2006年1月27日、中古車TVオークションのオークネットは、「中古車事業者の販売や買取の支援サービスを強化し、オークネット会員店間の中古車流通の活性化を図るために、インターネットを最大限活用した新たな情報流通サービスを今夏より開始する」と発表した。
読者の方の中には、新車販売以降の自動車の流通経路の勘所がない方もいるかもしれないが、ディーラーでクルマを購入する際に下取りに出したクルマや、買取チェーンで買い取ってもらったクルマの多くは、中古車専業者やディーラーなどが集まるいわゆる「オークション」と言われる市場(いちば)に集められ、ここでセリにかけられる。
上のオークネットは、日本に約150会場存在するこうしたオークションの中の大手の1社であり、実際に出品車を会場に集めることをしないバーチャルなオークション会場である。
◆自動車流通市場主とは
今日のコラムのタイトルにある「自動車流通市場主」とは、こうしたオークションを始め、入札会や卸売市場といった「自動車(厳密には中古車)の市場」を運営する運営主のことを指す。
こうした事業者は大きく、
(1)中古車専業店が集まって組成した組合が運営するタイプのJU系---いわゆる中販連系
(2)株式会社の形態を持つ独立企業系---上記オークネットや、USS、CAA、JAAなど
(3)メーカー系---自動車メーカーの資本が入っているオークションや入札会
(4)その他---リース会社や陸送会社、ディーラーなどが独自に開催するタイプ
に分類される。
規模としては(2)、(3)が大きいが、地域密着という意味では(1)が優っているといったところであろうか。
◆自動車市場主の特徴
自動車市場主はほぼ共通の事業モデルによって成り立っている。
これは、セリに掛けられたクルマと落札されたクルマ、それぞれに対して台当り手数料を徴収するというものだ。すなわち、より多くの車を集め、より多くの事業者に落札してもらい(落札率を上げ)、手数料額の値引きを最小化することが、売上最大化に繋がる。
会場・会社ごとに状況は異なるものの、中古車流通市場を経由する車の数はこの数年劇的に増加しており、今年はオークション年間出品台数800万台を目指しているとも言われていることから、単純な台数については問題が無さそうだ。しかし、この台数の内訳を見てみると、リサイクル法の施行に伴うELV(Endof Life Vehicle)とも言われる低年式多走行車が増えており、台当り手数料の額を維持することは難しくなっている。
◆「B2B市場の肥大化」 VS 「B2C市場の縮小」
さらに問題となっているのがB2C市場、いわゆる中古車小売市場の状況である。
実は、中古車小売の統計は日本には存在しないことから(登録台数統計は存在するものの、これには事業者間の取引台数も含まれてしまう)推定でしかないが、B2C市場は決して拡大していない。
つまり、小売台数そのものは減少していることから、限られた優良なクルマを小売するのに最適なB2C事業者への出口を求めたB2B市場での複数回売買がB2B市場肥大化のもう一つの要因となっている。
B2Cが増加しない状態で、最適解を求めた車両の複数売買が継続する為の原資は、中古車流通に伴うマージン(買取若しくは下取り〜小売に至るまでに介在する事業者が課すマージン+実際のコスト)にある。
つまり、この傾向(B2C台数 < B2B台数)が続く間は、日本における当該マージンは徐々に消費されていると言っても良いだろう。また、マージンが消費されながらB2Bの台数はB2Cの台数に近づいていくということも考えられる。
◆もう一つのファクター
国内B2Cが不調な状況下、B2B市場における台数の出口として昨今存在感を増してきているのが中古車輸出である。年間100万台を超えるとされる中古車輸出を生業とする輸出事業者のオークション会場や入札会での存在感はこの数年、著しく高まっている。
日本における中古車は世界的に見て比較的良好なコンディション(年数や走行距離などで見ても)にあるにも関わらず、国内では値段がつかないことが、輸出台数の増加と、こうした輸出事業者の増加に繋がっている。
◆鍵はB2C支援と輸出支援
とある大手C2B(買い取り)事業者の経営者と以前話をしていた際に、意外にも、「B2Cをなんとかしたい、そうしないと自分たちC2B事業者もこのままでは成り立たなくなる」、という危機感を吐露されたことがある。
これはつまり、C2Bとして買い取られた車は事業者間で取引されるB2Bを経由して、最後はB2Cにまでトコロテンのように押し出されなければならないものが、最後の出口が小さくなってしまうと、結果的には市場全体のパイが小さくなってしまう、というものである。
自動車流通市場主であるB2B事業者も同様の悩みを抱えている。
今回のオークネットのインターネットを活用した会員企業の中古車買取〜小売に至るまでの支援事業スタートもこうした流れの一環であるし、同様の取り組みをその他市場主においても模索している。
つまり、今後のサービス高度化の方向性は、B2C支援(より簡単に多くのクルマを小売することが可能なシステムやノウハウの提供)と輸出事業者支援(同上の輸出バージョン)による、出口確保にあるのは間違い無い。
C2Bの領域の拠点数は、下取りを行う新車ディーラーの拠点数が約1万3000箇所、買取事業者大手ガリバーが約500カ所、その他買取事業者であるラビット、アップル、カーセブンなどもそれぞれ100カ所を越える買取拠点を有している。B2C領域の拠点数も、メーカーの中古車拠点に加えて、いわゆる中古車専業事業者数は約2万社とも言われる。
一方、B2Bの中古車流通市場の数はオークションで150カ所、その他でもそう多くは存在しておらず、流通の集積地・要(かなめ)であるのは間違い無い。別の言い方をすれば、流通市場主は日本の中古車流通にそれだけ大きな責任を有していると言えよう。
◆「既存事業者支援」 VS 「C2C」
サービス高度化や新規サービス導入に際して、小売支援や輸出支援といういわゆる「支援」という言葉は当面自動車流通市場主としては外せない二文字である。
すなわち、自分たちの目下のお客様は小売事業者や買取・下取り事業者であり、仮に個人向けの事業に自ら乗り出した場合、こうした事業者からの支持を失うことになるからだ。
これは、オークネットのプレスリリースの末尾にある一文にも象徴されている。
※ご参考
当社では、昨今問題となっているユーザーをBtoBオークションに直接参加させる行為に対しては、従来よりオークション参加規約に、会員店以外の者をオークションに参加させる行為を禁止する事項を盛り込み対応しています。また、新サービス開始にあたり、従来の小売り商談用ショールームシステム「オートバンクシステム」をバージョンアップし、業界健全化を促すシステム活用を促進することで対応してまいります。(出典:オークネットHP)
しかし、ロジックだけで考えると、あのライブドアがジャックを買収した際に発表した「C2Cを模索する」という方向性も否定は出来ない。マッチングに必要な情報技術という意味では、現在でも十二分に実現可能である。
しかし、これをビジネスとして仕組み化していくにはあと二捻り、三捻り必要であるのに加えて、既存の流通事業者、特に流通市場主としては踏み出し難い一歩であるのも間違い無い。