5 | ドイツは、まずくない |
大切なものを忘れていた。ドイツといえばソーセージである。これを食べて帰らなくては、小林幸子を観ずに紅白歌合戦の公開放送から帰るようなものじゃないか。
ところが、思わぬ障壁が待ち受けていた。一般の食堂では、なかなかソーセージを食べられないのである。あってもメニューの一部だ。「ソーセージだけください」とは言いにくい。
代わりに、いちばん気軽にソーセージが食べられるところはというと、ビアホールなのだが、ボクはビールが苦手である。
そんなとき、ドイツ人の知り合いに教えてもらったのが『ラードラー』である。ビールのレモネードもしくはスプライト割りだ。店で作ってくれるほか、瓶に入った市販品もある。見た目は限りなくビールと一緒だが、苦みが抑えられているので親しみやすい。
もちろんイタリア同様、ドイツにはさまざまな地方があって、さまざまな郷土料理が存在する。しかし、「ドイツは“お手軽もの”が意外にうまい!」というのが、ボクの結論である。ドイツは、まずくない。
一見ビール風のラードラー片手に、シュットゥットガルトの裏通りでソーセージをつついていると、いっぱしのドイツ人になった気がしてくるから不思議だ。
しかしその帰り道、イタリア料理店の濃い顔の店員による「ボナセーラ!」の呼び込みに、反射的に「チャオ!」と、あたり構わず大声で反応してしまうボクは、やはりアルプス以南の生活が染みついている。ふるさとの、訛り懐かしベンツの都。