ここ最近では、“らしさ”が蘇り、往年の輝きを取り戻してきたように感じられるメルセデスベンツだが、10年ほど前から比較的最近まで、コストダウンの痕跡があからさまに見受けられるものが多かった。
当時のメルセデスは、『Sクラス』よりも『Eクラス』、Eクラスよりも『Cクラス』があからさまに下に見えるように、意図的にラインアップのヒエラルキーに序列をつけていたように見受けられた。その影響を受けたCクラスあたりの車種は、結果的にBMWやアウディらライバル車に対して、明らかに競争力の劣るクルマになっていたと思う。
「Eクラスクーペ」は、事実上『CLKクラス』の後継車であるが、こちらもまさにそれが当てはまる。従来のCLKクラスは、価格はそれなりでありながら中身が伴わず、メルセデスの2ドアクーペを所有しようというユーザーの期待に充分に応えていなかったのではという気がしている。そこで、CLKクラスのままモデルチェンジするのではなく、格上のEクラスのクーペとなることで、エンジンラインアップも車格感もワンランク上に持ち上げられた。価格帯もだいぶ上がったが、充足感はその上がり幅を補って余りあるものとなったといえる。
ドライブフィールについては、「E350」の軽快なフットワークも捨てがたいが、「AMG」は不要と思えるほどパワフルで、ダイナミックハンドリングパッケージの標準で付く「E550」により魅力を感じた。
高価ゆえ、このご時世ともなれば買える人も限られるだろうが、珠玉のパーソナルクーペの世界を味わわせてくれるクルマには違いない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
岡本幸一郎|モータージャーナリスト
1968年富山県生まれ。学習院大学卒業後、自動車メディアの世界へ。自動車情報ビデオマガジン、自動車専門誌の記者を経て、フリーランスとして活動を開始。最新モデルからヒストリックカー、カスタマイズ事情からモータースポーツ、軽自動車から輸入高級車まで、幅広い守備範囲を自負する。現在は WEB媒体を中心に執筆中。「プロのクルマ好き」として、常に読者にとって役に立つ情報を提供できるよう心がけている。