初代のコンセプトは「モダンリビング」。二代目は「おもてなし」。そして3代目は「ティアナ・クルーズ」と、これまで謳ってこなかった走りの強化が主眼だった新しい『ティアナ』。その落としどころは実に巧妙でうまい。
日本人やアメリカ人は、とかくサイズで自動車の序列をはかる傾向が強い。即ち、大きいクルマが偉いと。そんな心を巧みにくすぐったのが、このティアナだ。3サイズ4880x1830x1470mmというサイズは、『フーガ』より僅かに小さくほぼ『クラウン』並のサイズ。新しい『スカイライン』より僅かに大きい。そして室内空間の広さはFWDの利点を生かし、ゆとりたっぷりで実に気持ちがいい。おまけに伝統となった助手席オットマンシートは、大型ミニバンのくつろぎ空間をも実現している。こんなクルマが最高値で304.5万円で買えてしまう(ただし消費税は5%換算)。つまり、大きくて立派に見えて、広々としたクルマが輸入車のハッチバックと同じ値段で買える。さらにいえば、サイズがほぼ同じような国産高級車の3割から4割安い価格で手に入るのだから、見事な落としどころだ。
今回強化したという走りに関してだが、メーカー側の説明としてはアクティブトレースコントロールの採用でコーナリング時の操舵性が向上し、改良型QR25、2.5リットル直4エンジンとCVTの協調制御によってスムーズな走り出しと中速トルクの充実で気持ち良い加速が断行できるとある。確かにその面ではうまく作りこんでいて、一般的な街中、高速の流れの中では十分なパフォーマンスを持っていると思う。勿論手放しで喜べない部分もあって、燃費を意識するあまりエンジン回転を常に下げようとする制御が働き、時速60km程度の中速域でアクセルの断続が入ると、エンジン回転はピョンピョンと上がったり下がったりを繰り返す。また、同じスピード領域で乗り心地にドタツキ感が出るが、これはケース・バイ・ケース。メーカー側も原因を調査中だという。これ以外の部分での乗り心地は実に快適だ。
メーカーの意図したライントレース性能は非常に良い仕上がりだと思う。少なくとも高速で速い流れの中でのコーナリングは非常に正確なライントレースが断行でき、ステアリング操作にストレスがないし、修正舵を当てる必要などまるでない。
いくつかの不満点を挙げておくと、まずECOスイッチがステアリングに隠れて非常に使いづらいところに装備されていること。折角豪華に見える作りをしていながら、ダッシュセンターの一番上の部分だけが、無塗装の材質を使っていて、豪華さをスポイルしている点など。ただ、お値段を考えると十分に及第点を与えられるクルマである。
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来36年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。