3 | ドイツ人もイタリア料理がお好き |
まずは、冷凍でない“本物”の手作りマウルタッシェンを食べてみよう、と郷土料理屋に赴いた。ところが昨今のユーロ高もあって、ビンボーなボクの身には結構きつい値段である。翌日あるドイツ人に聞けば、そうした店はドイツ人も最近は高くて敬遠するようになっているそうな。
逆に目立つのは、イタリア料理店の多さである。シュットゥットガルトでは、トラットリアやピッツェリアが固まっている一角がある。郷土料理屋より格段に安いので、どの店も大繁盛だ。
実は、この地方には戦後多くのイタリア人労働者が出稼ぎにやってきて、その多くが定住の道を選んだのだという。事実、メルセデスベンツ博物館のパネル展示にも、「1955年、当時の西ドイツ政府とイタリア共和国政府は、労働力の供給に関する取り決めに合意した」とある。
4 | “北の海”チェーン |
しかし、わざわざドイツでスパゲッティをツルツル食べるのも、なんである。そんな思いでふらついていたとき、ふと目に入ったのは『ノルトゼー』というシーフードのフランチャイズチェーンだ。
「Nortsee」とは北海のことである。だからボクなどは、その日から「北の海」と、ちゃんこ料理店と間違うような勝手な呼び方を開始した。付け合わせまで付いて、円換算で1000円以下という、いまどき有難い価格設定になっている。
ボクなどはそれより安い、にしんの酢漬けサンドで感激してしまった。イタリアには数多のパニーニあれど、意外にも魚をはさんだパニーニに出会うことはない。
次に気がついたのは、この地方のブレッツェルのうまさである。あの8の字の型をしたパン、とかく堅くて無味というイメージがある。以前ブッシュ米大統領が、スナックタイプのものを喉に詰まらせて大騒ぎになってからは、さらにボクの中で印象が悪くなっていた。
ところが、シュヴァーベン地方のブレーツェルは香ばしいうえに、柔らかいではないか。屋台やサービスエリアの立ち食いで売られているものでさえ、それなりに食べ甲斐がある。
シュヴァーベン風は、バターを塗りやすいよう、切り込みが入れて焼いてあるのも特色である。人々は、「隣のバイエルン州のブレーツェルより、各段にうまい」だと言って憚らない。
ついでにいうと、このあたりには「BMWはバイエルンのクルマだ」と、地元のメルセデスより距離を置くエンスージアストも多い。自動車産業都市といえば、今や事実上トリノしかないイタリアと違うところだ。