2 | 地下鉄線内を初めて走る |
小田急からのデザイン要件は「常時暗めで照明が灯る地下鉄線内にあっても、ロマンスカーとしてのクオリティを極力保つ車両デザインと、VSEで培われた快適な車内環境と他用途にも使いやすい設備の実現」。デザインの開発では車体の固まり感や車体色の選定に、自動車の開発で行われるクレイモデルの制作が行われた。
シンボルとなる先頭車両のデザインは、6両編成と4両編成を連結または単独で運用するため、2種類が設定された。10両編成時に前後端となる先頭部を流線形とし、中間になる先頭部には通常と同じ貫通路付きの箱形が採用された。なお流線形先頭車でも展望席はない。
流線形の先頭車両には妻面(前面)に貫通扉が備わる。地下鉄の駅間で停止した列車から乗客が車外に避難する場合、車外左右に空間がないため先頭車両の非常用扉を使う。しかしこれが問題になった。岡部氏は「縦横ともに複雑な3次曲面であり、グラフィックスや設計段階までは順調だったが、立体化になると、面の表情を崩さないように非常口やガラスエリアを面合わせするのが大変だった」と語る。
先頭部分の構造は衝突事故に備えて強度を確保する。しかし強度のため素材にスチールを用いると、加工の関係でデザイン案の3次曲面を表現できないし重量も増す。そこでコスト上昇はあるものの、表面が滑らかで優美な形状にも適した軽量アルミニウム削り出し材が採用された。
MSEを最も印象づけるのが、青い車体色である。その色の名前は“フェルメール・ブルー”と呼ばれる。少し明るめの青という印象で、これに自動車ではお馴染みのメタリック表現が施されている。フェルメールは17世紀にオランダで活躍した画家だ。働く女性を多く描き、彼女達の衣服やマフラーに鮮やかな青を用いた。
色は印象に主観が多く入るが、フェルメール・ブルーは記者の感じではそう暗くなく、かつ重くない。地上では、わずかに曲面をもった側面に太陽光が反射し、一直線に延びるバーミリオンオレンジのラインが車体を引き締め、旅に出かけたい気持ちをそそられる。蛍光灯の地下ホームで待つ通勤客にとっては、リフレッシュしたり落着きを取り戻す塗装になっている。
岡部氏は「平日は通勤特急として、週末や休日は箱根方面への観光特急としての、2つの性格に適したカラー選択」と語る。