【オートモーティブワールド12】バッテリー・モーター・制御システムのイノベーションをいかに実現するか…フィットEV 開発エンジニア講演

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ホンダ・フィットEV(ロサンゼルスモーターショー11)
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  • ホンダが埼玉県に無償貸与したフィットEVの1号車
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「現代社会は人口増、エネルギー枯渇、地球環境問題のトリレンマ(三重苦)を抱えている。ホンダが目指しているのは、その中で自由な移動の喜びと持続可能性を実現するクルマ作りです」

◆EV作りはまだ始まったばかり

1月19日、オートモーティブワールド2012で行われたセミナー「電気自動車(EV)の最新動向」。ホンダの電気自動車『フィットEV』開発エンジニア、木村顕一郎氏は、講演の壇上でモビリティに対するホンダの思いを語った。

今日、世界の自動車メーカーはEVやプラグインハイブリッドカー、燃料電池車など、クルマの電動化技術の研究開発競争でしのぎを削っている。今日、クルマの大半は石油エネルギーで走っているが、今後、新興国の経済成長で石油の需要が急増したり、油田の劣化で石油生産が減ったりすれば、燃料価格が高騰し、モビリティの維持が難しくなってしまう。省エネルギー、さらに一歩進んで脱石油を図っていくことは、長期的に見て自動車メーカーが目指すべき道と考えられている。

再生可能エネルギー、原子力、天然ガスなど非石油系エネルギーを使うためのコアテクノロジーと目されているのが「クルマの電動化技術と、蓄電池や水素などのオンボードエネルギー貯蔵技術」(木村氏)なのである。このあたりの主張は世界の自動車メーカーに共通のものだ。

が、脱石油モビリティのステージで高い価値を持つEVや燃料電池車とはどのようなものかという定見は、まだ確立されていない。EV作りはまだ始まったばかりであり、完成形を語れるほど成熟していないからだ。ホンダがフィットEV作りにおいて腐心したのは、そのバリュー探索であったという。

「フィットEVのコンセプトは『超次元Eドライブの走り』『電気を賢く使う』『時間を賢く使う』3つの要素からなっています。CO2、オイル、エミッションの3つのフリーはEVでは当たり前。ホンダらしいEVとは何と言ってもEVであることを超越した楽しさを持つクルマであることが第一。それに加えて、世界でも評価されている日本の“もったいない文化”を体現する、電気や時間を賢く使うための工夫も盛り込みました。他社の先行品に負けないクルマができたと思っています」(木村氏)

フィットEVはベースモデルであるコンパクトカー『フィット』のコンパクトなボディに最高出力92kW(125馬力)、最大トルク256Nm(26.1kgm)という強力なモーターを積みながら、4人乗りのEVとしては世界トップの電費を併せ持っていることを売りにしている。

その性能実現のカギとなったテクノロジーのひとつがバッテリーだった。

◆蓄電池と回生技術のイノベーション

「様々な電池を試した結果、回生受け入れ性、耐久性などが圧倒的に優れていた東芝のSCiB(チタン酸リチウムイオン電池)を採用しましたが、われわれはさらにバッテリーをどのようにマネジメントすればいいか工夫を重ねました。その回答のひとつが、バッテリーの下面を冷却するシステム。これによって、高速走行直後に充電を行なっても温度が上がりすぎず、充電をきっちり行うことができる。また長期使用時の耐久性においても、SCiBを単独で使う場合と比べても劣化をごく小さく抑えることができた」(木村氏)

高性能電池パックとはいえ、蓄えられる電力はガソリン車などに比べればわずか。しかもフィットEVのバッテリー容量は20kWと、競合モデルである日産『リーフ』などに比べると小さい。その電力量で長大な航続距離を確保するうえで欠かせなかったのが“電気を賢く使う”工夫だった。

「モーターは従来型に比べて、(電気モーターが苦手としている)低トルク域までエネルギー変換効率を高める構造としました。また、停止直前までエネルギー回生を取り切る電動サーボブレーキを新開発。これによって回生量が増えました。実際の走りのシーンにおいては、たとえば下り坂に差しかかった時、普通なら速度が上がりすぎてブレーキをかけることになるところを、回生量を増やして速度を一定にするといった制御も入れています。こうした電気を賢く使う工夫によって、量産EVとしてはトップの電費を実現することができた」(木村氏)

そうした機械的スペック向上の一方で、EVのバリューを高めるという観点から重要視したのが、「お客様の“時間を賢く使う”こと」(木村氏)だったという。

「(日本の2倍の)6.6kW車載充電器を搭載しているUS仕様の場合、家庭でも3時間でフル充電が可能。また1時間のランチの間に30%充電が可能です。短時間で充電ができれば、電気代の安い深夜電力もより使いやすくなる」(木村氏)

◆EVの“起動”時間の短縮も重要

時間を賢く使うのは、充電待ち時間の削減だけではない。EVはいったん電池の残量が少なくなると充電時間が長くかかるなど、ユーザーにとっては不便な部分もたくさんある。フィットEV開発にさいして、スマートホンとリモコンの2つの端末を使うことで、EVの本来持っている利便性を高めるだけでなく、デメリットの補償についても工夫を盛り込んだ。

「スマホは電源がOFFの状態から使えるようになるまで90秒程度かかってしまう。電池容量の確認や充電のオンオフ、エアコン制御など、クルマに乗る前の操作はボタンひとつで反応するリモコンで行うようにしました。また、スマホでは出発時間を設定することで充電、出発前エアコン操作、渋滞情報取得など、より細かい操作ができるようになっています。お客様の時間を無駄にすることなく使ってもらえるEVができたと思います」(木村氏)

今日、脱石油のエネルギーソリューションとして注目されているEV。そのEVをユーザーのライフスタイルや社会システムへの親和性が高い商品に仕立てるにはどうするべきかという、普及商品化の本格的なトライはこれからだ。ホンダ開発陣の話はその重要なステージに向けて、示唆に富んだものであった。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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