【トップインタビュー】ヤマハ発動機 柳弘之社長…コンセプトとデザインは譲れない

モーターサイクル 企業動向

ヤマハ発動機が2013年から事業規模の一段の拡大を図る3か年中期計画を始動させた。就任4年目を迎える柳弘之社長は、期間中に新ジャンルのモビリティを含む250の新モデル投入を打ち出した。

「ヤマハらしさ」にこだわり、リーマン・ショック後に縮んだ商品開発を強化し、攻めに転じる。

《インタビュアー:ジャーナリスト・池原照雄、レスポンス編集長・三浦和也》

◆新モデル投入とコスト低減が両輪の新中期計画

----:2012年末から円高の修正が進んでいる。年明けにスタートした新中期計画(13~15年)の追い風にもなりそうです。

柳弘之ヤマハ発動機社長(以下敬称略):世界の市場を概観すると、多少米国に陽が射しているくらいで、昨年とそう変わっておらず、好転しているわけではない。ただ、経営というのは気持ちや意識の部分もあるので、ポジティブなことがあると前向きになれる。為替の好転というのは、われわれ輸出企業には好ましいことだ。

----:10年に社長に就任し、直ちに取り組んだ3か年の中期計画(10~12年)の自己評価は。

柳:12年までの中期計画はリーマン・ショック後の業績悪化からV字回復し、安定化させるというのを基本としてきた。数字的には連結売上高1兆4000億円で営業利益率5%を確保し、財務体質の改善も進めるという狙いだった。売上高などの目標は12年の新興国経済の減速もあって未達成となった。ただ、30%以上を目標とした自己資本比率や、1以下を目指したデッドエクイティレシオ(D/Eレシオ=有利子負債比率)は達成して改善された。また、国内外の生産拠点集約などの構造改革、世界でのR&Dやデザインの強化など事業態勢の整備も計画通りに進めることができた。

----:それを受けて今年13年からの新中計では、15年に売上高1兆6000億円、営業利益率も5%ラインを改めて狙っていきます。

柳:前の中期計画での反省点はふたつある。ひとつはリーマン・ショック後に開発費を相当絞ったものだから、昨年あたりからその影響がでて商品の鮮度が悪くなった。もうひとつはコストダウンであり、不十分だったのでこれは次の段階に行かなければならない。この2つを新中計で盛り返すというのが大きな流れになる。

商品のところは止めていた開発をもう一度復活させ、これまで仕込みをやってきた。結果として新中計では3か年で250のニューモデルを投入する。これはマリン分野などを含むモデル数だが、前中計の2倍に相当する。「ヤマハらしさ」を込めた250の商品を展開していく。

コストダウンについては3年で900億円を計画しているが、グローバルでのモノづくりを変えながら、かつグローバルな調達と供給を拡大していくことで達成を図りたい。これまで仕込んできたことを推進し、持続的な成長路線に乗せていくのが新中計となる。

◆プラットフォーム化で規模効果を追求

----:柳社長の「ヤマハらしさ」とは?

柳:3つあり、まず新しいトレンドをつくるコンセプト、そして高性能を実現する技術力、さらにデザインだ。性能につながる技術は各社で勝ったり、負けたりの競争が続くが、コンセプトとデザインだけは譲れない。

----:新中計におけるコストダウンでは、主力の2輪車でプラットフォーム(PF)を大胆に導入し、開発の集約とバリエーションの拡大を図ることにしています。

柳:当社の場合、PFという考え方は少なく、わりと技術者が好きに造るという風土だった。そこにヤマハらしさが生まれたのかもしれない(笑)。だからエンジンもシャシーもやたらと色々なものがあった。当社は現状でざっと700万台を生産しているが、700万台で取るべき規模効果が出ていない。ホンダさんは当社の倍くらいやっておられるが、いい規模効果を出していると思う。

われわれの集約度が遅れているということであり、今後はPFによる部品共用化などで規模効果の拡大を図っていく。いいPFをつくることでバリエーションの拡大も迅速にできるようになる。2輪車の開発は、エンジンの刷新を含めると通常3年くらいかかるのだが、日本の既発センターをマザーとして基本PFを開発し、各地域で現地テイストに合わせた商品開発を行い、1年から1年半で新モデルを投入できるようにしたい。

----:部品の集約化も進め、グローバルな調達先は400社から半減させる方針だが、部品産業の疲弊につながりませんか。

柳:2輪車の場合、発注する重要部品は大体80品目あり、現在は約400社でやっていただいている。その80品目については今後グローバルで200社程度に絞っていき、コストダウンのつくり込みを強化したい。だが、400社には他の部品もお願いしているので、取引先を半減させるということではない。ただ、重要部品のところでの絞り込みは避けて通れないと考えている。

