いまさら言うまでもなく、クーペは贅沢な乗り物だ。ゆとりのあるサイズだというのにドアは二枚。この『428i』にしたって正直、1825mmの全幅は、日本の道を一人で乗るには大きすぎる。ハンドルは太くごっつく、手ごたえはずしりと重い。
都心の交通環境のなかでスタートさせたとき、びびりに近い緊張感が身を包んだとしても、責められる筋合いはないと開きなおりたくなる。
しかし、ものの5分も走ると、さっきまでは緊張していたはずなのに、じわりじわりと走りが体に馴染んでくる。理由は428iの懐の深さだ。がっちりと守るようなボディ剛性に、細かいことは受け入れないほどのサスペンションのいなし具合。小心者の自分をこんなに見事にエスコートしてくれて、申し訳ないくらいである。さらに、8速ATの加速はなめらかだし、アクセルを踏んでもまだまだ余力が残りまくりのエンジントルクが頼もしい。たとえこのクルマのポテンシャルが発揮できない時速50kmの世界であっても、クーペの持つ贅沢気分を120%味わうことができる。
攻めの走りのときは、ドライビング・パフォーマンス・コントロールを駆使すれば、一瞬のうちに加速感~ボディ剛性までがキンと緊張感を持ち、逆にエコモードで節約走行すれば大きなクーペをひとりで乗っているというエコ的罪悪感も薄めてくれる。アイドリングストップもついているし。パワステは相変わらず重くて手ごたえがあるが、試乗車にはバリアブル・スポーツ・ステアリングがオプション設定されており、低速ではちょっときっただけで車両がさくっと向きを変えてくれ、駐車や小回りでの憂鬱感は解消される。
実用性とは対極の世界ではあるけれど、すべての演出は凛々しくて潔い。おひとりさま、間違いなくご満悦である。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
岩貞 るみこ │ モータージャーナリスト/ノンフィクション作家
女性誌や一般誌、ラジオなどで活動。イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーと、救急医療を通じて衝突安全を中心に取材をするほか、近年はノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。チャイルドシート指導員。国土交通省安全基準検討会検討員。同・リコール検討員。同・独立行政法人評価委員会臨時委員他、委員を兼任。