【インタビュー】Entuneの経験生かしソーシャル × Bluetoothノウハウで差別化…デンソー アルペジオ

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デンソー 情報通信事業部 阿知波恵造氏
  • デンソー 情報通信事業部 阿知波恵造氏
  • デンソー 情報通信事業部 伊藤正也氏
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この春から夏にかけて、スマートデバイス対応のナビゲーションやアプリケーションが各社から相次いで発表された。

デンソーが提供するスマートフォン連携情報サービス 「ARPEGGiO (アルペジオ)」もそのひとつ。iOS/Android向けにアプリとして提供されるこのサービスでは、対応ナビゲーション(現在ではトヨタ向けDOPナビの「NHZD-W62G」のみ)と接続することで、施設検索や音楽再生、インターネットラジオ、燃費管理、スポーツニュースなどの機能を運転中にも安全に利用できるというものだ。

今回、アルペジオの企画・開発に携わった情報通信事業部の阿知波恵造氏、伊藤正也氏に、企画の狙いとサービスの特徴について話を聞いた。

◆常に新鮮なPOIを求めて…「ローカルサーチ」「チェックイン」

アルペジオでは、ナビゲーションのモニターから各種機能を利用することもできるほか、アルペジオで地点検索した結果をそのままカーナビの目的地に設定するといった連係機能も備える。

主な機能は、「ローカルサーチ」、「チェックイン」、「写真deマップ」(フォトナビゲーション)、「Suono Dolce」(ネットラジオ)、「e燃費」(燃費管理/ガソリン価格検索)、「DAFLOID」(プロ野球やJリーグの最新ニュース)、「Music Player」(Bluetooth音楽再生)など。今後も対応機能を増やしていく計画だという。

ローカルサーチについては、Yahoo!ロコの地図・POIと連携しており、キーワード検索の他、カテゴリ検索にも対応している。阿知波氏は、「車両の保有年数が長くなるに伴って、カーナビの利用期間も延びている。ナビを買ってから5年10年経った時に新しい施設を検索できないということがないように、インターネットの膨大なデータベースを検索できるようにしたかった」と説明する。写真つきのPOIでもほとんど待たされることなく表示されるなど、レスポンスはなかなか良好だ。ただし、ローカルサーチでお気に入りに入れたPOIや検索の履歴はアルペジオ上で確認できるが、ナビのお気に入り地点との連携機能はない。

チェックイン機能は、「mixi」「Facebook」「Foursquare」のそれぞれに対応。ナビ画面上からチェックインができるだけでなく、友だちがチェックインした場所も確認し目的地として設定することができる。

◆スマートフォンの機能性をクルマの中でも簡単に利用できるように

アルペジオではドライバーが操作できるよう、ユーザーインタフェースの設計には工夫がなされており、画面上に表示されるボタンの大きさや個数、階層などはカーナビゲーションの基準に準じている。「運転を阻害しないために、少ないタッチ回数で利用できるようショートカットスイッチを置いている」(同部・伊藤正也氏)。

「せっかく便利で高機能なスマートフォンが世の中にでて普及してきたのに、“操作が難しい” “余計なお金がかかりそう”といったことで、敬遠されてほしくない。アルペジオは、そういった複雑さを取り除いて、スマートフォンの機能性・利便性をクルマの中でも簡単に利用できるようにしたかった」と伊藤氏は語る。

アルペジオに含まれているアプリの使い勝手そのものも、使いやすくチューニングされている。たとえば、「e燃費」はオドメーターと給油量および金額を入力して愛車の燃費と燃料費を管理するケータイ/スマートフォン向けアプリだが、ユーザーにとってオドメーターの入力はひとつの手間だった。アルペジオでは、ナビゲーション本体で走行距離を取得しているため、ナビで得ている走行距離が自動的に入力される仕様になっている。伊藤氏自身もe燃費のユーザーで、「ガソリンスタンドは、給油が終わると早く出て行かなきゃならないような雰囲気なので、距離入力の手間は省略できるようにしたかった」と述べる。

◆Bluetoothの実績とEntuneの経験が活かされたアルペジオ

ところで、アルペジオのベースとなっているのは、2011年からトヨタが米国でサービスをスタートした車載器向けのインフォテインメントサービス「Entune(エンチューン)」だ。こちらはスマートフォンとの連携ではなく、汎用OS(Linux)上で動くナビ端末本体に各種のアプリをインストールして利用するもので、インターネットラジオの「Pandra」や株価情報、天気などのほかに、Bluetooth連携によるハンズフリーや音楽再生のほか、「SiriusXM」などのサテライトラジオをパッケージにしたサービスを加えて月5ドルから14.49ドルのユーザー課金モデルで提供している。

伊藤氏は、特にBluetoothでの通信レスポンスに関して、このエンチューンでの経験がアルペジオにも活かされていると語る。同社はBluetoothの規格団体であるSIGの立ち上げ初期から参画したメンバーでもあり、国内のナビメーカーとしてはいち早くBluetoothに対応させた。

