【D視点】竹光でもカッコいい!!…メルセデスベンツ SLS AMG

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300SLを再現した魅力

メルセデスベンツ『SLS AMG』が日本にも導入された。1950年代の伝説の『300SL』を現代の技術で甦らせたとされる、メルセデスベンツのフラグシップスポーツカー。AMGが、メカニズムだけではなく、デザインまで手掛けている。

ロングノーズ&ショートデッキ、そしてワイド&ロウと古典的なカッコよさに徹したプロポーションの2ドアクーペ。ヘッドランプやリアコンビランプは、メカニズムのチューンアップを主な仕事とするAMGらしく、素っ気無いデザインとなっているのも愛嬌といえる。

全長4640mm×全幅1940mm×全高1260mmで、6.2リットルV8エンジンは571馬力を発し、7速2ペダルMTと組み合わされる。性能は、0-100m/h加速性能3.8秒、最高速度317km/h。デザインだけではなく、アルミのシャーシとボディ、そしてドライサンプ潤滑方式採用のエンジンなどもアピールポイント。価額は2430万円。

ドアを開けて乗り込むときの景色は、今や少数派になってしまった“機械の魅力”を感じさせる。ガルウイングドアは性能的に説得力がないと解っていても、SLS AMGのチャームポイントであることに変わりない。1950mmの高さまで跳ね上がるので乗降時の慣れが必要だが、この不便さもアピールポイント。

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未亡人製造機と呼ばれるカッコよさ

SLS AMGがオマージュした1954年発表の300SLは、レースカーである「300SLプロトタイプ」をベースにしたことから、特徴的なガルウイングドアで知られることとなった。300SLプロトタイプは、軽量化のために鋼管スペースフレーム構造を車体に採用しており、ドア位置を低く出来ないことから跳ね上げ式のドアになった。

レースカーならともかく、構造上開閉出来ない窓を持ち、エンジンの熱が室内にこもっても換気の出来ない300SLの市販化は、無謀だ。しかしアメリカでの人気は高く、特に著名人が好んで乗ったことから話題を集め、さらに事故で多くのドライバーが亡くなったことから「Widowmaker」(未亡人製造機)というあだ名さえ付いた。

暑いときのドライビングの困難さや、乗降の苦労を伴うガルウイングドアが、レーシングカーのシンボルとしてのカッコよさで人々を引きつけたようだ。疑問も感じずに使っている「カッコいい」と言う言葉には、常識では忌避するような要素も含んでいることに気付かされる。

毒も使いようによって薬になるように、不条理や意外さは、平穏な日常に対してスパイスとしての価値がある。コントロール出来ないほど高性能なクルマを所有している誇りの証とし、「Widowmaker」の言葉すら魅力として映る可能性も否定できない。

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企業イメージという踏み絵

『SLRマクラーレン』の後継の役割を担ったSLS AMG だが、SLRマクラーレンについては高価だったことを除いて印象が薄い。つまりSLRマクラーレンが市場での広がりの無かったことが、SLS AMGの誕生に繋がったと考えられる。

さらに「SLRマクラーレンロードスター」は、1955年スポーツカー世界選手権投入を目標に開発された「300SLR」をイメージして作られたと言われる。最強のレーシングカーを目標にしたためか、発売当初の車両価額が7000万円となった。クーペでも5775万円だった。しかし、この価額はメルセデスベンツの企業イメージを超えていたようだ。

それに対してSLS AMGは2430万円。性能的にはSLRマクラーレンに近いからお買い得感がある。SLRマクラーレンでの苦い体験が活かされたと見ることができる。しかし、構造的に必然性の無い竹光のようなガルウイングドアについては、企業イメージとの乖離を感じるユーザーも多そうだ。

300SLの再現とは、技術に裏付けられたモノ造り精神の再現から始めるのがメルセデスベンツの企業イメージに相応しい。メルセデスベンツのイメージに筋を通して、ユーザーの信頼に応えることを望みたい。レース専用車「SLS AMG GT3」を発表したのはその一環と考えれば、今後に期待が高まる。

D視点:
デザインの視点
筆者:松井孝晏(まつい・たかやす)---デザインジャーナリスト。元日産自動車。「ケンメリ」、「ジャパン」など『スカイライン』のデザインや、社会現象となった『Be-1』、2代目『マーチ』のプロデュースを担当した。東京造形大学教授を経てSTUDIO MATSUI主宰。著作に【D視点】連載を1冊にまとめた『2007【D視点】2003 カーデザインの視点』。
《松井孝晏》

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