【インタビュー】カーナビで“おもてなし”の歴史を紡いできた15年…カロッツェリア 楽ナビ 開発者

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2013年、パイオニア・カロッツェリアの『楽ナビ』誕生から15年を迎えた。楽ナビと言えば、押しも押されもせぬ市販カーナビのベストセラーブランド。2012年6月には累計出荷300万台を超え、その人気はとどまることを知らない。

カーナビという先進IT機器を国内市場に浸透・普及させた立役者として、今回10年以上も前から楽ナビの企画・開発に携わったカーエレクトロニクス事業統括部 カー市販事業部中根祐輔氏と、現在楽ナビの商品企画を担当している同部の中島史晴氏に話を聞いた。楽ナビのブランド力の源泉を垣間見ることのできる、貴重な証言に耳を傾けてみたい。


◆クルマ好き向けのマニアックな商品からの脱却を目指す

中根氏がカーナビに携わることになったのは、VICSがスタートした96年から。「入社後しばらくは東北地方で家電の営業担当をしていたのですが、あるとき、マーケティングの希望を会社に出したら「カーナビのマーケティングをやって下さい」との連絡を受け、異動となったのです」と当時を振り返る。

まだカーナビの市場が立ち上がっていなかった当時、販売チャネルも現在とは大きく異なるものだった。「当時はカーナビ全体の15%ぐらいを家電チャンネルで売れていたんです。家電チャンネル向けの商品も作りましょ、との計画もある中、営業経験のある私が異動になったのだと思います」。

異動した当初、当時としてはカーナビという特殊な商品ゆえに、ユーザーや商品企画の現場に接するたびに、中根氏はある種の違和感をいだいていたという。

「家電とは違ってカー用品の開発者はかなり専門的というか、マニアックでクルマ好きが多く、どっぷりとその世界に浸かる人が多かったんです。それだけに、異動後は何か今までと違うなぁ、と感じていましたね」(中根)。

パイオニアでは、家電チャネル向けのカーナビ(「ロードナビゲーター」シリーズ)もリリースしたが、販売実績は今ひとつ伸びない。そんな折、社内で「こんなのどうだろう」と提案したのが『楽ナビ』だったという。


◆「カニ食べに行こう」のノリで

楽ナビのアイディアが発案された当時を振り返り、中根氏はこう述懐する。「当時からカーナビは高機能化路線を驀進中でしたし、それを普通の人が使いこなせるのは難しいとの判断はあったのです。カーナビ初心者にも使いこなせるナビを投入すべきと思っていた矢先のことでしたから、この提案なら「行けるかも」と思いましたね。当時、女性デュオの「カニ食べに行こう」が流行っていて、そんな軽いノリの気分で使えるカーナビのイメージだったんです」。

しかし問題があった。アイディアやコンセプトは出されたものの、肝心のデバイスがなかったのだ。

「何を使ってどうするのかまでは落とし込めてなかったんですね。それから少し経って、再びメモ書きで見せられたのが「音声認識システム」を使うプランでした。「どちらまでですか?」「○○まで」といった、タクシーでのやり取りで目的地が設定できる、当初の楽ナビが持つ基本コンセプトのベースがここに登場したわけです」。

コンセプトとデバイスがここに初めて揃い、音声入力をベースにした“誰にでも使いやすい”楽ナビの企画は、ほどなく認められて商品化へと進んでいった。

その後、2000年初めころに中根氏はマーケティングから商品企画に異動となる。その2000年の秋に、楽ナビは「AVIC-DR1000」でDVD-ROMを初採用する。中根氏が商品企画へ移ってからの最初の仕事はこの『DVD楽ナビ』の商品企画だった。


◆DVD化で機能的な制約が取り払われた

楽ナビが大ヒットに繋がる大きな節目となったのは、DVD化されたことが大きい。CD-ROM時代は容量も少なくディスク交換の作業も手間だった。読み取りの速度も遅く、実用面で十分とは言えなかったが、DVD化によりディスク1枚で済むようになり、読み込み速度も高速化された。機能面もさることながら、DVD化された「楽ナビ」で印象的だったのは、当時放映されたCMや雑誌などの広告展開だろう。ランドローバー『ディスカバリー』と一緒に親子が釣りしている内容で、この広告を見ていると、「オレも息子と出かけてみようかな」と、そんな気になったものだ。

中根氏はDVD楽ナビが企画化されていた当時の印象的なエピソードをひとつ紹介してくれた。

「「クルマは誰のものか」というアンケートを集約した際、『サイバーナビ』のユーザーはクルマを自分の部屋と認識している人が多かったんです。それに対して、家族にとってのクルマは家の延長で、家と部屋ではだいぶ意識が違っていて主導権は奥さんと子供にある。さらに子供の成長や夫婦関係が推移していく中で、商品的にサポートできていない期間、つまり“Second Drive”があることに気付いたんです。ここにターゲットを置くべきということで、DVD楽ナビ誕生の背景があったのです」(中根)。

この話を聞けば、先に挙げた広告が狙おうとしていたターゲットも合点がいくというものだ。


◆リモコン、タッチパネル…新たなインターフェースの採用

DVD化によって、ナビゲーションで実現できる機能もさらに複雑化・高度化したが、“使いやすさ”という面では、さらに一歩押し進めっていったという。その代表が、使う頻度の最も高い4つの操作をワンタッチで実行できる「Doリモコン」の採用だ。

