ホンダが昨年12月に発売した小型のクロスオーバーSUV『ヴェゼル』のハイブリッドモデルに短時間ながら試乗する機会を得たのでリポートする。
◆フィット比200kg増に対応したパワートレーン
ハイブリッド変速機はドイツの部品メーカー世界大手シェフラーと共同開発した7速DCT式自動変速機に薄型モーター1基を組み合わせた「i-DCD」。タイヤの大径化に対応するためファイナルギアの減速比が変更されているが、基本的に昨秋発売された『フィット』のハイブリッドシステムと同一と考えていい。
フィットハイブリッドと大きく異なるのはエンジン。型式こそ異なるものの、フィットのスポーティグレードである「RS」とほぼ同一の気筒内直接噴射式1.5リットル直4。最高出力97kW(132ps)、最大トルク156Nm(15.9kgm)と、このクラスとしてはかなり強力なユニットで、FWD(前輪駆動)で1270kg~、AWD(4輪駆動)で1350kg~と、フィットハイブリッドに比べて200kg近い重量増に対応している。
試乗車はトップグレードの「Z」。インテリアカラーはZだけが選択可能というジャズブラウン。ダッシュボードやセンターコンソール、ドアのアームレストなどにタンブラウンがあしらわれた車内は結構お洒落で、「単なるクロスオーバーSUVではなくスペシャリティカーを目指した」(本田技術研究所関係者)という意図は伝わってくる。もっとも、クラスレス感というよりはコンパクトなのに高級SUVライクに背伸びをしましたというわざとらしさが漂っているというのも正直な印象。「エキサイティング"H"デザイン」と称するホンダのデザイン改革は、道半ばといったところだろう。
◆走りは軽快、燃費走行のポテンシャルは未知数
試乗コースは逗子市街地が主体。7速DCTハイブリッドはフィットと同様、変速レスポンスが素早い、スロットル操作に対するダイレクト感が強いという美点と、中間ギア段でクルーズしている時にスロットルのオン、オフで若干のバックラッシュ(ガタつき)が伝わってくるという欠点が併存している。
車重はフィットより大幅に増えたが、エンジン換装によってトルクも大幅に増強されているためか、加速感は軽快であった。暖気済み、1名乗車、エアコンOFF、ECON(省燃費)モードOFFという条件で夕刻のラッシュで混雑気味のルートを走り終えた時の平均燃費計の数値は18.4km/リットル。筆者は「i-DCD」の運転経験が少なく、ドライビングのツボを今ひとつ掴みきれていないため凡庸な数値に終わったが、もっと燃費良く走るスロットルワークやクルマの運動エネルギーコントロールの方法がありそうだった。
◆静粛性は高いが乗り心地は今ひとつ
次に快適性について。車内の騒音はBセグメント(サブコンパクトクラス)のSUVとしてはきわめて小さいものであった。タイヤハウスやフロアからの騒音侵入はよく抑えられており、窓ガラスからの環境音の透過も、このクラスとしてはかなり良好であった。静かなドライブを楽しむ資質は十分に持ち合わせている。
乗り心地は悪いというわけはないが、フラット感に欠けるのと、路面の荒れたところを通過した後の微振動の収まりに若干の難があるのが惜しいポイント。コンパクトでありながら重量級SUVのような重厚感のある振動減衰を演出しようとしたのが裏目に出ているような感触だった。
ヴェゼルのショックアブゾーバーには『アコードハイブリッド』『オデッセイ』に続き、「振幅感応型ダンパー」なる高機能部品が採用されている。大きな揺動と微振動を別々のピストンで吸収することでハンドリングと乗り心地を両立させるというものなのだが、このタイプのショックアブゾーバーは微振動と大きな揺動を複合的に処理するチューニングが非常に難しいものだ。
アコードハイブリッドでも感じられたことなのだが、2ピストン式ショックアブゾーバーのセッティングのノウハウがまだ十分に蓄積されていないものと推察された。技術投入の方向性自体は悪くはないので、年次改良やマイナーチェンジでの熟成に期待したいところ。ちなみにこの評価は同格のライバルとの比較で劣等というわけではなく、「これだけの技術を使うからにはこのくらいのレベルの仕上がりが欲しい」という期待値に対する充足度の話であることを但し書きしておく。
車幅が177cmとやや大きいことを除けば、ヴェゼルは非常に扱いやすいSUVであった。コンパクトカーのカスタマーで、「フィットや『アクア』は山ほど走り回っているからできれば違うクルマにしたい」「次は一風変わった、しかし実用性は高いクルマが欲しい」と考えている向きにはおあつらえのモデルであろう。
また、多少ちぐはぐな感はあるが、上級感を狙った演出も盛り込まているので、スペシャリティカーが欲しいという層にとっても検討に値する1台と言えそうだ。