【池原照雄の単眼複眼】東北の復興も担ってトヨタ東日本が始動

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関東自動車工業が手がけたトヨタアクア ファンコンセプト(東京モーターショー11)
  • 関東自動車工業が手がけたトヨタアクア ファンコンセプト(東京モーターショー11)
  • 関東自動車工業が手がけたトヨタアクア ファンコンセプト(東京モーターショー11)
  • 関東自動車が生産を担当するトヨタ アクア(東京モーターショー11)
  • 関東自動車が生産を担当するトヨタ アクア(東京モーターショー11)
  • セントラル自動車宮城工場
  • トヨタ/セントラル自動車宮城工場

国内生産は3極体制へ

トヨタ自動車が「国内第3の生産拠点」(豊田章男社長)と位置付ける東北での中核子会社、トヨタ自動車東日本が3社合併によって7月1日に発足する。新会社はグループのなかでコンパクトカーを担当し、競争力の高い車両を東北から世界に供給するミッションを負う。課題となる東北での部品調達拡大を通じ、同地域の復興促進や製造業の高度化・集積化への期待がかかる。

新会社は、トヨタの車体メーカーである関東自動車工業を存続会社にセントラル自動車と、ブレーキ部品などのトヨタ自動車東北を吸収合併して発足する。本社はセントラルの宮城工場が立地する宮城県大衡村に置き、社長にはトヨタの元専務である白根武史氏が就く。資本金は68億5000万円で、従業員は約7900人となる。

車両組立工場は、関東自工の岩手工場と東富士工場(静岡県)、セントラルの宮城工場の3拠点を有し、合計の能力は2011年度の生産実績ベースで約50万台。トヨタ東日本の発足によりトヨタは、直営工場やトヨタ車体、豊田自動織機の車両工場が立地する中部地域、トヨタ自動車九州の九州地域とともに、国内3極による生産体制の強化策を加速させたい方針だ。

課題は東北現調率の引き上げ

構想段階から2年がかりで進めてきた今回の再編により、中部は車両生産とともに、新技術・新工法などイノベーションの開発拠点としての機能をより高めていく。さらに九州はレクサスやミディアム系、東北はコンパクト系の生産と、それぞれの担当車両の自前開発力を強化していく。

トヨタ九州の生産能力は年43万台であり、トヨタ東日本との合計ではざっと100万台規模。トヨタが国内生産の死守ラインとする300万台のうち、3分の1を九州と東北が担うことになる。

このうちコンパクトカーに集中するトヨタ東日本は、11年末からハイブリッド車(HV)の『アクア』を関東自工岩手工場で、12年5月からは新型『カローラ』をセントラル宮城工場で立ち上げ、すでに主力車種の生産を担っている。同社は「世界ナンバー1の魅力あるコンパクトカーの提供」を旗印に掲げる。

もっとも、そのためには東北地域での現地調達拡大による一層の競争力強化など課題も少なくない。すでに九州での生産開始から35年が経過した日産自動車は、今月発売した『NV350キャラバン』(生産は日産車体九州)の部品調達のうち約9割を九州内と隣接する韓国を中心とした海外からまかなっている。

日本のモノづくり維持の試金石に

トヨタ東日本の東北域内からの調達は4割程度とされ、物流コストの面からも改善の余地は大きい。関東自工とセントラルは12年1月に「東北現調化センター」を立上げ、域内の企業と一体となった現地調達拡大への取り組みを加速させている。

4月には両社と自治体による「とうほく6県自動車産業集積連携会議」が協力し、仙台市でアクアの分解展示と商談会を開いた。同車の部品受注をめざす6県の地元企業約300社が参加した。

一方、新会社は「モノづくりは人づくり」とのトヨタの理念から、企業内訓練校の「トヨタ東日本学園」も来年4月に開校させる。東北地域の工業高校卒業生を毎年30人募集し、1年の教育により現場の中核人材を育成する狙いだ。これに先立ち、今年4月からは豊田市のトヨタ工業学園が、卒業後のトヨタ東日本転籍を前提に15人の生徒を東北から受け入れている。

トヨタ東日本学園は社外向けの短期技能講座も開講する計画であり、地域の人材育成にも門戸を開放していく。トヨタ東日本は、東北の復興に向けた期待の星であるとともに、日本でのモノづくりの環境が厳しさを増すなか、トヨタの国内生産維持の試金石ともなる。

《池原照雄》

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