日産自動車が2人乗りの超小型モビリティで国土交通大臣認定を取得し、公道走行実証実験への参加を発表したのは2011年9月。それから1年も経たない今年6月には国土交通省が導入に向けたガイドラインを発表した。
12月には検討中の認定制度を公表するとともに、パブリックコメントを募集した。制度の公布と施行は来年1月を予定しているという。急ピッチで導入を進める同省自動車局技術政策課の永井啓文氏に伺った。
◆まずは軽自動車枠の緩和でスタート、新規格づくりはステップ・バイ・ステップで
----:新しい規格を設けるのではなく、軽自動車の基準緩和とした理由は。
永井啓文氏(以下敬称略):超小型モビリティという新しい乗り物そのものを導入するというより、まちづくりの活性化につなげるための解決策のひとつとして位置づけています。すでに一部の地域で実証実験を行い、ある程度の形はつかめています。ただ完全に決まった形はまだ見えてきていません。地域ごとに様々な事情があるわけで、地域の声をきちんと吸い上げて形にしていかないと、うまく行かないと思っています。よって今回は、軽自動車の現行制度を最大限生かしながら緩和を認めるという手法を選んだのです。もちろんこれで終わりではなく、ステップ・バイ・ステップで進めていって、最終的には新しい規格に行き着く方向を考えています。
----:地方公共団体などが地方運輸局に申請し、運輸局が認定する方式を取っていますが。
永井:地方公共団体とは都道府県や市区町村のことですが、それ以外に、協議会という形での申請もできるようにしてあります。市区町村が核になって、自動車メーカーや商工会議所、都市開発を手掛ける民間企業や公的機関などが集まり、内容をまとめていただいて申請することが可能です。狭いエリアで認定を受け、軌道に乗ったら地域を拡大していくという変更申請もできます。積極的な地域がモデルケースになるような導入をしてもらって、成功事例が出てくると、目に触れる機会が増え、世の中全般の機運として超小型モビリティの必要性が理解されるのではないかと考えています。
----:申請から運行までの時間はどのぐらい掛かるのでしょうか。
永井:申請を受けてから承認するまでの審査は、なるべくスムーズに進めたいと思っています。ただ申請をする側としては、コンセプトを固めていくときに、事前にその地方運輸局と相談しながら進めていただくことが重要でしょう。具体的にどの程度の日数が掛かるかは、書類内容が安定していくまでは、何とも言えません。ただ運輸局ごとに基準が異なることはありません。大手メーカーはこうした手順に慣れていて、我々が求めるとおりの書類を出してくださるので進行が早いのですが、ベンチャー企業ですと何度か書類のやりとりが発生する可能性もあります。そのためにも事前の調整に、局も入って進めていくことが大事だと思います。
都市活性化のツールとしての超小型モビリティ導入
----:個人が買って乗るという形態は認められないのでしょうか。
永井:今回の制度は、地方公共団体などが中心となって車両を用意し、住民や観光客の方々に使ってもらう方式をメインに考えています。申請者は車両の車台番号を1台ずつ把握し、年1回、運行管理結果を報告していただく予定にもなっています。ですから「超小型モビリティを作ったから走らせたい」という要望に応えるような内容ではありません。でも個人が買って乗ることができないわけではありません。申請の輪の中に入り、市区町村のルールに沿った形で使っていただけるなら、所有できないことはないでしょう。ただし特殊なケースであることはたしかで、個人が買って自由に乗り回すのは、次のステップかと思っています。
----:クルマというよりLRT(Light Rail Transit:鉄道よりも輸送力の小さい都市内公共交通の一形態。富山や広島などで次世代型LRTが運用されている)の導入に似た雰囲気を感じます。
永井:繰り返しになりますが、「新しいクルマを公道で走らせる」だけのものと捉えてほしくはありません。「地域活性化を進めていく中でのツール」として考えてもらいたいのです。その点では、LRTの導入に通じるかもしれません。富山市のLRTのように、強いリーダーシップがあり、明確なコンセプトを持ち、しっかり進めていけるかが重要だと考えています。LRTは、都市計画をきっちり作り、住民とのコンセンサスが得られないと、うまく行かないようです。それと同じで、「地方力」が大事になります。ちょっと走らせて「面白いね」だけでは、それ以上には発展しないでしょう。住民の方々にも参加していただいて、地域の特性に合ったコンセプトをしっかり考えていただくことがキーになると思います。
◆購入補助のための予算要求も
----:低公害車導入補助金のような制度は用意される予定ですか。
永井:超小型モビリティの導入によって、まちづくりとしての先進的な取り組みをしていただく自治体に対して、購入補助制度を設けるために、予算要求を行っています。車両価格の半額を補助するという内容です。また我々は、都市局や住宅局などでも様々な補助を行っています。まちづくりの内容がそれらに合致するような案件なら、他局からのサポートもあるでしょう。 複層的にコンセプトを考えることで補助が受けられるようになり、財政的に楽になって、経済的に回していけるようになることが理想だと考えています。市区町村のプランニング能力によるところが大きいと言えるでしょう。
----:警察との折衝は問題なく進んでいるのでしょうか。
永井:安全性という観点から、警察庁とも連携して進めています。今回発表した内容も、調整済のものです。今後、警察はもちろん、一般の方々からの声も踏まえた上で、制度設計をしていくつもりです。ただこの制度は、現行制度の基準緩和なので、通行許可を必要とはしません。現行の制度の中できちんとした安全性の担保をすれば、問題ないわけです。基準緩和は過去にも実例があります。たとえば港から近くの工場まで大きな荷物を運ぶ際、軸重が道路の基準をオーバーするときに基準緩和を適用し、港から工場までの移動に限定して、強度的に問題のない場所にルートを設定して走ることは行っています。このような場合、警察からの通行許可は不要です。
----:現時点での状況を可能な範囲で教えてください。
永井:具体的な名前はまだ出せませんが、複数の市町村やメーカーなどから問い合わせをいただいています。メーカーについては大会社から小さなベンチャー企業まで様々です。コンセプトとして立てやすいのは、観光回遊や地域振興ではないでしょうか。観光資源を持ってはいるがアップダウンが多く、レンタサイクルの移動ではしんどいとか、自転車で移動するにはエリアが広いという場所です。それ以外では、先進的なイメージの街に新しい乗り物として入れたり、市街地での小口配送として活用したりというシーンを考えている例があります。
----:マスコミでは超小型モビリティ=高齢者向けという論調も目立ちます。
永井:地域の状況が違うので一概に言うことは難しいですが、地方では昔からの集落が、人口が減り、分散して、公共交通がきめ細かく回れる状況ではないので、お年寄りの方々は公的施設までの距離を感じている方が多いようです。そういう場所に人が集まれば、憩いの場が生まれるので、自分の意志で公的施設まで行くための手段として、超小型モビリティが使えるのではないかと考えています。ただし安全性の問題などもあるので、コンセプト作りには時間が掛かるかもしれません。