【池原照雄の単眼複眼】広州で氷解した日産中国事業快走のナゼ?

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東風日産ヴェヌーシア広州店
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  • 東風日産、任勇副総経理

今年も総市場の伸びを大きく上回る

中国で快走を続ける日産自動車の乗用車部門である東風日産(広東省広州市)を現地に取材した。2012年早々に稼働する年24万台の新鋭工場が竣工式に向けた最終準備を進める一方、同年の開業が迫っている自主ブランド「ヴェヌーシア」(啓辰)の広州1号店もプレオープンしていた。11年度のグローバル販売が2年連続過去最高となる日産の勢いの源が中国にあった。

今年1〜11月の日産の中国販売(小型商用車、輸入乗用車含む)は前年同期比21%増の112万9000台と、伸びが3%に鈍化した総市場を大きく上回っている。中国事業で日産に先行したトヨタ自動車は7%増の77万5000台(輸入乗用車含む)、ホンダは8%減の54万3000台(同)にとどまる。

背景には東日本大震災やタイの洪水による影響度の違いがあるものの、日産のハイスピードの伸びは、日本2社を圧倒している。日本メーカーだけでなく東風日産は今年、合弁ブランド乗用車の販売ランキングで、昨年の5位から北京現代を抜いて4位に浮上している。

ワンストップで多様な車種を提供する強み

日産が公表する中国の販売台数には、一部東風ブランドの小型商用車も含まれるため、09年の時点で「日本車トップ」になったといわれても、「?」という感じだった。だが、今年は現地生産している乗用車だけの比較でも、11月までの累計で東風日産(73万1000台)がトヨタの合弁2社の台数(70万5000台)を上回っており、首位に立つのがほぼ確実だ。

日産が国営の東風汽車集団と合弁事業を立ち上げたのは03年7月であり、90年代末からの経営再建のため、2社に遅れを取った。トヨタとホンダが現地合弁パートナーを認可枠の2社としたのに対し、日産は東風1社に集中し「乗用車からトラック・バス、小型商用車まで前例のない包括的な提携関係」(カルロス・ゴーン社長)を構築した。

もっとも、当時の日産には人的にも資金的にも「集中」するしか選択肢はなかったといえる。しかし、急速にモータリゼーションが進む中国で、この集中策が功を奏すことになる。東風日産の木俣秀樹販売・マーケティング本部長は、日産急成長の大きな要因として「コンパクトカーから中型セダン、SUVまでひとつのメーカー・販社として完結している」ことを挙げる。

つまり、顧客はワンストップで多くの車種を比較検討でき、販売店側は幅広い潜在顧客を店に誘引できる。広州市内の東風日産販売店では、派生車種を含み計12モデルの価格表が用意されていた。これに対し、ホンダは『アコード』や『フィット』は広州ホンダ、『CR-V』と『シビック』は東風ホンダといった具合に、主力車種が2系列に分断されている。トヨタも『カムリ』と『カローラ』は異なる合弁パートナーで生産している。

「ヴェヌーシア」で内陸部を開拓

世界最大の市場になったとはいえ、中国では初めて車を購入する顧客がまだ圧倒的に多い。その比率は、北京など大都市では6割弱と年々低下しているが、地方部では9割に達する。ワンストップ店の強みが発揮される市場環境にあるのだ。さらに今後、代替需要が本格化してくれば「上級移行のお客様を自陣営で守りやすくなる」(木俣氏)とも見ている。

一方で、東風日産は12年の第1四半期に自主ブランドであるヴェヌーシアを立ち上げる。第1弾は小型セダンの『D50』で、東風日産とは別の専売ディーラー網を全土で当初100店、15年には250店展開する。車種も電気自動車を含め、同年までに5モデルを投入する計画だ。

販売チャンネルの複数化は、現下の好調を支えるワンストップ政策と一見、矛盾するようにも見える。だが、ヴェヌーシアは東風日産の品質基準を満たしたうえで価格帯はやや低めに設定し、主として内陸部を中心にエントリーユーザーを開拓するブランドとする。

移動イベントに見られるアイデアと行動力

東風日産の中国側トップである任勇副経理は「ぎりぎりの資金で車を欲しいという方の潜在需要は、現状でも年200万台から300万台はある」と分析、棲み分けは十分可能と見る。日本でもかつて、モータリゼーションの進展に合わせ、日産店から日産モーター店、日産サニー店へと多チャンネル化が進んだ。中国の自動車普及段階は、ちょうど日本で多チャンネル化が進んだ60年代後半に相似しており、当時のような流通政策は理にかなっている。

日産の中国事業の中核を担う東風日産は、15年までの中期計画で今年80万台規模となる販売台数を130万台に拡大し、合弁ブランド(ヴェヌーシア含む)でトップ3の一角入りを目指す。

課題となる内陸部の顧客開拓では、大型トラック3台または1台で計6チームを構成し、地方都市で車両や技術展示などを行う移動イベントも行っている。こうした販売促進へのアイデアと行動力も、快走を支えている。

《池原照雄》

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