体重量は1260kg。そこにガソリンエンジンでいえば2.5リットル相当の125kW(170馬力)/250Nmものパワーを低回転から発揮する。その痛快な加速感はスペックから想像するものを上回る。また、カーボンとアルミで構成された堅牢なボディに引き締まった足回りが生み出すハンドリングは、ソリッドで正確無比。重いバッテリーが床下にあり、上屋は軽量なカーボンであるから、重心は当然のように低い。そしてモーターが駆動するのは後輪。もちろん前後の重量配分はBMWらしく50:50。これで楽しくないはずがない。ドライバーの「走る」という気持ちに、クルマがきっちりと応える。エコカーといえども、BMWならではの「駆けぬける歓び」を濃密に味わうことができた。


◆レンジエクステンダー…標準車比130kgの重量差をどう見るか

続いてレンジエクステンダー(発電用エンジン)搭載車に乗り換える。電池だけのモデルよりも、647cc2気筒のエンジンを搭載した分、車両重量は+130kgの1390kg。さすがに、走り出した瞬間に「あっ重い」となる。しかし、数分もすれば、その重さも気にならなくなるほどの小さな差だ。レンジエクステンダー車だけに乗っていれば、まったく不満や違和感はないだろう。ちなみにレンジエクステンダーのエンジンはトランクの床下に秘められており、通常はのぞき見ることはできない。

このレンジエクステンダー・エンジンは、出力が25kW(34馬力)しかない。つまり、電池がカラカラで使えなくなったときに、このエンジンの力で発電しながら走ろうとすると、まったくパワーが足りない計算となる。しかし、このエンジンの狙いは「電池がなくなる前に働き出して、電池の消耗を抑える」ことだ。電力がなくなってから始動するのと、なくなる前に始動するのは大きく異なる。電力がなくなった後にエンジンだけで発電&走行をすると、どうしてもピークパワーが必要になる。つまり大きくて重いエンジンが必要になる。当然、重い分、航続距離の延長は少ない。

しかし、電池をバッファのように使うと考えれば、エンジンの発電量はピークではなく、消費電力の平均値を超えていればいい。だから、小さなエンジンでも十分に電池の消耗を抑えることができるという理屈である。これにより、電池だけのモデルの航続距離が最高180kmであるのに対して、レンジエクステンダー搭載車はそれを約300kmまで伸ばすことができるという。


◆標準車とレンジエクステンダーの実質的な価格差は12万円

レンジエクステンダー・エンジンの始動は電池残量6.5%から自動で行われる。そのとき2200~3000回転を基本に、最高5000回転まで回る。電池残量75%を切れば手動でエンジンを始動させ、電池の消耗を抑えることもできる。その稼働音は、ゆっくり走って耳を澄ますと、車体の後ろの方から、低く太い音が微かに聞こえる程度に小さく、振動もほぼ皆無。快適性をスポイルするものではなかった。また、エンジンが始動したとたん、メーター内に表示される電池の航続距離残量は数を減らすことをピタリとやめる。普段から長距離を走ることの多い人や、EVの航続距離の短さに不安を持つ人は、プラス47万円となるレンジエクステンダー搭載車を選ぶといいだろう。実際には、レンジエクステンダー搭載車の方が補助金は大きいため(標準車40万円/レンジエクステンダー車75万円)、標準車との差はプラス12万円まで圧縮されている。ただし、走りの軽快感という意味では標準車が一枚上なのは確かなことだ。

i3の価格は、標準モデルで499万円。レンジエクステンダー搭載車で546万円となる。街乗りを主眼とする全長4mほどの4人乗りコンパクトカーと考えれば、もっと安いガソリン車がいくらでもある。つまり割高感はぬぐえない。しかし、最先端の技術とBMWの情熱、ドイツならではの理想主義的な世界観を身に秘めた世界中が注目する最先端のモビリティと考えれば、その価格も違ってくる。なんといっても、BMWの『3シリーズ』セダンとほとんど変わらない価格なのだ。ある意味、バーゲンプライスと言ってもいい。
《鈴木ケンイチ》

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