全5回にわたって国内の車載電池の今を紐解く連載「車載バッテリー最前線」。4回目となる今回は、国内外で進む車載リチウムイオン電池(LIB)のリサイクル動向を紹介する。
全世界的なEVシフトの背景にはカーボニュートラルへと進む社会の影響がある。一方で、LIBは生産時に大量のCO2を発生するという問題を抱えている。さらに、LIBは数年で寿命が尽きてしまい、今後大量のEVが生産されれば大量の車載LIBが廃棄物として発生する。
また、車載LIBにはリチウムだけでなくコバルトやニッケルなどのレアメタルも含まれており、使用済み電子機器と同じく都市鉱山でもある。電池のリサイクルは避けられない課題だ。これまで、本田技術研究所やサムスンSDIなど車載電池の第一線で研究開発に携わってきた佐藤登氏が国内・海外で進む車載電池のリサイクルビジネスを俯瞰する。
◆経産省が主導する電池のリユース / リサイクル
経済産業省が主導した「蓄電池産業戦略検討官民協議会」の中で有識者委員として筆者は活動したが、循環型社会を担う電池の再利用とリサイクル事業も大きなテーマとして共有されている。
例として「蓄電池産業戦略検討官民協議会」、2021年11月18日協議における共有事項は以下のようになっている。
電池エコシステム、リユース / リサイクルの構築 について
・持続可能な電池産業を構築するために、電池のリユースやリサイクルの推進による 循環型システムの構築は重要。リサイクル材からの資源の確保やリユースによる電池は価値の向上など産業競争力にも資する。
・特にEUは責任調達、カーボンフットプリント、リユース・リサイクルなどを規制し、EU域内循環に誘導することで、電池のエコシステムをEUに確立する方向にある。
具体的な取組みの方向性としては以下の3点が挙げられた。
・使用後の車載用蓄電池の再活用や鉱物資源効率回収を行うための研究開発・技術実証。
・リユース・リサイクル促進についての在り方。
・リユース蓄電池を含む定置用蓄電システムの性能や安全性の国際標準化、リユース促進などに関する国際ルールの標準化。
◆電池再利用のビジネスモデル
国内における再利用のビジネスモデルは、各社がさまざまに試行してきた。HEV(HV)に使用されていたニッケル水素電池では既に再利用ビジネスは実現されており、リチウムイオン電池(LIB)に関しても再利用ビジネスの着手が始まっている。
今後、市場に出回る車載用LIBを効率的に回収し効果的に利用することが、LIBの価値を上昇させることになる。以下に各社の取り組みを紹介する。
トヨタ自動車
・HEVから回収したニッケル水素電池を自社の事業所に設置して再利用している。
・東京電力と中部電力が折半出資したJERAと共に、使用済車載電池を定置型蓄電池として再利用する技術を開発。2022年10月より中部電力パワーグリッドの配電系統に接続して、系統用蓄電池としての充放電運転を行っていくとしている。
・再利用ではないが家庭用蓄電池事業に参入(「おうち給電システム」)。定格容量8.7kWh、定格出力5.5kW。-20~44度の環境下で使用できる。ハウスメーカー経由で2022年8月から販売を開始した。

日産と住商の合弁企業である4Rエナジー(2010年設立)
・『リーフ』などのEVから回収したリチウムイオン電池(LIB)を再利用するビジネスを行っている。
・電池の使用履歴の把握、独自の測定技術やシミュレーション技術を使用して、残存性能に応じて性能の高い順からA、B、Cグレードに分類。
・19年度の販売はAが約150パック(販売先が日産)、BとCが約150パック。BとC グレード電池の販売ビジネスモデルの構築が課題となっている。
・使用済み電池の日産の供給能力は21年度に5000台/年まで拡大した。これは3500世帯の4日分の消費電力に相当する。
・住商と共同でEV電池を自治体や家庭向け蓄電池として再利用する計画を進めている。84~170台分のEV中古電池を積んで大規模蓄電池として活用する。2023年には太陽光発電や風力発電などに接続する「系統用蓄電所」 を担う企業向けに外販する。2025年度までに欧米にも再生工場を新設予定。
・日産とJVCケンウッド、4Rエナジーで再生電池を活用したポータブル電源も開発。

また、海外においても車載LIBの再利用ビジネスが進んでいる。