【ヤマハ MT-10 SP 試乗】今後これほどコストのかかったハイパワーネイキッドが登場するだろうか?…小川勤

ヤマハ MT-10 SP
  • ヤマハ MT-10 SP
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  • エンジンはMotoGPマシンの技術がフィードバックされた、クロスプレーンクランクを採用した並列4気筒。YZF-R1よりもクランクの慣性を増やして一般道で扱いやすい特性としている。11,500rpmで166psを発揮する
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  • 特徴的なフロントマスク。フロントフォークマウントでなくフレームマウントのため、ハンドリングの軽さにも貢献
  • シート高は835mm。YZF-R1よりも低く設定されているが、きちんとスポーツライディングにも対応したカタチ

「The king of MT」。ヤマハMTシリーズの頂点にいる『MT-10 SP』は、ヤマハのトップスーパースポーツである『YZF-R1』がベース。2022年にマイナーチェンジを受け、規制に対応しつつ6psのパワーアップを果たし、166psを発揮。さらに細部を見直し熟成している。

速さを追求するための電子制御で快適さを追求

ヤマハ MT-10 SPヤマハ MT-10 SP

モードを確認せずに、ちょっと油断して走り出したら、物凄いレスポンスのエンジンと物凄い硬いサスペンションに面食らった。メーターを見るとAモードになっており、路面がウエットだったので尚更である。スロットルを開けるとまるで猛獣のようで、ずっと唸っているし、吠えているような感覚なのだ。ちょっとのスロットル開度で車体が敏感に反応し、手の付けようがないほど元気だ。

MT-10 SPの威圧感やボリューム感は凄まじい。しかし雨天時用のDモードにすると、先ほどまで吠えていた猛獣が途端におとなしくなる。スロットル操作に対する反応は穏やかで、サスペンションも柔らかくなり、乗りやすいバイクに変身するのだ。それは雨の憂鬱さがすぐに吹き飛ぶほどに楽しいバイクで、MT-10 SPはとても軽快に市街地を駆け抜けていく。

アップライトなポジションだけでなく、YZF-R1Mと比較すると25mm低いシートのおかげで身長165cmの僕でも馴染みやすく、AからDモードにするとサスペンションも柔らかくなるため、さらに足着き性も良くなるイメージだ。

ヤマハ MT-10 SPヤマハ MT-10 SP

この電子制御式サスペンションは上質で、さすがオーリンズという乗り味。YZF-R1に近いレーシーな車体ディメンションにも関わらず、市街地での速度域でも安定感と軽快感を両立。これは、サスペンションのベース性能の高さとヤマハがMT-10 SP専用に与えたセッティングのおかげだろう。

電子制御というと難しさを感じたり、自分にはわからないと思う方も多いが、MT-10 SPのモードは直感的に触れるわかりやすさがあり、すぐに慣れることができると思う。また、モード変更によるバイクの変化の幅も大きい(もちろん細かく設定することも可能)から自分の好みを探しやすい。レースで速さを追求するために生まれた最新技術が、こうして快適性や安全性に結びついているのはとても良いことである。

並列4気筒唯一のクロスプレーンエンジンを堪能しよう

エンジンはMotoGPマシンの技術がフィードバックされた、クロスプレーンクランクを採用した並列4気筒。YZF-R1よりもクランクの慣性を増やして一般道で扱いやすい特性としている。11,500rpmで166psを発揮するエンジンはMotoGPマシンの技術がフィードバックされた、クロスプレーンクランクを採用した並列4気筒。YZF-R1よりもクランクの慣性を増やして一般道で扱いやすい特性としている。11,500rpmで166psを発揮する

世界最高峰のロードレースであるMotoGPから生まれ、スーパーバイクでも活躍するヤマハのクロスプレーン4気筒エンジンの爆発感覚は、不等間隔。一般的な並列4気筒の爆発間隔は等間隔だが、ヤマハだけはまるで異なるエンジンを搭載。それはエンジンを始動した瞬間に音や鼓動から感じられる。

そんなレーシーな技術で構築されたエンジンだが、走行中に常に感じられるのは、速さでなく快適さと豊かなパルス感だ。スロットルを開けると後輪のグリップを作り出せるようなフィーリングがあり、ここに他の並列4気筒との決定的な差がある。またエンジンを回しても振動がなく、スロットルを戻した際のエンジンブレーキも少なめ。だから速度域が上がってもハンドリングの軽さをキープできるのだ。

また、Aモードにして高速道路に乗ってみると、とてつもない加速が可能。回りたがるエンジンを少しだけ引っ張ってみる。独特のパルス感とともに軽やかに伸びていくクロスプレーンエンジンは、躍動感に溢れ、エンジンの欲望のままスロットルを開けていくと、とんでもない速度に到達してしまう。また、のんびりと走りたい時にはクルーズコントロールも有効。まさにどんな要望にもすぐにフィットしてくれるのが良い。

MODE-Aはかなりレーシーで、トラクションコントロールの介入も少なめ。サスペンションの減衰力も強めだ。もちろん各制御の介入度合いを変えたり、サスペンションをさらに細かくセットすることも可能。MODE-Aはかなりレーシーで、トラクションコントロールの介入も少なめ。サスペンションの減衰力も強めだ。もちろん各制御の介入度合いを変えたり、サスペンションをさらに細かくセットすることも可能。

26万4000円の価格差ならSPをオススメしたい

ハンドリングは軽く、ブレーキのタッチもレース譲りのコントロール性の高さを約束。ブレーキレバーを引き込んだ時のフィーリングだけでなくリリース感も良く、とにかくすべての操作に上質感がある。この上質さの積み重ねが良いバイクに乗っている実感を高めてくれる。また、どこに行っても高い存在感を発揮し、「The king of MT」の貫禄はさすがだ。

ちなみにMT-10は今回紹介したMT-10 SPとスタンダードモデルのMT-10の2機種を用意。スタンダードモデルは機械式のサスペンションを搭載し、スイングアームなどの処理が異なるのだが、価格差26万4000円なのであれば、僕はMT-10 SPをオススメしたい。電子制御のモードに合わせて、パワーやトラクションコントロールだけでなくサスペンションのフィーリングが変われば、より自分に合わせたバイクに仕上げやすいからだ。

走るほどに、今後これほどコストのかかったハイパワーネイキッドが登場するだろうか? と思う。ここにヤマハのハイパーネイキッドの究極を感じずにいられない。それほどMT-10 SPは完成度が高く、上質だ。

ヤマハ MT-10 SPと筆者(小川勤氏)ヤマハ MT-10 SPと筆者(小川勤氏)

■5つ星評価
パワーソース:★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★
快適性:★★★
オススメ度:★★★★

小川勤|モーターサイクルジャーナリスト
1974年東京生まれ。1996年にエイ出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2輪メディア立ち上げに関わり、現在は『webミリオーレ』のディレクターを担当しつつ、フリーランスとして2輪媒体を中心に執筆を行っている。またレースも好きで、鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などにも多く参戦。現在もサーキット走行会の先導を務める。

《小川勤》

モーターサイクルジャーナリスト 小川勤

モーターサイクルジャーナリスト。1974年東京生まれ。1996年にエイ出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2輪メディア立ち上げに関わり、現在は『webミリオーレ』のディレクターを担当しつつ、フリーランスとして2輪媒体を中心に執筆を行っている。またレースも好きで、鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などにも多く参戦。現在もサーキット走行会の先導を務める。

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