フィアット『500』がかつての“ヌオバチンクェチェント”にインスパイアされた外観デザインをまとって登場したのは2008年3月。その後、バリエーションを拡充してきたが、2011年3月には新開発の直列2気筒の875ccエンジンを搭載したツインエアを追加してきた。
レトロ感覚のデザインでありながら、現代にも通用するように仕上げられた外観については今回も変わらない。インテリアについても共通だ。試乗車に装着されていたカーナビはレトロ調のデザインにマッチしているとはいえず、カーナビも含めたデザインでまとめて欲しいと思った。
後席の広さやラゲッジスペースについては、日本には優れたパッケージングの軽自動車がたくさんあるため、それらに比べると見劣りする印象。軽自動車と同じ4人乗りなので横方向については多少の余裕がある。いずれにしても後席の居住性については割り切って考えるしかない。
900cc足らずの排気量ながら、インタークーラー付きターボの装着で63kW/145Nmの動力性能を発揮する。1000kgをちょっと超える程度の重量しかない500のボディに対しては十分な実力といっていい。タウンユースから高速クルージングまでこれといって不満を感じさせない実力だ。
デュアロジックと呼ぶ5速ATモード付きのシーケンシャルトランスミッションは、いわゆるAMTで変速時のトルク抜けというクセを持つ。スマート『フォーツークーペ』など、ヨーロッパのコンパクトカーの中にはこのタイプのトランスミッションを搭載する例があるが、このトルク抜けに慣れることが大切。最初に違和感の塊のような感じだが、乗っているうちに変速に合わせてアクセルを緩めることで、それなりにスムーズで楽しい走りを体感できるようになる。
騒音と振動については、う〜ん、と思わせるレベル。2気筒エンジンのもたらすネガティブな部分は十分には解消されていない。このエンジンにはスタート&ストップ機構(アイドリングストップ機構)も装着されていて、信号待ちなどのときにエンジンが停止するが、そこから再始動するときの振動もそれなりに大きめだ。
これが普通のクルマだったら大きなネガになってしまうところだが、フィアット500だとまあいいかと許してしまう気分にさせられるのが面白いところ。ご愛嬌といった感じになる。
ベースグレードの「POP」で215万円、試乗した「ラウンジ」では245万円の価格。ヨーロッパのコンパクトカーの激戦区となる価格帯で、横滑り防止装置などの安全装備を全車に標準装備する。特に割安とはいえないが、まあ納得すべきレベルか。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★
松下宏|自動車評論家
1951年群馬県前橋市生まれ。自動車業界誌記者、クルマ雑誌編集者を経てフリーランサーに。税金、保険、諸費用など、クルマとお金に関係する経済的な話に強いことで知られる。ほぼ毎日、ネット上に日記を執筆中。