【プジョー リフターロング 新型試乗】フレンチMPVの中で最も“陰キャ”? でも実は秀逸なんです…南陽一浩

「二枚目クール顔」のリフターは“陰キャ”認定されやすい?

プジョースポール的な意匠にニヤリ

3列目の存在と大容量、長尺モノの横積みも行ける積載性

ベルランゴやカングーとは違う、「流石プジョー」な走りの冴え

プジョー リフター・ロングGT
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今春、ついに日本市場に新型『カングー』が上陸し、ますます選択肢の増えたフレンチMPV。直接のライバルといえばシトロエン『ベルランゴ』だが、そちらも今年からロングボディ版を追加して新型カングーを迎え撃っているのは周知の通り。でもちょっと待て、プジョー『リフター』にも同時にロングボディが導入されているではないか。正確には「リフター・ロングGT」、価格は455万円~となる。

◆「二枚目クール顔」のリフターは“陰キャ”認定されやすい?

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なぜか「ファニー顔」であることが求められやすい「フレンチMPV三羽ガラス(今、勝手にそう呼んでみた)」の中で、新型カングーがデザインに可愛げがなくなったという声もあり、トヨタ『シエンタ』辺りが虎視眈々と可愛げ需要を掬い上げてきたことも手伝って、元より「二枚目クール顔」のリフターは、どうしても割を喰っているように感じられてならない。はっきりいって、フレンチMPV三羽ガラスの中で唯一、イエローとかアーモンドグリーンといったファンシーな外装カラーの用意がない&もしかして似合わないことで、リフターは過少評価されているのだ。

そんな元より陰キャ認定されやすいリフター・ロングの広報車は、これまたガッチャマンでいうコンドルのジョーか、ゴレンジャーでいうアオレンジャーみたいな、ディープブルーの外装色。ドアを開けば、ハードプラスチックとはいえサテン処理の施されたマット質感のカッパーのような褐色の内装パネルが迎えてくれる。シート生地のミディアムグレーと細いブロックチェックは、前期型ではウール風質感だったのが、デニム風に改められたようだが、いずれ古典的なコードに則った素材感を大切にする控えめなスポーティさは、ステランティス・グループになって旗艦はDSやアルファロメオ、マセラティらに譲ったとはいえ、筆頭ブランドたるプジョーの王道でもある。ようはクールな2枚目のように見えて、中身は温かみアリなキャラともいえる。

ちなみにアズール&マロン(碧と栗)は地中海圏では色の組み合わせとして大定番だ。もちろん、この手の甘くないシックさ、抑制の効いたハーモニーは、フワちゃん的ハッピーな飽和度高めのカラフル系の方が映えて目に飛び込みやすくて効率良しとされる令和の日本では、ほぼ絶滅に瀕した貴重なテイストであることはいうまでもない。

◆プジョースポール的な意匠にニヤリ

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i-コクピットの作法通り、ステアリングの上からメーターバイザー内、インストルメンタルパネルに目をやると、まるで2連メーターと目が合ったような不思議な既視感を覚えた。まさか !?とググって画像検索してみたらそのまさかで、燃料計と水温計を中央に移されたとはいえ、『308GTi by プジョースポール』とほぼ同じ意匠のアナログメーターだった。

レブカウンターは時計周りだが、針などはまったくそのままだ。こういう演出にほだされてステアリングを握る手についグッと力がこもってしまうタイプは、もうオールド・プジョー・ファンなのだろう。何せi-コクピットも、初採用の初代『208』からすでに12年近くが経過しているのだ。

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そう考えるとリフターの内装というかエルゴノミーは、心地よいオールドスクールでさえある。商用車ベースのレジャーヴィークルだというのにプジョー・リフターのセンターコンソール収納には、上品にもスライド式シャッターが備わっている。ベルランゴの「シャイン」と同じ仕様だ。ここが剥き出しのドリンクホルダーになっている車は、アメリカ市場で売れてナンボのハイエンドSUVにも多いが、砂糖水みたいな炭酸飲料の缶を四六時中立てていないで、ブレイク兼ねてカフェにでも寄ったら?というのが、フランスでは古典的な考え方だ。ミネラルウォーターやコーヒーの紙カップが収まるポケットは右前方、よりステアリングの手元に近い位置にある。

他にもセンタースクリーン裏とかメーターパネル手前、あるいはオーバーヘッドコンソールなど、収納ポケットは充実している。とはいえロングボディの要にして収納の本丸は、3列目シートの存在と、拡張可能な荷室容量、そして積載量にある。