----:海外での開発や調達の機能拡充も進めています。

柳:海外の主要なR&D拠点は、アジア(バンコク)、欧州(ミラノ)、台湾(中歴)、中国(上海)と4か所あるが、すべて車両の開発を行う拠点へと格上げさせていく。この1月にはインドで5番目の開発拠点を立ち上げる。インドの場合はまずは市場品質に合ったコストダウン活動に取り組んでいきたい。PFの集約によるバリエーションの拡大やコストダウンを図るという方針と一体的に、海外の拠点では開発、調達、生産の機能強化を進めていく。

----:一方で2輪車は新興国中心のビジネスとなっている。規模拡大に貪欲であることの一方で金融危機や規制強化などによる急激な需要減といったリスクにはどう手を打ちますか。

柳:国ごとの生産から地域での補完ということになる。ASEANではインドネシア、タイ、ベトナムというわれわれの大きな生産国があるが、機種ごとにある国で集中生産して補完するという取り組みを昨年から始めている。世界で事業をするうえで地域リスクというのは避けて通れないので、そういうことを念頭に投資を判断していくことがより重要になる。

◆電動化は3本立てで世界に「面」の展開を

----:SPV(スマートパワービークル)と呼んでいる電動化車両の展開については。

柳:最大の2輪車市場である中国の大都市では、規制によってエンジンによる2輪車は売れなくなっており、電動自転車が発達している。2輪トータルでは増えているが、エンジンの割合が減り、電動車が増加している。中国のみならず電動化は避けて通れない技術であり、われわれは将来に向けて3本立てで世界に「面」を張って行こうと考えている。

ひとつは電動アシスト自転車の『PAS』、2つ目が中国向けの電動自転車、そしてEVつまり電動2輪車だ。それぞれ技術開発の方向性があり、PASでは高機能化を進めている。アシストを制御するためのスピード、トルクのセンサーに加え、回転センサーを追加した「トリプルセンシング」技術を採用し、より乗りやすくしたモデルを1月中に国内投入する。中国の電動自転車では、間もなく従来の鉛電池ではなくリチウムイオン電池を搭載したモデルを商品化する。

EVについては台湾政府が補助金を出すなどもっとも積極的だ。われわれは2年前に出した『EC-03』の開発を台湾に移して台湾政府のプログラムと連携させている。まだ価格が高いので低コスト化に向けた開発が重要だ。3か年の新中計で低価格モデルを商品化し、台湾、日本へと投入していく。電動化のコア技術はバッテリー、モーター、コントローラーの3要素であり、バッテリーについてはパートナーとグローバルな調達体制を構築していく。モーターとコントローラーは内製で開発して競争力に繋げたい。

◆多様化するモビリティのなかでポジションをつくる

----:新中計では今年13年夏に「新オフロードビークル」や「新コンセプトモビリティ」を発表する計画も示しています。

柳:オフロードビークルについては6月に発表予定なので、現時点ではご想像にお任せしますということ(笑)。

----:「新コンセプト」の方は、電動化を念頭に世界的に広がりのある商品となるのでしょうか。

柳:順番はあるが、先進国だけでなく新興国を含む全世界へ向けた商品となる。(動力は)エンジンと電動の両バリエーションが出てくることになる。

----:アジアの新興国では2輪と4輪の中間的なモビリティも存在する。そうした分野を発展させるのは4輪メーカーよりも2輪メーカーにチャンスがあるのでは。

柳:恐らくモビリティは、今までの2輪、4輪だけでなくバラエティが増えていく。欧州に中間的な小型車両の規定があるように、世界でもそうした形になっていくのだろう。動力は電動であったり、エンジンであったり、一部ではハイブリッドということもあろう。先進国は高齢化が進んで小さいモビリティの出番があるし、新興国では道路インフラの問題もあって一気に大きなモビリティが普及するということにはならない。そのようにモビリティは多様化するという前提でわれわれは考えている。開発においては2輪メーカーの機動力、4輪メーカーの大量生産技術といった具合に、それぞれ得意とするクラスが存在する。車両規模によっては技術がミックスされるような協力体制もありうるのではないか、そのようなイメージをもっている。

----:ヤマハの新コンセプトモビリティも多様化への対応ということでしょうか。

柳:多様化するなかでのポジションをつくる乗り物にしたいと考えている。(開発では)「ヤマハらしさ」をどこに出すかをテーマにしている。


柳 弘之(やなぎ・ひろゆき)
1978年東京大学工学部卒、ヤマハ発動機入社。2000年MC(モーターサイクル)事業部製造統括部早出工場長兼森町工場長。03年フランス工場社長、04年インド工場社長、06年中国事業部長などを経て07年3月に執行役員MC事業本部SyS統括部長。09年3月上席執行役員生産本部長。10年1月に社長職務代行補佐となり、同年3月から代表取締役社長兼社長執行役員。日本自動車工業会の2輪車特別委員会委員長としてバイクの利用環境改善にも取り組む。鹿児島県出身、58歳。
《池原照雄》

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