【MINI クーパー 新型】「クラシックMINIとモダンの融合」デザイナーが語る、新時代のMINIとは

MINI クーパーE
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  • MINIのデザイン部門責任者のオリバー・ハイルマー氏
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  • MINIクーパーEとMINIのデザイン部門責任者のオリバー・ハイルマー氏

3月1日、MINIの3ドアハッチバックが『クーパー』と名乗りフルモデルチェンジし、MINI初の電気自動車『クーパーE』もデビューした。そのデザインはクラシックMINIをモチーフとしながらも、新しさを感じさせるものに仕上がった。発表に合わせて来日したデザイナーに、新型クーパーのデザインの肝、そして同時に追加されたBEV『カントリーマンE/SE』との違いについて直撃した。

◆カリスマ的なシンプルさ

MINIクーパーEとMINIのデザイン部門責任者のオリバー・ハイルマー氏MINIクーパーEとMINIのデザイン部門責任者のオリバー・ハイルマー氏

発表に際しドイツ・ミュンヘンから来日したのはMINIのデザイン部門責任者のオリバー・ハイルマー氏だ。2017年から現職にある。

新型クーパーの開発が始まったのは5~6年ほど前にさかのぼるという。「MINIというブランドのアイデンティティを理解しようというところから始まりました」とハイルマー氏。クラシックMINIの開発者、アレック・イシゴニスに対し、「いまでいえばスマートシンプリシティを実現しました。その一方で非常にカリスマ性のあるオーラも作り上げたのです」と語る。イギリスは階級社会であるが、その階級を飛び越え、多くの人たちに愛されたことを指し、一般市民から有名な芸能人やモデルなども愛用した。これを「カリスマ的なシンプルさ」とハイルマー氏は呼ぶ。そこで新型でも「より多くのカリスマ性をMINIに導入しながらもシンプルさは維持したい」と考えていった。つまり、「1959年のクラシックMINIを再び体験しようと思った」わけだ。

このカリスマ的シンプルさはキャラクターだけの話ではなく、エクスペリエンスでも表現された。2018年当時、新型MINIクーパーを会社の取締役会に提案した際に、あるストーリーが話された。それは、「カップルや友達がどこかで会うときにはあらゆるデジタル化のエレメントやコネクティビティを使うでしょう。それをMINIを通して行えるようにしたい」というものだった。

MINI クーパーEMINI クーパーE

その表現は特徴的な丸型のディスプレイの中で表されるエクスペリエンスモードだ。「色やパターンだけでなく、サウンドも含めて設計されました。ドライバーが“上がる”モードやクラシックな気分も味わうこともできるでしょう。さらにその画面には好きな写真をアップロードし表示することもできるのです(パーソナルモード)」。

またハイルマー氏はサウンドも非常に重要だと話すが、それはなぜか。「ホラー映画を音なしで見てみてください。あまりぞっとしないでしょうしインパクトもないですよね。つまりいかに音が大きな役割を果たすかということです」と述べる。「人間は、目で見るよりも音を聞いた方が早く反応できます」。そのためにまず、警告や通知というサウンドがある。

続いて差別化という視点では、「他と比較しMINIで重要なのがエモーション、感情です。その感情をサウンドという形でさらに深めることができます」。例えば歩行者へ安全を促すためのサウンドはMINI特有のサウンド。ドライビングサウンドも、「ゴーカートモードを選ぶとスピード感やエンジン音といったものを感じることができます。そして、特定のカスタマーモードではジングル音もあり、そのタイムレスジングルを聞くと“過去からのインスピレーション”を得ることもできます」と話す。このタイムレスジングルは、「サウンドデザイナーがクラシックMINIにマイクを当ててその音を聞きながら解釈し作り上げたものなのです」と説明した。

◆フロントマスクにこだわった理由

MINIのデザイン部門責任者のオリバー・ハイルマー氏MINIのデザイン部門責任者のオリバー・ハイルマー氏

エクステリアデザインでハイルマー氏がこだわったのはフロントフェンダーやボンネットとそれらが一緒になってヘッドライトに集まっているあたりだ。「ソフト感があって非常に緻密にできていますし、不要なものは何ひとつないでしょう。ここがまさに個人的にも好きなところですし、これが達成できて非常に満足です」という。また、「歩行者の安全も確保され、かつ、パーツ交換も安くできるように工夫されていますので、国によっては保険料金が安くなります」という。

