トラックドライバーの不足に加えて2024年4月からスタートする時間外労働の規制適用(2024年問題)によって、物流業界は人手不足による崩壊の危機=物流クライシスに直面している。
本連載「物流崩壊の深層と処方箋」では、内閣府のSIPスマート物流サービス 評価委員会で委員長を務めるローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏が物流業界の現状を解説し、新たな物流のあるべき姿を考察する。
2回目となる今回は、物流クライシスの重要な要素である「物流費の上昇」がなぜ起きるのかを解説する。
物流クライシスと物流費の上昇
前回は、「物流=トラック輸送」ではないこと、物流の世界では省人化と標準化による装置産業化が進みつつあること、それに加えて脱炭素化が求められることを紹介した。今回は、なぜ物流費は上昇し、今後の物流費はどうなるのか? という観点から物流クライシスを考えていく。
さて、「人手不足による物流クライシス」といったとき、どのような事態をイメージするだろうか。人手不足が進めば、トラックを運転する人も物流施設で出荷作業に携わる人も減少する。近年、3月中旬から4月にかけて引っ越しをしたくてもできない「引越難民」が発生している。それと同様に、商品を出荷したくとも運んでくれる運送事業者を確保できなくなるかもしれない。今まで運べていた商品が届かなくなるとすれば、日本経済は機能不全に陥るはずだ。
もちろん、いきなり商品を運べなくなるわけではない。最初に想定すべきは、人手を確保するための賃金の引き上げと、その結果としての物流費の上昇である。物流を使う側の荷主企業からすれば、値上げで価格転嫁しない限りその分だけ収益力が低下する。
実際、日本企業の売上高に占める物流費の割合は、2003年から2019年までの16年間は5%弱の水準で安定的に推移してきたが、以降は急激に上昇し、2021年には5.7%に至った。2022年は5.3%にまで戻したが、物流費が下落したからではない。物価の上昇が進んだ結果である。物流費のさらなる上昇により日本企業のコスト競争力が低下すれば、国際競争力を失することになるだろう。
つまるところ、物流クライシスは決して物流の世界に閉じた話ではない。日本経済全体の未来をも左右する重要課題と捉えるべきである。

トラック輸送と物流費の上昇の関係
では、企業の売上高に占める物流費の割合が高まった主因は、宅配便をはじめとするトラック輸送の運賃上昇にあるのだろうか。トラックの運賃は長らく下落傾向にあったが、2014年より増加に転じており、現在では2000年との対比で14%も高い水準にある。
宅配便に至っては45%も上昇した。企業向けサービス全体での価格指数は2000年とほとんど変わらないことを考えると、突出したインフレ率といってよい。