排気量アップはエンジンチューニングの王道だ。排気量こそが正義という声もあるほどで、エンジンを鍛えるならまず排気量と言われる。なぜ排気量アップは効果が大きいのか。
まず、エンジンは排気量に応じた量の空気を吸い込める。この空気にガソリンを混ぜたものを混合気と呼び、燃焼室に取り込んだ混合気へ点火プラグで火を付けて燃焼させ、その圧力でピストンを押し下げてパワーを得ている。直噴エンジンでは空気を吸い込んだ後、燃焼室へ直接ガソリンを噴射し、そこへ点火して燃焼させることで出力を生み出す。
◆排気量アップが効く理由は「入る空気と燃料の量」にある
排気量が大きいほど、より多くの空気とガソリンを燃焼室へ取り込める。直噴エンジンであれば、吸い込んだ空気量に合わせてたくさんのガソリンを噴射できるため、燃焼エネルギーも大きくなりやすい。
排気量はそのままに圧力を掛け、排気量相当以上の空気を押し込むのがターボやスーパーチャージャーの原理だ。コンプレッサーで圧力をかけてエンジンに空気を押し込み、より大きな燃焼を起こせば強い力が得られる。
そして今回取り上げるのが、排気量そのものを増やす排気量アップチューニングである。排気量を増やせば、パワーやトルクを土台から底上げできる。少しでも多くの空気を入れるためにカムシャフトを変更したり、近年は可変バルブタイミング機構のマップを調整したりもするが、そもそも排気量が大きいほど同じ条件でも大きな出力を引き出しやすい。
排気量アップの方法はいくつかある。ボアアップはピストン径を大きくする手法で、ピストンに合わせてシリンダーをボーリングと呼ばれる作業で精密に切削し、内径を拡大する必要がある。手間は掛かるが排気量を増やせるのがメリットだ。このボーリングは内燃機屋での加工が必要で、作業にはノウハウも問われる。近年は職人の高齢化などで内燃機屋が減っており、大手の内燃機屋では加工まで数か月待ちになることも珍しくない。
ストロークを長くして排気量を増やす方法もある。こちらはクランクシャフト交換が基本で、同系統エンジンに排気量の大きい派生モデルがあれば、そのクランクシャフトを流用するケースもある。専用品としてクランクシャフトを製作する場合もあるが、サイズと精度の要求が高く、どうしても高価になりがちだ。
◆排気量アップはECU制御と耐久性まで含めて「総合チューン」
排気量を上げる方法は複数あるが、課題になるのは制御と耐久性だ。
吸い込める混合気の量が増えるため、ECUの書き換えは基本的に必須。仕様によってはフルコンを導入し、燃料噴射量と点火時期を最適化することも欠かせない。
車種によっては排気量アップ後にインジェクター容量が不足することもある。そこで大容量インジェクターを検討したくなるが、直噴エンジンは噴霧形状や噴射エリア、タンブルなどが緻密に設計されているため、他車種を流用すると影響が読みづらい。現状ではショップのデモカーなど一部で、直噴インジェクターを大容量品へ変更しトラブルなく走っている例もある一方、一般ユーザー向けに同様のメニューを安定して提供できる段階に至っていないケースもある。
さらに排気量アップ後にチューニングを重ねれば、これまでとは別格のパワーを引き出すことも可能になる。そのとき問題になりやすいのが車両全体の耐久性だ。ミッションブローやクラッチ滑りが起きたり、ドライブシャフトも強度が持たない可能性があるなど、考え出すときりがないが、各部への負担が確実に増えるのは間違いない。エンジン側でも発熱量が増え、ラジエーター水温やエンジンオイル温度が上がりやすくなるため、冷却系もまんべんなく強化していく必要がある。つまり排気量アップチューンは、トータルコストが大きくなりやすいチューニングと言える。
マツダのNA/NB『ロードスター』のように1.6L車へ1.8Lを載せ替えるといったケースは、純正部品の流用が中心になるためコストを抑えやすい。一方でチューニングパーツで排気量をアップさせる場合、それなりの出費は避けられないだろう。









