産業技術総合研究所(産総研)とブリヂストンは12月4日、使用済タイヤを室温で化学分解し、タイヤ原料を回収するケミカルリサイクル技術を開発したと発表した。
タイヤゴムはポリイソプレンなどのポリマーとカーボンブラックを混ぜ合わせた後、硫黄によってポリマー間を架橋することで、弾力性・耐久性を持ったゴム製品材料として供給されている。現状、使用済タイヤのほとんどは燃料として利用されるサーマルリカバリーで処理されており、資源の枯渇やCO2排出量の増加による気候変動などの問題に対応するため、使用済タイヤを繰り返し資源として活用するケミカルリサイクル技術の開発が求められていた。
今回開発した技術では、タイヤゴムに触媒と溶媒を添加して室温付近で攪拌するだけで化学的な分解反応が進行し、架橋したポリイソプレンゴムが液状になる。このため、ポリイソプレンと固体成分のまま残存するカーボンブラックを容易に分離できる。
研究チームは、硫黄成分が共存しても活性を失わない特徴を有する錯体触媒の探索を行った結果、硫黄架橋や酸化防止剤存在下でも機能する高活性なメタセシス反応用触媒を見出した。また、今回見出した反応条件では、短く分解されたポリイソプレンが、メタセシス反応によって再度長い鎖に戻る反応が抑えられることもわかった。
これにより、触媒と溶媒のみで、他に反応剤を添加しなくても、室温付近の温和な条件下で加硫ポリイソプレンゴムの分子鎖を短くし、液状のポリイソプレンを得ることに成功した。原料の加硫ポリイソプレンゴムは溶媒に溶解しないが、反応後の分子鎖の短いポリイソプレンは液状で溶媒にも溶解するため、溶媒に不溶な固体成分であるカーボンブラックと容易に分離できる。
この化学分解過程では、元のイソプレン骨格を保持したまま分子鎖が短くなる。そのため、得られた液状ポリマーをさらに熱分解することにより、イソプレンモノマーを主成分とするタイヤ原料を回収することができる。加えてBTX(ベンゼン・トルエン・キシレン)などの化成品原料を得ることが可能だった。
反応生成物の詳細な解析から、ポリイソプレン間で炭素-炭素二重結合が組み変わる分子間メタセシス反応ではなく、分子内メタセシス反応を主な反応経路として化学分解が進行することを明らかにした。液状ポリマーの主成分は環状イソプレン4量体を中心とした環状化合物であることが判明し、環状イソプレン4量体を分離精製し単結晶X線構造解析することで、初めて立体構造を含む分子構造の解明に成功した。
本手法は、実験試料として当初用いていたモデルゴム材料に限らず、実際の使用済タイヤから回収したゴムの化学分解にも適用可能だった。
今後は、加硫ポリイソプレンゴム以外にもメタセシス反応による化学分解が可能と考えられるブタジエンゴムなどへの展開を検討する。また、今回初めて分離精製に成功した環状イソプレン4量体については、未利用炭素資源としての用途開拓の検討を進める。さらに使用済タイヤのケミカルリサイクル技術の社会実装を目指して、さらなる高効率な反応の開拓やスケールアップの検討を推し進め、2030年代の事業化に向けた検討を推進していく。





