【NVIDIA Manufacturing Day 2014】スパコン並み性能実現、車載GPUはいかにして活用されるか

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NVIDIAのGPUはスパコンには欠かせない存在
  • NVIDIAのGPUはスパコンには欠かせない存在
  • 【NVIDIA Manufacturing Day 2014】スパコン並み性能実現、車載GPUはいかにして活用されるか
  • Green500のトップ10はNVIDIA GPU搭載スパコンが独占
  • スパコンこそ環境性能が問われる
  • 東工大が開発したTSUBAME-KFCは特殊オイルにサーバーが浸る
  • 温度特性が改善され演算速度にも好影響
  • NVIDIAがオートモーティブ用に開発したGPU。CES14で発表された
  • センサー処理、カメラ処理にGPUが必要

NVIDIAという会社は、PCゲームのマニアならばビデオカードを製造する会社として馴染みのある名前かもしれない。同社は、GPU(Graphics Processing Unit)と呼ばれる高速かつ高機能な画像処理プロセッサチップを製造している。最近では、年頭にラスベガスで開催されたCES 14で発表された「オートモーティブアライアンス」に唯一プロセッサベンダーとして名を連ねている会社として、自動車業界でも注目を浴びたメーカーでもある。

しかし、近年同社のGPUは、CAD/CAEの他スーパーコンピュータにも採用が進み、エンジン・ボディの設計部門でシミュレーションをやっている人なら、アウディやホンダ、Googleといった企業によるアライアンスにNVIDIAが参加していることに違和感を感じないかもしれない。そのNVIDIAが「NVIDIA Manufacturing Day 2014」という製造業向けの技術カンファレンスを開催した。

同カンファレンスでは、NVIDIA Japan マーケティング本部 部長 林憲一氏、NVIDIA Manufacturing Industries GM Andrew Cresci氏、東京工業大学 学術国際情報センター 遠藤敏夫准教授らによるセッションが行われた。林氏は、NVIDIAのGPU(Tesla K40)がIBMのスーパーコンピュータ、スイス国立スーパーコンピューティングセンター(CSCS)のPiz Daint(Cray製のスパコン)、東京工業大学のスパコンTSUBAMEに採用された例を紹介し、この領域へのGPUの役割を強調した。林氏がとくに主張したのは、同社のGPUの環境性能だ。大規模データセンターでもそうだが、スーパーコンピュータには消費電力と冷却の問題が常につきまとう。プロセッサの熱密度は原子炉の炉心よりも高いというのは業界では有名な話だ。

この点について、遠藤准教授は、現在のスーパーコンピュータセンターの電力の限界は20~30MWとされているため、プロセッサの速度やスーパーコンピュータの単純な処理速度(FLOPS:1秒間の演算回数)を上げるだけでは意味がないとする。演算速度はすでにPFLOPS(ペタFLOPS:1秒間に1000兆回の浮動小数点演算を実行)のオーダーに入っているが、これをEPLOPS(エクサFLOPS:1秒間に100京回の浮動小数点演算を実行)オーダーまで上げるとなると、1Wあたり50GFLOPS以上の環境性能が必要となるという。

TSUBAMEでは、Kepler Fluid Cooling(KFC)技術を採用してこの環境性能を追求している。KFCとは、NVIDIAのKeplerアーキテクチャGPUを搭載したサーバーユニットを特殊な油にラックごと浸して冷却する技術である。TSUBAME-KFCは、現在4.5GFLOPS/Wを実現し、スーパーコンピュータの環境性能を評価する「Green500」において1位を獲得している。また、Green500の上位10台は、すべてNVIDIAのKepler GPUを搭載したものとなっている。

Kepler GPUは自動車にも搭載されている。CES 14で発表された「Tegra K1 VCM」は、4つのCortex-A15プロセッサと192にGPUコアを搭載したプロセッサ(64ビット版のVCMは2つの独自ARMプロセッサを搭載)であり、すでに450万台の自動車に搭載され出荷されているという。用途はADAS(先進運転支援システム)のために様々なデータをリアルタイム処理する。アクティブセーフティ、歩行者検知、レーンキープ、ブレーキアシストなどの機能には、カメラ映像の処理、レザースキャナーやレーダースキャナーの信号処理、解析が必要だが、すでにこれらの技術には複数のカメラやセンサーのデータをリアルタイムで処理する必要がある。そのため、スーパーコンピュータ並のプロセッサが不可欠となっている。

また、テレマティクスやIVIの分野も同じ傾向がある。動画などのリッチコンテンツの処理ニーズが高まり、メーターパネルなどがナビ画面と統合化されつつあり、自動車にもマルチファンクションディスプレイの採用が進んでいる。EVのテスラのコンソールがその代表例といえるが、BMWやアウディなどのメーターパネルにもNVIDIAのGPUが採用されている。

NVIDIAの技術は自動車産業においてソフトウェアの領域でも関わりが深い。ボディ開発において風洞実験と同等なくらいに活躍しているのが各種のシミュレーションプログラムだ。CAD/CEAの分野でパフォーマンスを向上させ、より多くのセルやポイントのシミュレーションを可能にするのがGPUでもある。AbaqusやANSYSといったシミュレータプログラムは、NVIDIAのGPUに対応したライブラリやパッケージをサポートしている。

そして、高度な演算が必要な設計やシミュレーションにもクラウド化の波が押し寄せている。CPUやGPUリソースをクラウド上に構築すれば、エンジンやボディの設計チームをグローバルに構成することも可能であり、図面データなどはクラウド管理されるためセキュリティも確保される。

以上のように、製造業における最新GPUとクラウド環境の効果を語ったのはAndrew Cresci氏である。Cresci氏は、日本の製造業は最大限GPUを活用して設計を行っている国のひとつだという。講演後、Cresci氏にADASや自動運転について今後のNVIDIAのロードマップと、この分野での同社のポジションについて聞いてみたところ、「ADASや自動運転については、今後画像処理や地図データや3次元データとのマッチングなどの技術がさらに重要となり、自動車メーカーでも関連のエンジニアのプレゼンスが高まってくるでしょう。そして、この市場のける当社のポジションは単純です。GPUによって業界を支援することにあります。」と答えてくれた。

《中尾真二》

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