【インタビュー】強みはカードとPOSネットワークインフラ…出光興産

自動車 ビジネス 企業動向
販売部次長の大嶋誠司氏
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低炭素社会実現に向け、自動車を取り巻く環境も大きな変化のなかにある。給油を行なうサービスステーション(SS)、いわゆるガソリンスタンドも、来るEV時代に向けた新しい取り組みを開始している。ドライバーにとってSSは定期的に立ち寄る場所であり、慣れ親しんだ時間が流れる空間のひとつ。そんなSSのこれまでのあり方と今後のビジョンについて、出光興産販売部次長の大嶋誠司氏に話を聞いた。

----:出光SSの現状をお教えください。

大嶋:ガソリンの売り上げは、2007年から横ばいになりました。これまでは需要が右肩上がりですから、当然、投資していけばビジネスモデルとして成長し続けることができましたが、2007年というとちょうどハイブリッド車(HV)が普及し始めたころでもあり、安定期に入りはじめたころです。しかし、電気自動車(EV)やハイブリッド(HV)がまだまだ多いわけではなく、ガソリンの需要が激減しているわけでもない。「高速道路1000円」などの追い風もあり、見方を変えて展望すると、過去最高の販売記録を達成した販売店・直営店も見受けられます。

また、SSの従来までのビジネスモデルから転換を迫られているも事実です。大きな変化のなかで生き残るSSは、強い体力の持ち主で、ガソリン外の商売をしっかりと広げ、顧客を増やしています。

----:いわゆる特約店などと呼ばれる販売店と、石油元売会社の直接店の2種類があると思いますが、出光では住み分けなどはあるのでしょうか?

大嶋:我々が抱える直営店は、全体の8%強という割合です。直営店で展開するか、地場の力を最大限に活かした販売店で展開するかは、適宜状況に柔軟に対応して判断します。我々としては直営店・販売店の分け隔て、ユーザにとってのサービスの差異などはありません。

----:石油元売は、オイルや洗車、関連品などの「油外」の販売を強化していますが、石油商品以外での経営ビジョンについてどうお考えでしょうか。

大嶋:「“油屋”なんだから油で食えるようにしてくれ」と店舗の人たちが言うのは当然です。ところがユーザがそれだけでは許さなくなってきています。石油製品もちろん大事ですが、電気やガスのように公共料金制のエネルギーではない。スーパーマーケットと同じように競争環境のなかで値段が付けられます。

店舗の全体収益のなかで、15年から20年ぐらい前はガソリンが7割、油外が3割という比率でしたが、ガソリンの1リットルあたりの店舗ぶんマージンは年々下がってきている。私が入社した時期はガソリン1リットルを売ると20円ぐらいのマージンが入りましたが、現在は5円あるかないか。つまり4分の1以下になってしまっているのです。じゃあ、販売量が4倍になったかというとそうではない。当然のことながらガソリン以外で稼いだり、着眼点を変えて商売の組み立てを考え直すというところに直面しています。

我々の強みである、“お得意様”と呼ばれる顧客の数を十分に活かしつつ、出光系列のもうひとつの強みである地域との結びつきを活かした販売店の力をもって、収益を伸ばしている店舗は数多い。ガソリンの売り上げが全体の3〜4割でも、それ以外で6〜7割の収益を出している力のある店舗も多くあります。

----:油外収益の主な内容はどういったものなのでしょうか。

大嶋:「クルマ関連領域」と呼ばれるものですね。例えば車検です。非常に多くの車検を受注する店舗では、一般の整備工場以上の台数の車検を引き受けています。ひと月に200台を手がけているところもあります。もうここまでくると、ガソリンスタンドというよりも“車検のお店”というイメージが定着しているようです。

我々は、こうした変化を「本業化」といっています。片手間で車検を引き受けるのではなくて、本業として車検を売る店舗は成功しています。「本業化」のなかの車検は「油外」じゃないんです。我々はこうした展開を「トータルカーライフサービス」といいますが、クルマまわりの事業領域をそれぞれに本業化したところは間違いなく成功しているんですね。

ただ、競合もひしめく厳しい状況です。いまでは自動車ディーラーもこのあたりを挽回してきている。新車の段階から車検をパッケージさせ、初回車検をSSにとられないようにしている。オートバックスやイエローハットなどの“用品店”などでも車検を強化しています。つまり競合は同じSS業界ではなく、自動車ディーラーや専門業者などとの戦いになってきています。

----:中古車販売やレンタカーなどの事業はどうお考えでしょうか。

大嶋:中古車販売が本格化したのは5年前ぐらいからです。車検を扱ううちに、クルマそのものを売るということが増えてきました。そして、かなりの台数の車検をコンスタントにこなしている店舗では、代車がおのずと必要となってくる。そうなるとレンタカー事業にもつながっていき、店舗によってはレンタカーのサービスも展開しているところもあります。これまでのガソリンや油外などの商売から飛び出て、車検・中古車販売・レンタカーの延長上で、板金などといったリペア事業にも踏み出しています。この一連のクルマまわりの事業をきちっとおさえている店舗は強いですね。これがひとつの石油業界の勝ちパターンではないでしょうか。本業化できるかどうかが分かれ目だと思います。

