1号車のLEIは航続距離333kmを達成
電気自動車(EV)の世界的な普及を目指し、先行開発車の試作企業として2009年8月に発足したSIM-Drive(神奈川県川崎市)が着実に事業を展開している。5月に1号車の『SIM-LEI』を発表したのに続き、来春の完成を目標に2号車と改造車(コンバージョンEV)の開発を進めている。
開発に参画した企業に、図面などその成果が提供されるオープンソース方式(編集部註:ここでいう“オープンソース”は情報を広く一般に開放するものではなく、あくまでプロジェクトに参画した企業に限るもの)を採用したため、EV事業に関心をもつ幅広い企業や団体が参加している。2号車の開発プロジェクトにはPSAプジョー・シトロエンなど外国企業3社も加わった。EVの普及という目的を果たすにはSIM-Driveが蓄積した技術のライセンス供与を受け、EVの事業化が動き出すことだが、そうした芽も徐々に出つつあるという。
試作1号車のLEIは4人乗りで、空力特性を徹底追及した独特の車体デザインとした。最大の目標であったフル充電からの航続距離300kmの確保については333km(JC08モード)を達成した。
2次バッテリーの容量は、日産自動車の『リーフ』(24kWh)と同等の24.9kWh。5人乗りで量販モデルとしての完成度も高いリーフとはスペックが大きく異なるものの、同じJC08モードでの航続距離はリーフの200kmを大幅に上回っている。
◆2000万円で基礎技術情報が入手できる
LEIは昨年1月に開発に着手し、今春に完成した。試作2号車も同じサイクルで今年1月にプロジェクトが発足しており12年春の完成を目指す。進行中の開発では2号車とともに、シトロエンのコンパクト『DS3』をベースにしたコンバージョンEVの試作も並行して進めている。
2号車のプロジェクトには、34の事業体が参画した。大半のメンバーは異なるものの、奇しくも1号車と同じ参加数となった。参加事業体は1社当たり2000万円を負担し、SIM-Driveの開発センターに1人分のオフィススペースが与えられる。
試作プロセスすべてに参加することができ、成果物である仕様書や、基本図面、試験データなども提供される。企業にとってSIM-Driveの特徴であるインホイールモーター式EVの基礎技術情報を入手するには破格の安さといえる。
◆インホイールモーターに関する技術導入の打診も
こうしたオープンソース方式は、同社が利潤追求でなくEVの世界的な普及を一義に置いているからだ。慶応大学の環境情報学部教授でもある清水浩社長は、2号車の開発にも1号車と同数の事業者や外国企業が参画したことについて「多くの企業にビジネスチャンスとなるオープンソース方式が大変うまく機能している」と評価する。
もっとも、「できるだけEVの価格を抑制できる技術を開発し、世界に広めていきたい」(福武總一郎会長=ベネッセホールディング会長)という同社の究極の目的に達するにはSIM-Driveの技術ライセンスを元に事業化へ動き出す企業が出てこなければならない。
でないとSIM-Driveの活動は、安い会費のボランティア的な勉強会に終わってしまうし、同社専従の開発者の士気にも影響するだろう。同社関係者によると最近、台湾企業との間でインホイールモーターに関する技術供与の協議が始まったというから、その行方に注目したい。