【FOMM コンセプト One 発表】共同開発でベンチャーの壁を乗り越える

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FOMMの鶴巻日出夫代表取締役
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  • 左から、FOMM代表・鶴巻日出夫氏、デザイナー・江本聞夫氏、大同工業常務取締役・新家啓史氏、日本特殊陶業執行役員・鈴木隆博氏
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タイ市場をターゲットに小型EVを開発

2月19日、FOMMは、大同工業株式会社と日本特殊陶業と共同開発した小型電気自動車『FOMM コンセプト One』を発表した。

FOMMは鶴巻日出夫氏が2013年に設立した会社だ。鶴巻氏は、これまでスズキでオートバイの設計、トヨタの子会社アラコにて小型電気自動車「コムス」の企画・開発に携わり、2012年にはEVの先行開発を行うSIM-DRIVEにも所属。小型EVの開発に十分な実績を持つ人物だ。

その鶴巻氏が、わずか1年でまとめあげた小型電気自動車が、FOMM コンセプト Oneである。軽自動車よりも小さな車体に、大人4人が乗れる空間を確保。前輪のインホイールモーターと、パイプフレームの骨格に樹脂パネルを組み合わせたボディは水に浮かぶ構造としている。モーターの開発は日本特殊陶業、フレームは大同工業が担当した。また、リチウムイオンバッテリーは取り外し式とし、リース販売を想定するという。

また、ビジネス的には日本ではなく、ASEANをターゲットとして2015年にタイでの生産・販売を目標にするという。そこでの販売価格は、「30万バーツ以下。日本円で100万円以下としたい」と、鶴巻氏は言う。ただし価格については、将来的に現地調達化を進め、「ゆくゆくは50万円以下にしたい」とも。そして、現地の生産は、共同開発のパートナーである大同工業の関連のタイ工場を使い、販売も大同工業との付き合いのある現地商社を利用することを検討しているという。

EVベンチャーに立ちはだかる壁をパートナーとの補完関係で克服

FOMM コンセプト Oneの概要をまとめると、EV開発の実績を積んできた鶴巻氏のプランを、大同工業と日本特殊陶業が協力するという構図だ。

実は、EVベンチャーにとって非常に大きな課題のひとつに、車体はどうするのか?という問題がある。かつて「モーターも電池も購入することのできるEVは、家電のように誰にでも作ることのできる製品」と言われた時期があった。しかし、実際のところ、時速数10kmで走行するシャシーを作るには高い技術力が必要だ。かつて、ゴルフ場のEVカートをパワーアップして公道走行可能としたEVに試乗したことがあったが、あきらかに車体の剛性不足で直進安定性が悪かった。また車体の前後左右の重量配分が悪く、右折と左折で挙動が異なるという、非常に乗りにくいEVだった印象がある。

さらに、車体にまつわる問題として、どのように量産するのか?という頭の痛い問題もある。ちょい乗り使用の安価なEVにしようとすれば、車体はとにかく安くなければならない。しかし、手作りでは量産性が悪く、安く作るのは難しい。モノコックボディを求めると、とびきり高額な設備投資が必要となる。

そうしたEVベンチャーが乗り越えねばならぬ「車体製作」のハードルをFOMM コンセプト Oneは、ノウハウと生産設備を備えるパートナーである大同工業とのアライアンスでクリアしたのだ。

ちなみに大同工業株式会社は、オートバイのチェーンを製造するサプライヤーだ。チェーンだけでなくオートバイ用のスイングアームの生産も行っている。つまり、アルミパイプを溶接してフレーム状に作るのはお手の物。さらに、タイに「Daido Sittipol」社という生産拠点を持っていたことも、今回のプロジェクトには幸いなことであった。

また、EVの重要パーツのひとつであるモーターは、日本特殊陶業が開発した前輪用インホイールモーターを利用する。もちろんEVベンチャーにとって、モーターの確保も非常に大きな問題であり、ここもFOMMコンセプトOneは共同開発社の力を得て実現している。

そのモーターを提供する日本特殊陶業は、「NGKスパークプラグ」を生産する会社だ。世界の自動車が内燃機からEVに置き換えられてしまうと、当然、スパークプラグの需要はなくなってしまう。これは、オートバイ用のチェーンを作る大同工業でも同じだ。明日にでも、すべてのクルマがEVに置き換えられることはないが、なるべく早く時代の変化に対応しておきたいという気持ちがあるのだろう。

FOMM コンセプト Oneが次に超えるべきハードル

魅力的な車両コンセプトと、量産を可能とする体制を整えたFOMM コンセプト One。しかし、この先の道のりは決して平坦なものではない。最初の難関は、タイにおける認可の獲得だ。実は、タイにはFOMM コンセプト Oneに該当する車両区分が存在しないという。そのため、鶴巻社長は「まず、欧州の規格“L6E”を取得。その規格を携えて、政府にかけあうつもりです」と言う。そして、規格のクリアと並行して進めねばならぬのが、樹脂ボディをはじめとする車体パーツを提供する現地サプライヤー探しだ。また、販売網の構築の手配も重要な案件だ。

しかし、なんといっても最大の問題はコストダウンだろう。

なぜならタイには40万バーツ(日本円約120万円)で日本ブランドのコンパクトカーが発売されているのだ。また、インドネシアにおいても、同じように100万円ほどの日本車が存在する。航続距離100km以下の近距離専門のEVであれば、最低でも鶴巻氏が述べたように、30万バーツを切らねば勝負にならない。ただし、最初は苦戦しても、時間をかけて生産コストを下げて、鶴巻氏の理想とする15万バーツを切れば、状況は変わるのではないか。

会社設立から、わずか1年でコンセプトカーを仕立て上げた鶴巻氏。このスピード感こそがベンチャーならではのものだ。この先も同じスピード感を保つことができるのか?それともシフトダウンして、じっくり取り組むのか?どちらにせよ、芽吹いたばかりの新事業の行方に注目したい。

《鈴木ケンイチ》

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