----:SSの無人化がすすんでいます。一方で車検や修理というマンパワーで乗り越えていくサービスに人材が必要となってくると思いますが。

大嶋:本業化の肝となる車検ですが、それに対応する整備士を育てるために、我々は職業訓練校としての認定を受ける中央訓練所を抱えています。ここに全国の系列スタッフの人たちが入所し、22日間で実技認定を取って整備士となります。また、販売店経営幹部への収益管理・人材育成の研修やリスクマネジメント研修も行なわれています。この中央訓練所を経たスタッフたちによって、SSは片手間の車検から本業化し、整備工場としてのサービスを提供できるようになります。今後はクルマまわりの事業を拡大させる店舗と、給油だけに特化したSSとの住み分けがはっきりしてくると思います。

----:出光は業界のなかでもいち早くカードビジネスに取り組んできたと思われますが、現在の出光系のカードについてお教えください。

大嶋:これまで石油業界では現金会員カードに注力してきましたが、現在は決済時に顧客と強固に結びつくクレジットカードに注目していますね。SS業界にクレジットカードを導入したのは、出光が初めてです。昭和40年代のことです。そのあと提携機能の付いた出光カードを、セゾンさんと合弁でクレジットカード会社をつくって出しています。

現在、出光では「出光カードまいどプラス」「出光カード」「出光キャッシュプリカ」の大きく3つのタイプのカードがあります。ユーザ獲得件数でいうと、出光カードとキャッシュプリカを合わせて600万件以上のユーザを獲得しています。これらカードを軸としたビジネスが今後大きなカギとなります。

----:洗車、車検、中古車、レンタカーといったビジネスは、出光興産としては情報提供・経営支援にとどめているが、カード運営については自社化がすすんでいるようにみえますが。

大嶋:販売店の力や立地制限・地域差などによって関連品や車検などのサービスには違いが出ますが、カードについてはシステムの標準化を可能とさせますし、グループ全体へ向けたバリューを提供できます。出光は、自社のオンラインPOS導入についても業界で一番早かったので、いまでは全体の4300のSSに対しほぼすべてのお店がほとんど出光POSでつながっています。このPOS導入の早期着手が、現在の自社カードシステム導入のスピードを一気に加速させました。このネットワークが我々のブランド力維持の源泉です。

キャッシュプリカについては、SuicaのようなICチップ搭載型ではなくて、ウェブサーバ上に顧客データを蓄積していくタイプです。こちらも自社システムで、履歴を一元的に扱っています。

----:カード会員のメリットをお聞かせください。

大嶋:クレジットタイプは、これまでポイント付与などのさまざまなサービスに取り組んできましたが、結局は顧客に一番好評を得たのが、常にガソリンが2円引きとなる出光カードまいどプラスでした。年会費無料で累計250万枚を発行し、出光カード普及に貢献しました。いっぽうで、ガソリン2円引きでは不満足というユーザ向けの出光カードも好評です。こちらは使ったぶんに応じた値引率が設定され、最大20円引きとなります。単純に燃料が安くなるというシンプルなカードと、クレジットカードと遜色のないカードの両方を運営しています。

この1リットル2円という値引きぶんの減資は、店舗ではなくて出光興産が負担しています。つまり店舗の売り上げ利益は変わりません。ユーザのカード履歴を管理し、店舗に値引きぶんを定期的にキャッシュバックしています。これも自社POSと連動させているから対応できるのです。キャッシュプリカと同様のSuicaやEdyといったカードの導入も考えていますが、現在は実験的に行なっています。

----:さてEV時代到来を前に、生き残っていく店舗とはどんなところか、未来のSSとはどんなイメージなのでしょうか。

大嶋:根幹となる部分は、出光の強みであるネットワークインフラを最大限に活用し、出光ブランドを選ぶ顧客を広げていくことです。もうひとつの強みである、販売店と地域との強固な結びつきをこれからも大事にした事業を展開していくことでしょう。例えば、車検などのクルマまわりだけでなく、配達ビジネスといった顧客との密接な結びつきによる事業を開発していかなければならない。いっぽうで都市や郊外では、クルマまわり全般に対応できるワンストップサービス型のSSが必要となるでしょうね。

プロモーションについても、カードという大きな軸を通じてさらに展開していきたい。販売店は出光のカードで結ばれた顧客に支えられて出光のマークを掲げられる。今後はある程度出光ブランドとして統一した商品を出していくという可能性もある。例えば「出光の車検」「出光のリペア」などといった展開も考えられるが、店舗ごとの差をどう解消していくかという作業も必要となってきます。

そこでEV時代に向けた展望ですが、この先10年でPHV・EVの比率が自動車全体の15%を越えていくだろうと思われます。PHVだけでみても燃料使用量は従来のガソリン車のおよそ4分の1となり、全体のガソリン需要はこの先10年20年で15%から25%程度落ち込むでしょう。しかし、クルマそのものの台数はがた減りしません。

安価な充電器の普及やEVへのユーザの不安感が拭われて、EVが普及し始めようとする時代に、我々も充電サービスを展開しようと考えているが、投資コストが高いうえに、課金システムが確立していません。しかし、今後も客の数を増やすという目標を達成させるためには、EVにも柔軟に対応できるSSを展開していかねばならない。

今後もクルマの周辺領域を積極的に拡大しつつ、横串となるカード会員を獲得していくというイメージで、EV時代を迎えたいと考えています。

《レスポンス編集部》

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