先日のジュネーブショーでマツダが披露した『跳(ハズミ)』は、言うまでもなく、次世代『デミオ』を予告するコンセプトカーだ。量産モデルのデビューはまだ先だが、そのデザインを決めてからジュネーブに向けて『跳』を開発したことも言わずもがな。ショー会場で行った前田育男デザイン本部長とのインタビューは、お互いに量産モデルを意識したやりとりとなった。
◆アテンザは伸びやかさ、アクセラは凝縮感
まず前田氏に質問したのは、『アテンザ』や『アクセラ』との違いについてだ。マツダは『CX-5』から『魂動のデザイン』という新しいテーマに基づいてデザインを行っている。そのなかでアテンザは前後方向の伸びやかさで『魂動』のダイナミズムを表現し、アクセラは逆に凝縮感をテーマにした。
アクセラのデザインを取材したとき、「アテンザよりボディが小さいから、伸びやかさより凝縮感でダイナミズムを表現するのが得策と考えた」と聞いた覚えがある。となれば、もっとコンパクトなデミオでは、凝縮感をさらに追求するのが当然だろう。しかし跳のエクステリアは、むしろ伸びやかに見える。これはなぜなのか?
「このサイズで、アクセラと同じように凝縮感を表現しようとすると、フォルムのダイナミックさが消えるんです」と前田氏。「アクセラではフロントとリヤのフェンダーのカタマリをギュッと圧縮して見せたのに対して、跳ではリヤはギュッと圧縮しながら、フロントは勢いを前方に抜いている。(次世代デミオの)開発を進めるなかで、そうやらないとダイナミックにならないと判断して、アクセラとはフォルムのリズムを変えました」
アクセラのフロントフェンダーは、ドアから駆け上がったラインが頂点を経たところでフッと消える。面を丸く削り込んでラインを消すことで、凝縮感を醸し出したわけだ。それに対して跳は、頂点から前を丸く削りつつも、ラインは消さずにヘッドランプの上まで延長。その伸びやかさでフロントフェンダーに勢いを表現している。それは『魂動』に相応しいプロポーションにするためにも、必要なものだった。
◆Bセグサイズでも緊張感とダイナミズムを表現
『魂動』の狙いのひとつは、Aピラーを後ろに引き、キャビンの視覚的な重心を後ろに寄せて、猛獣が後脚に体重をかけて獲物に飛びかかる瞬間のような緊張感あるダイナミックさを表現すること。しかし「Aピラーを後ろに引きたいとはいえ、パッケージングを考えれば限度がある」と前田氏。フロントフェンダーの伸びやかさが、ここで功を奏した。「フロントフェンダーのラインは弓なりにカーブさせず、できるだけ真っ直ぐに前に抜くようにした。それによってフロントの長さ感を見せ、Aピラーを後ろに引いた印象を強調している」。
Aピラーを現行デミオより後退させながらも、前田氏によれば「室内空間は犠牲にはしていない」とのこと。「アテンザやアクセラでもやったように、ドラポジをきちんとしたい。そのぶんホイールベースを延ばしたけれど、それ以外の空間は現行デミオと同等です」。
ホイールハウスに邪魔されないペダルレイアウトを実現するために、前輪を前に出すのはCX-5からのマツダの方針。SKYACTIVエンジンは後方排気だから、排気系スペースのぶんだけ前車軸から前席乗員まで距離が前方排気よりも長くなる。それを活かしてペダルを最適配置しつつ、Aピラーを後ろに引いたダイナミックなプロポーションも実現してきた。跳も同じだ。
◆グローバルでひとつのボディで売れるように
『跳』のホイールベースは2585mmと、現行デミオより95mm長い。これはドラポジ改善の結果だとして、全長がそれを超えて190mmも延びているのはなせだろう?
「現行デミオの北米向けは、日本のデミオより全長が長い」と前田氏。バンパーの法規要件が北米とそれ以外の地域では異なるからだ。「しかし(次世代デミオは)グローバルにひとつのボディで売れるようにしたい。これが全長を延ばしたもうひとつの理由です」。ちなみに『跳』の全幅は1730mmだが、「それはショーカーだから。(次世代デミオは)5ナンバー枠に抑える」とのことだ。
CX-5には『勢=ミナギ』、アテンザには『雄=タケリ』という予告編のコンセプトカーがあった。それらを思い起こせば、今回の『跳』のデザインがどれだけ量産モデルに近いかもまた、言うまでもないことだろう。