そのフロントではグリルフレームのプロポーションが、「クラシックMINIに近づきましたが、ボディカラーがグリルフレームに入っているところなどでモダンな要素も取り入れています。また、ボンネットはエモーショナルな面構成で、くるっと丸みを帯びながらヘッドライトを包み込むようにしています」と説明。

サイドから見たプロポーションでは、「MINIはなるべくコンパクトにしたい。そこで先代よりも全長は短く、しかしホイールベースは長くしましたので、後席足元は広くなっています。そしてホイールは少し大きくなり、四隅に配していますのでプロポーションはとても良くなっています」とハイルマー氏。また、床面にバッテリーを搭載しているにもかかわらず全高は先代と同じくらいだ。

さらにサイドのハイライトラインの通し方にも工夫が見える。通常は「ドアハンドルよりも上側を通すのですが、今回はドアハンドルよりも下げました。それによって光から影に移行するところがより低い位置で見えるようになり、結果として低重心感を醸し出しているのです」と説明した。

MINI クーパーEMINI クーパーE

◆クーパーとは違うカントリーマン

ではカントリーマンはどうか。「大胆、安定、そして成熟がカントリーマンのキーワードです。ボンネットもモダンで、少し彫り込みがあり、パワードームとちょっと違った解釈をしています」とハイルマー氏。

クーパーと比較すると、「ボディカラーがグリルに入っているところは共通」とMINIファミリーであることを強調する一方、ヘルメットルーフはクーパーでは踏襲されたが、カントリーマンでは変更された。これはまずラゲッジルーム拡大とエアロダイナミクス改善が主な目的で延長された。

MINI カントリーマンMINI カントリーマン

しかし見た印象は「そこまで長く見えないようにルーフにサイドスカットルを用いましたが、これはサーフボードのフィンではないですよ(笑)」とハイルマー氏。サイドスカットルを辿るとリアホイールに向かっているように見せることで、「実際のサイズよりもコンパクトに感じられるでしょう」と述べた。

◆いつデザインされたのかわからないものを実現する

クーパーを見ているとクラシックMINIを意識しながらも新しさも感じさせたいという意識が見て取れる。言葉にすると「クラシックモダン」とでもいおうか。ハイルマー氏も、「タイムレス、時空を超えたいという意識の中でデザイナーとしてできる最高のこととは、本当に時を超えたようなものを作り上げるということです。いつの時代なのかわからない、いつデザインされたのかわからないものを実現することです」という。家具を例に挙げると、「チャールズ&レイ・イームズの家具はまさにクラシックでシンプル。60年も経っているかもしれないけれどもモダン性も感じさせています。いまのファッションにだけ応えるような、数年間で飽きられるものは作りたくない。長きにわたって皆さんに愛されるクルマを作りたいのです」と話す。

それはまさにサー・アレック・イシゴニスのクラシックMINIに通じるものでもある。それを現代に解釈するのは困難だったことだろう。「本当に大変でした。特に最初はこれは残すべきものと提案したものが、別の人は止めるべきだという。そこでの私の役割はバランスをしっかりと取っていくことでした。一人が意思決定するのではなく、話し合いを通していろんなトピックを深掘りしていくことが重要です。そうするためには最初に共通認識を持たないといけませんよね。そこに時には数週間かかるんです。そのうえで初めて何が正しくて何が間違っているのかの議論ができるようになるわけです」と語る。

MINI クーパーEMINI クーパーE

今回も同様に進めたようだが、そのプロセスの中でチームとして行き詰まった時もあった。「その時はあえて一週間何もやらないことにしました。そうしてまたみんな戻ってきて、思いもリフレッシュされたということがありました。実はそれが結構役に立ちましたよ」と笑う。

しかし、日程的には厳しくなることからなかなか決断ができないことの方が普通だ。ハイルマー氏は、「もちろんそうですよね。確かにより早くといわれました。でも考えてみると、子供が生まれるまでに10か月かかるんです。もちろん人の出産とは比べられないかもしれませんが、それはデザインも一緒で温める時間が必要なんです」と、この時間があったからこそこのデザインが生み出されたことを語った。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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