◆豊田社長「攻めていくぞという強い思い」
トヨタ自動車の今年度(2013年3月期)の収益が大幅に改善される見通しだ。為替変動や欧州債務危機など依然として不透明な要素はあるものの、わずかとはいえ超円高の修正や日米での好調な販売といった好材料も少なくない。一定の前提を元に、グローバルビジョン(11年3月策定)で掲げた連結営業利益1兆円程度の確保という「安定した経営基盤」は射程圏内に入ってきた。
豊田章男社長は2日に本社で行った入社式で、就任後3回目となる今年の式は「これからは攻めていくぞという強い思いをもって迎えられた」と話した。リーマンショック後の赤字転落、大量リコールを出した品質問題、そして東日本大震災などの自然災害---と、相次いだ苦境を経て、初めて「落ち着いた気持ち」で臨む新年度の幕開けとなった。
事業環境も、「6重苦」という状況に変わりはないものの、この3年ではもっとも落ち着いている。豊田社長は今年度が、「いい年にならなくてもいいが、何も起こらない年であってほしい」と、まずは平穏を期待する。だが、経営の根幹を揺るがすような大ごとが起こらなければ、今年度の業績は「いい年」になる。
◆原価低減は少なくとも1600億円の上乗せ
同社がグローバルビジョンで示した連結営業利益1兆円の収益確保は、1ドル85円、1ユーロ110円、単体販売台数750万台を前提にしている。前年度(12年3月期)は、2月時点の見通しで為替が1ドル78円、1ユーロ108円を前提に営業利益は2700億円。ただし、自然災害による販売減なかりせばとして推計すると同利益は5400億円になり、「これが1ドル78円での現下の実力」(伊地知隆彦取締役専務役員)と見ている。
今年度は、その実力ラインに利益を上積みできる要素が多くある。まず為替は、大幅な円高修正とはいかないまでも、足元の1ドル82円レベルで推移すれば4円の円安となる。トヨタの対ドルでの為替感応度は1円で320億円程度なので、対ドルだけで1300億円近い増益効果をもたらす。
次いで原価低減。平時の実力としては年3000億円規模が固い。昨年度は販売減や災害対応の優先により、1400億円にとどまる見込みであり、平時に戻れば少なくとも1600億円の上乗せは期待できる。後述のように今年度は約100万台の販売増が見込まれるため、さらに低減効果は膨らむと見てよい。
◆為替対応力は着実に強くなっている
世界販売は単体の12年暦年計画である858万台(前年比21%増)が年度ベースでも、ほぼスライドすると見込めば、100万台規模の販売増となる。具体的な増益額は計れないが、金融事業への波及効果も含めば原価低減の増加額を上回る規模も期待できよう。
超円高への対応策として進めている海外市場での「モデルミックスの改善と価格引き上げ」(伊地知専務)も着実だ。ガソリン価格の上昇が続く米国では、付加価値の高いハイブリッド車が販売を伸ばしている。3月は『プリウスc』(日本名『アクア』)が加わったこともあって、プリウスシリーズの販売は前年同月比54%増の約2万9000台と過去最高になった。
また、米国ではモデルイヤー途中での値上げも行っている。昨年末に12月生産分から、レクサスブランドを含む一部車種の値上げを実施したのに続き、5月生産分からは『プリウスv』(日本名『プリウスα』)、主力セダンの『カムリ』など6車種の値上げに踏み切る。原材料高騰期などを除けば、期中に数次の価格改定を行うのは珍しい。それだけ、競争力や市場の回復に手ごたえがあるということだろう。
こうした地道な“交易条件”の改善も、収益を下支えしていく。9日に本社で記者会見した経理・財務担当の小澤哲副社長は「為替対応力は着実に強くなっている。収益の回復力も強いものがあると確信している」と、コメントした。