◆3列目の存在と大容量、長尺モノの横積みも行ける積載性

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リフター・ロングの全長は通常モデルより+355mmとなる4760mm。全幅1850mmは不変で、全高も1900mmとノーマルより20mm高い。荷室容量アップ分だけ増した積載量に対応して、リアサスのプリロードが強まっているためだろう。注目の荷室容量は、5名乗車時のノーマル983リットルに対して、ロングは3列目を外した状態で1538リットルと、軽々1.5倍以上。2列目シートを畳んでも2126リットル対2693リットルと、30%以上も広い。

容量が大きいだけでなく、2列目シートはカングーが6.4分割であるのに対し、リフターは独立3座なので、畳み方に応じて容量を目盛り的に区切るのも積み方も至極モジュラーブル。3列目シートは前後スライドも可で、大人も座れる造りと空間になっており、取り外しも効けばシート背面の前方屈伸も効くので、あらゆる荷物や積み方ができるバーサティルさという意味では、並ぶものは永遠の陽キャにしてライバル、ベルランゴしかいない。

これまたロングボディの恩恵だが、フロアの出っ張りが2列目シートの後方に追いやられているため、シート脚の間に長尺物を横積みすることができる。5名乗車時の積載性で、5人乗りモデルに対してもっとも差のつく部分といえるだろう。

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◆ベルランゴやカングーとは違う、「流石プジョー」な走りの冴え

でもリフターを、ベルランゴやカングーと異なる独特のフレンチMPVたらしめているのは、やはり走りの部分だ。ベルランゴ・ロングと限りなく同じ内容のはずなのに、ステアリングと足まわりのセッティングの違いで、流石プジョーという冴えを見せる。具体的には、小さく少ないステアリング操舵の当て方で、ノーズの動きを速くも遅くも、また自在の角度に決めていける。3m近いロングホイールベースなのに、ロールから踏ん張って曲がっていく際のモメンタムのつき方というか素早さ、4輪すべてで感じられる躍動感が、プジョーそのものなのだ。

この、縦にも横にもしっとりした乗り心地や神経質でないのに正確なステアフィール、そして長距離での疲れの少なさを知ってしまうと、リフター・ロングは替えの効かない一台になる。それにドライブモードをノーマルやエコにした際のスムーズで大人しいマナーと、スポーツ時の適度な猛々しさというメリハリあるいは丁度よさは、リフターならではのものだ。

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難をいえば、遮音性のような部分は設計のより新しいカングーが優っているし、よりスローで朴訥(ぼくとつ)な乗り味を求めるなら確かにベルランゴに軍配が上がる。元より1.5リットルディーゼルとトルコン8速EATというパワートレインに備わった元気さは失われていないが、さすがにこれだけ大きなサイズ感の体躯となるとパワフルとはいかないので、「プジョー=スポーティさ」が目立たなくなりやすいのだ。その辺りが、特徴として熱いものを秘めているのにクールで洗練されているからこそとっつきにくそうに見られやすい、リフターの陰キャっぽさといえる。

市街地走行などでは内輪差をやや意識する必要はあるが、すぐ慣れる取り回しといえるし、シフトをリバースに入れるとルームミラーに後方視界が映るのもいい。何よりスクエアなボディゆえストレッチされていても車両感覚は掴みやすい。

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そして今回は試す機会はなかったものの、ダイヤル式シフトセレクター脇にはアドバンストグリップコントロールも備わり、氷雪路や泥、砂といったサーフェス相手でもグリップを最適化する。これは平たくいうとABS制御の余技のようなものだが、『3008』や『5008』に備わっていた限りでは、かなりの効果を発揮していた。フロントの駆動輪が滑り始めてトラクションが抜けたらすかさず片側づつブレーキでつまんで、逆側にもトラクションを再配分することを繰り返すのが基本なのだが、ほぼ重量増なくして様々な悪条件の路面を乗り越えられる機能として、実効果が高い。

◆ワイワイBBQより、ソロキャンプで読書&コニャックな風情

いわばリフター・ロングは分かりやすさやハデさには欠けるかもしれないが、最小限の機構や備えで最大限のレバレッジを利かすようなマリーシアというか賢さこそが、フレンチMPVという商用車ベースの王道ではなかったか? 加えてオールドファッションかつコンサバな旧き佳きフレンチ趣味も、垣間見える。

家族や友人とワイワイBBQより、ソロキャンプで読書&コニャックみたいな風情の方が似合いそうだからこそ、リフター・ロングに独特の優雅さを見出さないワケにはいかないのだ。

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■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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