【ホンダ N-ONE 発売】都市景観に楽しさ・美しさを付加する道具…建築家

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ホンダ・N-ONE
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ホンダが再びクリーンヒットを放った。『N BOX』がグッドデザイン賞を受賞し、コンセプトモデルがモーターショーで発表されてから、その期待は日増しに膨らんで来たが、今度の発表でそれが期待以上のものだったことが分かった。

◆N360とは異なる手法で「軽」のイメージを一新

まだ試乗をしていないのでここでは、外観や内装に限って印象を述べる。1967年に発売され劇的な販売実績を上げた『N360』は当時の軽自動車の概念を破壊し、他の軽自動車メーカーを性能競争に巻き込むほどの激しいものであったが、今回の『N-ONE』 は同じように「軽」のイメージを一変させるものでも、もっとオトナの解決法をとったといっていい。N-ONEは現行の軽自動車の規制枠内にピタリと収まりながら、実はそこからはみ出すほどの実質的な空間や安全性と、全く新しい軽自動車のイメージを確立している。

室内の広さは驚くほどで、私は185cmの長身だが、快適に運転できるようシートを調整して、その状態でリアシートに座ってみると、なんと膝の前に5cmほどの余裕があるのだ。縦方向の余裕もかなりあり、乗員のために提供された空間は「広々、ゆったり」感に満ちている。前後ともベンチシートと割り切ったことも功を奏しているのだろう。

◆クルマのある町の姿がもっと楽しいものになる

その分荷室は制約されて、4人のオトナ分の荷物を収容するのはかなりきついが、そのような場合を除けば荷室確保もよく考えられており、後席を倒せば完全にフラットなカーゴルームになるし、後席座面を上げれば、高さ120cmほどのかさばる荷物も積み込める。

法規上シートを取り外せるようには出来ないが、ピクニックに出かけて、シートを外して楽しんだり、大きな古い柱時計をのせてルーフからその頭部がはみだしている、昔のシトロエン『2CV』のカタログで見たイメージを思い出した。

N-ONEでもキャンバスルーフ仕様が出れば、園芸屋さんで大きなドラセナを買って運んでいる、楽しいシーンもあり得るし、そんな使われ方が出来るようになれば、クルマのある町の姿ももっと楽しいものになるだろう。そうだ、都市の景観や環境に、楽しさや美しさを付加するような道具としてのクルマがいま求められているのだ。

◆都市設計にも通じる黄金分割比のコンセプト

発表会場でこの N-ONEの主任研究員の方に伺ったが、外観の設計に「黄金分割比」を使ったという。N BOXから始まった設計プロセスだそうで、確かにひと目でクルマとしてのN-ONEの安定した存在感が伝わる。

建築の設計ではほとんど常識なのだが(そうでない例も多数ある)人間を取り巻く環境をつくる「物」はすべて黄金比を念頭にデザインされなければならない、というのが私のかねてからの持論だが、ようやくクルマデザインの世界でもそれが実現した。

ヨーロッパ製のクルマは昔から基本的にそれが守られていて、初代の日産『マーチ』と当時のオペル『ヴィータ』(現地名『コルサ』)の両者の後ろ姿を並べてみると、それがよく分かる。

今度のN-ONEのサイドビューをその視点から眺めてみると、サイドウインドーの高さとその下のドアパネルおよびスカート部分の高さが、0.33対0.67の比に近い。黄金比では0.38対0.62の比が理想なので、わずかな差だがやや下半分が重く見える。

ドア下端にデカールを貼ったモデルではそれがビジュアルに緩和されているので、私が買うとしたらドア下端から下のボディパネルの部分をブラックアウトしてビジュアルな改造を加えるだろう。シトロエン 2CVやオースチン『MINI』が、数々のバリエーションを増やしながら長寿を保ったように、N-ONEも長く人々に愛されるモデルになってもらいたいと切に願う。

白井順二|建築家/アーバンデザイナー
1938年生まれ、アメリカに30年居住、その間インドに1年、サウジアラビアに2年、大学で教鞭をとる。赤坂のアークヒルズ外構設計、シンガポール高島屋設計担当、大阪梅田北ヤードコンペ優勝、海外での環境問題の講演多数。クルマのメカニズムや運転が趣味で『カーグラフィック』誌などに寄稿多数。A級国内競技ライセンス所持。クルマでの北米大陸、インド、ヨーロッパ全域のドライブ数万キロ。

《白井 順二》

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