ニュルマイスターの木下隆之、“世界一過酷な耐久レース”ニュル24時間挑戦で感じたトーヨータイヤの真価

ニュルブルクリンク24時間耐久レース
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第51回「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」が21日から22日にかけて、ドイツ・ニュルブルクリンクで開催された。トーヨータイヤは長年ニュルブルクリンク24時間耐久レースに参戦している、木下隆之選手と共に24時間レースに挑んだ。

トーヨータイヤは2020年よりNLS(ニュルブルクリンク耐久シリーズ)に、現地のレーシングチームのリングレーシングとタッグを組み参戦。2023年1月に同社のプロクセスシリーズ、ブランドアンバサダーに就任した木下隆之をドライバーに起用している。

木下選手は2001年よりニュルブルクリンク24時間耐久レースに参戦しており、2004年には日本人最高位の総合5位を記録するなど、日本人ドライバーでは最多出場記録の26回を保持している。

◆強力なGT4マシンしのぎを削るSP10クラスに「プロクセス スリック」で挑む

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そんな経験豊富な木下選手と、地元で長年レース活動を行っているリングレーシングの経験を生かし、トヨタGRスープラGT4』で標準車とアップデートキットを装着したEVO 2023の2台を投入して24時間レースに挑む。装着タイヤはGRスープラGT4に合わせてレース用に開発された、トーヨータイヤの「プロクセス スリック」だ。木下選手はWエントリーとしてどちらのマシンにも搭乗してレースに参戦する。

トーヨータイヤ陣営のGRスープラはSP10といわれるGT4カテゴリのクラスに分類され、BMWM4 GT4』、アストンマーチンヴァンテージ AMR GT4』、メルセデスAMGAMG GT4』など、強力なライバルが名前を連ねる。

予選は昼夜合わせて3回行われ、その結果GRスープラGT4 EVO2023の71号車がクラス3番手、GRスープラGT4の70号車がクラス12番手からのスタートとなった。

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決勝は21日土曜日の16時にスタートが切られ、トーヨータイヤの2台も順調に周回をこなしていく。1人当たり概ね1時間程度ドライブし、8周前後を走るとピットインして次のドライバーと交代していく。1台につき4人前後のドライバーを登録し、他のドライバーが走っているときは休息するのが一般的だ。

木下選手はWエントリーしているので、例えば70号車に乗りコースを周回してピットに戻ると、次に71号車に乗る。同じGRスープラGT4とはいえ標準車とEVOという違う車両に連続して乗り、2スティントを担当する過酷なレースを行なっていくのだ。

◆ニュル24時間を走り切るには、どのような性能が求められる? 木下選手に聞いた

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「ニュルは1日に四季があると言われるように場所によって暑かったり寒かったり、時には場所によって雨が降っているところがあれば晴れているところもある。天候変化の大きい環境では、タイヤの温度レンジの幅が広い方がいいことも多い。ドライにも良くてちょい濡れの雨にも対応できる、オールマイティなタイヤの方が使いやすいケースも多い。ピンポイントにグリップ力を求めるのではなく、常に80点の性能が出るタイヤがベストなのでないか」と、天候変化の大きいニュルブルクリンクならではの性能を求めている。

「今シーズンすでにNLSを2戦終えて、今回の24時間耐久レース。路面温度の低い時でもしっかりグリップ感は出ているし、今回の予選のように暖かいときでもしっかりタイムを出せている。良い感じのタイヤが用意されていると思う」

「ウェットタイヤは今シーズンあまり出番がないが、NLSの時に発熱しないでグリップ力が低い時もあった。今回対策を練ってくれたようなので、多分問題はないと思う」と木下選手は語る。

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トーヨータイヤ技術開発本部の富高 祐氏は「2020年から参戦していますがその時はアメリカでレースをやっていた時のタイヤで、アジャストしてニュル仕様にしていました。ある程度テストやNLSに参戦したことでデータが集まり、新規に型を起こして刷新しました。そこからまたデータ収集を行い、2022に内部の構造を作り替えました。おかげさまで去年のNLSでクラス優勝を2回獲れたこともあり、手応えを感じています」と、何年もかけて今のタイヤに辿りついたという。

「昨年のニュル24時間が終わった後、新素材を投入したテストを実施しました。その素材が良い結果を生み出しています。さらに昨年までのタイヤもバランスは取れていたのですが、グリップと耐久性のバランスを少しグリップ寄りに変更してみました。それでも耐久性にはマージンがあるので、もう少し変更ができるかもしれません」と新素材を投入することでグリップと耐久性の二律背反をうまくバランスさせているようだ。

最終的に71号車は146周でクラス5位・総合24位(70号車はクラッシュによりD.N.F)で無事にチェッカーを受けた。木下選手は両方のマシンに乗りおよそ8時間のレースを終えた。トーヨータイヤとしても昨年の総合順位43位から27位へ上位フィニッシュへの記録を更新、来年度もクラス優勝を目標に挑戦予定とのこと。

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レース後の木下選手のコメントは「大変だったけど、良いレースができたと思う。今年はNLSに当初から参戦させてもらい、トーヨータイヤ、プロクセスの知名度アップのためにレースを行なっている。観光気分の24時間レースではなく、ちゃんとプロジェクトに入る戦力となるようにNLSにも参戦させてもらっている。今後はいくつかのレースは決まっているものの調整中のレースもあるが、ニュルに拠点を設けているのでいつでも乗れる体制は整えている」と語ってくれた。

◆モータースポーツで鍛えたタイヤは、最適な性能を見極めて市販タイヤに生かされる

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ニュルブルクリンク24時間耐久レースで得られたデータが、どのように量産タイヤにフィードバックされるのか、まずは木下選手に聞くと、「データがたくさん集まっているので、日本のサーキットとは路面のμなども違う。むしろニュルの北コースは一般道に近いので、そのデータは市販タイヤに活かせると思う。やはりドイツはアウトバーンでの走行スピードは高いし負荷も高い。せっかくドライバーとして乗せてもらっているので、こういう風にしたらどうだろうか?などのアドバイスはさせてもらっている」という。

開発者の富高氏も「木下選手を含め、レーシングドライバーから様々なフィードバックをいただいていますので、それを今後のタイヤに活かせていければと思います。市販車のタイヤに関しても、活かせるデータは活用していきたい。ただしレース用タイヤはグリップ力だったり耐久性だったり、特定のところの性能が大きく突出していて、他の静粛性などは考慮していない部分もあります。これを市販タイヤに落とし込む時にどのようにバランスさせていくのかが難しい」

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「新技術や新素材もレース用には良いかもしれないが他のタイヤに向いているのか。プロクセスの中にもハイパフォーマンスタイヤやSUV向けタイヤなどもあるので検証を行なっていく必要があります。何年か性能テストなども必要なので、レースに勝ったから即市販タイヤに落とし込むということは難しいところもありますが、将来的には役立っていきます」と語る。

ヨーロッパをはじめ世界に向けたブランドの知名度アップはもちろん、レースから得た知見を市販タイヤに落とし込む。壮大な実験がニュルブルリンク24時間耐久レースを通じて行われているのだ。

《雪岡直樹》

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