◆Bluetoothプロファイルを切り替えてハンドリングするノウハウ

そもそも、なぜ有線ではなくBluetoothによる端末間通信を選んだのか。「有線にしないことで電池の消耗はどうするのかという声を聞くが、シガーソケット経由のUSBアダプタはカー用品などで安価に売っている。また、とくにAndroid端末は、解像度や処理性能など機種間の差が大きく、検証に手間がかかってしまう。その点Bluetoothはプロトコルで規格が定められているので、機種やプラットフォーム間の差異をある程度は吸収できる」(伊藤氏)。

とはいうものの、アルペジオで動作を保証するBluetoothの最低バージョンは2.0+EDRで、帯域的にリッチなものではない。その限られた帯域でさまざまなプロトコルをやりとりできるようにしたところに、同社のノウハウがあるという。「たとえばMusic Playerでは音はA2DP(Advanced Audio Distribution Profile)で取るが、アーティスト名や曲名などのやテキストデータはSPP(Serial Port Profile)で取る。また、合わせてリモコン機能のAVRCPもUIの中に取り込むなど、用途毎に最適なプロファイルを利用することで要求/応答のタイムラグを可能な限り短縮している」(伊藤氏)というのだ。

さらにデンソーでは、汎用性の高いSPPをいかに使いこなすかに着目。ひと頃フィーチャーフォンとナビとのBluetooth接続で一般的だったDUN(Dial-up Networking Profile)は、テザリングという扱いになるため、通信料が高額になってしまうという問題があった。またほとんどのスマートフォンではDUNプロファイルには対応していない。

これに対して、アルペジオでは「セルラー網との通信はあくまでスマートフォンまでにとどめておき、UIのところで切り離してSPPを使ってナビ側に通信している」(伊藤氏)。さらに「この方法を利用するに当たっては主要キャリアとの了解も得えている」(阿知波氏)という。このように、さまざまなプロファイルを切り替えてハンドリングするノウハウは、他社ではそう簡単に追いつけないという。

◆オンラインとローカルのいいとこどり

BluetoothでレスポンスやUIを最適化できるのであれば、ナビゲーションもスマートフォン側で、という選択肢はなかったのかという疑問も沸く。まず一番の問題はBluetoothの帯域だ。バージョン2.0は最大700kbpsあまり、2.1でも最大2.1Mbpsでいずれも理論値しかも上り/下りの対称通信となると実効速度は半分以下になってしまう。1秒おきに更新されるGPSの位置情報、1秒間に数枚描画される地図や音声案内といった情報を現状の速度で実現するには無理がある。

さらに、「道案内も含めて全てスマートフォン側のアプリで済ませるという方法もあるが、特に日本特有の複雑で混みいった道での案内は正確性・レスポンス共にスマートフォンのナビでは追いつけない部分もある」(伊藤氏)。したがって現状では、データの鮮度が必要とされるオンラインコンテンツとローカルのナビゲーションのいいところを組み合わた「ハイブリッド型」が最適解と考えているという。

車載器だけに固執するつもりはない

Entuneのリリースから1年、日本でもついにアルペジオがスタートしたが、開発チームは「まずは世の中に出してみて、いろんなユーザーのご意見をお伺いしたい」(阿知波氏)と謙虚だ。「アルペジオについては、当社はサービス提供者であり、ハードウェアではなくサービスを売ることを第一に置いている。車載器だけに固執するつもりはない。なによりも、こういった新しい流れに乗ってチャレンジしていかなければならない」と阿知波氏。アルペジオは将来に向けての取り組みでもある。

現状、アルペジオはトヨタ「G-BOOK」対応のディーラーオプションナビと接続できるということもあり、G-BOOK会員向けのサービスとしてGAZOO IDを利用してログインする仕組みをとっている。ただし、今後OEMで提供していくナビについては、提供先の会員DBやデンソー自社の会員システムを構築するなどして付加価値としてアルペジオを訴求していきたいと述べる。

今後のビジネスモデルでは、Entuneのような月額ユーザー課金という形態はとらず「ユーザーに無料で提供する。(費用を)車載器のハードに織り込むことに加えて、広告も視野に入れた副次収入も検討する」という。また、「他社ナビに提供する場合はライセンス契約。他社が似たようものを作ろうとしたときに、開発費や運営費を考えるとアルペジオを採用した方がいいと思わせるだけのコストメリットを出したい」(阿知波氏)。

おそらく、今後数年はディスプレイオーディオがナビのトレンドの主流になっていくはずだ。ナビ業界は車載機メーカーだけでなくアプリベンダーやコンテンツプロバイダー、さらにはAppleやGoogleといったプラットフォーマーたちを巻き込みながら世界の市場を舞台にしのぎを削りあうことになる。初めの1歩を踏み出したアルペジオが、今後どのようなユーザー体験を提供していくかが興味深い。

《北島友和》

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