「Doリモコンでは、ドライブに必要な世界観をこの中で完結しようとのコンセプトを持たせました。たとえばリモコンのボタンを「発話」から「お出かけボタン」に変えたんです。機能は一緒なんですけど、より機能を分かりやすくするための変更だったんです。DVD化することで容量は増えるものの、機能的に大きく変わるものじゃない。そこでまずは機能をよりわかりやすくすることから始めようと動いたわけです」(中根氏)。

リモコンに「自宅」ボタンが初めて採用されたのもこのときだ。「自宅に帰る」ためのダイレクトキーは、今のナビでは当たり前だが、これほどよく使うボタンはない。

「「自宅」ボタンはサイバーナビにもなかった機能で、楽ナビらしさを最も感じられる部分でした。この家族向けに特化した機能と、価格を身近にしたDVD楽ナビをアピールするために生まれたのが先のコマーシャルというわけなんです。この辺りの効果が徐々に浸透し、DVD楽ナビの第二世代からはおかげさまで売り上げも劇的に増えました。

楽ナビは音声認識からリモコン、さらにはタッチパネルへと、貪欲に新たなインターフェイスの採用へ取り組んでいった。もちろん、その根底には『楽ナビ』が持つ「高性能を使いやすく」というコンセプトがある。中根氏は、今後のトレンドは音声認識に回帰するのではないか、と推測する。

「我々としては『楽ナビ』が登場する前、95年ぐらいだと思うんですが、アメリカのTV映画「ナイトライダー」の世界に少しでも近づけたい、そう思っていたんですよ。ただ、当時は認識させるために対応するための辞書を用意することから始めなきゃいけなくなり、使う側もそれに合わせて発話するといった、主従逆転の関係になってしまったんです。でも、今は人工知能技術が進んで、サーバーに入力したキーワードを送信するだけで内容を理解してくれるようになりました。ようやく本当の意味での音声認識システムが利用できる環境になって来たんだと思います」。


◆楽ナビはコンセプトが命

さて、次に現在まさに楽ナビの開発に取り組んでいる中島氏の話に耳を傾けてみたい。中根氏が語ってくれた、使いやすさを徹底的にこだわるコンセプトはどのようにいまのプロダクトに反映されているのだろうか。

中島氏の入社は99年。入社当初はOEMのカーオーディオの電気設計をしていたという。市販部門に移ってきたのは08年で、当時に登場した2世代目のAirNaviの設計に携わり、09年に現在の商品企画に異動。商品企画では11年までAirNaviを担当し、12年からはAirNaviが楽ナビに統合されたことで、そのまま楽ナビを担当することになったという。

中島氏が市販部門に異動してきたころには、すでにサイバーナビも楽ナビもカロッツェリアの2大カーナビブランドとして揺るぎない地位を築いていた。中島氏が商品に携わる以前、この両ブランドはどのように映っていたのだろうか。

「サイバーナビは青、楽ナビはオレンジ。すでにこの色分けがハッキリとしていた時期なんで、差別化がわかりやすかったという印象は持っていました。楽ナビはコンセプトが命だと思ってます。簡単に使ってもらうのが楽ナビの基本。カーナビはお店に行って、取り付けてもらって…と積極的に手に入れるものなので、クルマの中だけの特別な存在です。その中でわかりやすさはとても重要で、音声認識システムやDoリモコンの採用はそれを具体化する一つの方法だったと思います」


◆最新機種にもオリジナリティのある“簡単デバイス”を積極投入

このような流れに合って、中島氏は、新たなインターフェースとして「エアージェスチャー」を2012年モデルに、さらにはサイバーナビで先行対応していた「AR HUD(ヘッドアップディスプレイ)」を2013年モデルに対応させた。これらはどのような狙いと経緯で登場したのだろうか。

「クルマの中での操作にはいろんな手法があります。リモコンにせよタッチパネルにせよ、それぞれに一長一短がありますが、操作する際はその対象に触りにいかねばならないわけで、この時に集中力がそちらへ移ってしまうことになります。運転行為以外のものに注意を向けさせないために、手をかざせばショートカットメニューとして機能し、左右に振れば指定した機能が使えるエアージェスチャーを導入しました。」

「AR HUDは、ナビ画面を全く見ずに、HUDを見ているだけでも目的地に到着できることを目標に開発しました。「ここです」表示も曲がる分岐点を音声だけでなく視覚面でもサポートするために追加した機能です。ルートガイドの情報を明確にすることで『楽ナビ』らしいインターフェイスを実現したつもりです」


◆楽ナビ流のおもてなしを目指して

最後に将来の楽ナビの方向性について、中根、中島両氏に尋ねた。

「かつては『楽ナビ』を『サイバーナビ』の“デチューン版”との位置付けをしていた時期もありました。しかし、今は世の中にかなり安い製品が登場していて、『楽ナビ』はすっかりリーズナブルとは言えなくなってしまいました。となれば、『楽ナビ』ならではの機能を持たざるを得なくなっているんです」と中根氏。

中島氏も「業界が成熟している中にあって差別化が難しくなっています。でも店頭でデモ機に触れるとき、ユーザーの中にはクルマの中で操作している自分が見えているんじゃないかと思うんです。そんな時に選ぶメリットが分かるようにしないといけない。今後はそうした視点での開発もしていくべきと思ってます。単に機能面での○×にとどめた訴求にしたくはないんです」と口を揃える。

「将来的には、当社の“繋がる”機能である、スマートループのデータを活用し、過去の使用履歴を楽ナビが拾い出して、ユーザーに合わせた最適なサポートを行うエージェント機能が必要になってくるのだと思います。こうすることで通信を身構えて使うのではなく、委ねてくれることで自然に使えるようになる。それが楽ナビ流の“おもてなし”なんだと考えています」(中根氏)
《会田肇》

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