トヨタの新型『ヴィッツ』は、全面新開発モデルではなく、ボディ骨格をはじめとする車の基本部分の多くを旧型モデルから流用する、キャリーオーバー型の新型車だ。しかし、新型は同じ基本設計であるとはとても思えないくらい、静かで振動の少ないモデルに仕上がっている。
「チーフエンジニア(山本博文氏)は新型ヴィッツについて、走りも騒音・振動も良くしたいという強い思いを持っていました。そこで、ボディやパワートレインからタイヤまで、あらゆる段階で低ノイズの工夫を凝らしました」(須甲忠助・第1振動実験主任)
今回のモデルチェンジの中で、開発リソースを特に多く配分したものが、専用タイヤの共同開発であったという。新型ヴィッツは低燃費化を図るため、転がり抵抗の低いタイヤを採用しているが、燃費を優先するとノイズや振動の特性は悪くなってしまう。新型ヴィッツ用のタイヤ開発では、その相反する特性を両立することが大きなテーマとなったという。
「今日の低転がりタイヤのトレンドは、タイヤのサイドウォール(横壁)を柔らかく、また地面に接する部分はなるべく薄く作るというものです。しかし、それは半面、操縦安定性や騒音・振動の面では不利でもある。そこで私たちはタイヤメーカーさんのエンジニアと協力して、サイドウォールの柔らかさや接地面の薄さに依存せず、転がり抵抗を減らす方法を考えました。研究していくうちに、タイヤのショルダー(接地面とサイドウォール間の角)部分のみ強度を上げることで、転がり抵抗を効果的に減らせることがわかったんです。タイヤメーカーさんにはいろいろ無理も言いましたが、『今回の共同開発ではいろいろと知見が得られた』と言っていただきました」(三枝弘一・制動・ドライバビリティ実験室主任)。
グリップ力や切り始めのよじれを抑えつつ、転がり抵抗も削減したタイヤは、新型ヴィッツの振動・騒音特性の向上に大きく貢献しているようだ。