物流クライシスを防ぐ5つの処方箋とその実効性とは【物流崩壊の深層と処方箋 第4回】

物流クライシスに対する政策の方向性

物流クライシスの解消に向けた5つの処方箋

2024年に向けて、企業や物流事業者は何をすべきか?

物流クライシスを防ぐ5つの処方箋とその実効性とは【物流崩壊の深層と処方箋 第4回】
  • 物流クライシスを防ぐ5つの処方箋とその実効性とは【物流崩壊の深層と処方箋 第4回】
  • 物流クライシスを解消するための処方箋は5つあるが、大きく分けて人なしで運ぶ、人が運べる量を増やす、運ぶ量を減らすの3種類に分けられる。

トラックドライバーの不足問題に加えて時間外労働の規制適用(2024年問題)によって、崩壊の危機=物流クライシスが迫っている。

本連載「物流崩壊の深層と処方箋」では、内閣府の「SIPスマート物流サービス 評価委員会」で委員長を務めるローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏が物流業界の現状を解説し、物流の未来にあるべき姿を考察する。

前回は、2024年問題の概要とトラックの輸送能力が不足することによる日本経済への影響を紹介した。最終回となる今回は、物流クライシスを乗り越えるためにどのような対策が必要になるのか、その方向性を解説する。

物流クライシスに対する政策の方向性

前回言及したように、経済産業省、国土交通省、農林水産省の三省は、2024年問題をはじめとする物流の諸問題を解決するため、有識者や関係省庁からなる「持続可能な物流の実現に向けた検討会」を設置した。2024年問題の発生による物流への影響、物流プロセスにおける課題、標準化・効率化を推進するために必要な方策などを検討している。2023年2月8日、その『中間取りまとめ』が発表された。

その特筆すべきところは、「課題を踏まえた政策の方向性」として規制的措置の検討を明記したことにある。以下は、『中間とりまとめ』からの抜粋だ(蛍光線は筆者による)。

課題を踏まえた政策の方向性について

物流が抱える諸課題の解決のために、政府においては、事業者が取り組むべき事項について、多くのガイドライン等を策定してきているものの依然解決されておらず、2024 年を前に諸課題が先鋭化・鮮明化している状況となっている。
そのため、ガイドライン等についてインセンティブ等を打ち出して有効に機能するようにするとともに、類似の法令等を参考に、規制的措置等、より実効性のある措置も検討すべき
その検討にあたっては、物流事業者が提供価値に応じた適正対価を収受するとともに、物流事業者、荷主企業・消費者、経済社会の「三方良し」を目指すものとし、最終とりまとめに向け、KPIを含めたイメージを示すこととする。

上記は、「課題を踏まえた政策の方向性」の冒頭に記された文書だが、その後段には「類似の既存法令」も具体的に記述されている。

経営者層の意識改革を促す措置の検討

荷主企業における物流負荷軽減の取組を促進するためには、物流担当者のみならず、営業部門、製造部門、調達部門等の様々な部門が協働して取り組む必要があり、経営者層における物流改善の必要性への認識に基づく全社的な対応が重要となる。このため、既存法令を参考に、荷主企業が経営者層を中核として物流改善に取り組むことに資する措置について検討すべきである。参考となる既存法令としては、例えば、省エネ法におけるエネルギーの使用の改善に係る業務の管理者の選任に係る規定や、鉄道事業法等における安全統括管理者の選任に係る規定が考えられるのではないか。

待機時間、荷役時間等の労働時間削減に資する措置及び納品回数の減少、リードタイムの延長等物流の平準化を図る措置の検討

待機時間、荷役時間の削減等を通じて労働時間を削減するとともに、納品回数の減少等を通じて、総輸送需要を抑制して効率的な輸送を実現するためには、発荷主企業、物流事業者、着荷主企業の現場における分業の実態を踏まえ、それぞれの事業者が連携・協働して、待機時間・荷役時間等の状況を把握し、改善を図るための取組を実施することが必要である。このため、事業規模や貨物特性といった事情を勘案しつつ、既存の制度を参考に、それぞれの事業者に対して、計画的な物流改善を促す措置について検討すべきである。参考となる既存法令としては、例えば、法律に基づく義務をかけつつも、事業者の事業特性に応じた対応や自主性を尊重した取組を促すことができるという観点から、省エネ法における中長期計画の作成及び定期報告に係る規定が考えられるのではないか。

契約条件の明確化、多重下請構造の是正等の運賃の適正収受に資する措置の検討

トラック業界における多重下請構造の是正や契約条件の明確化を図るため、まずは、トラック業界の多重下請の現状や契約と実際の業務内容の関係を調査した上で、荷主保護や実運送事業者の適正な運賃の確保による賃金水準の向上等の観点から、既存の法令を参考に、必要な措置を検討すべき参考となる既存の法令としては、多重下請構造の是正については、一律に一括下請を禁止することや下請に係る施工体制台帳の作成等を求めることを定めた建設業法の例があるが、トラック業界においては、業務の繁閑の差が激しく、全ての輸送業務を自ら実施することができずに、一部の輸送業務を下請事業者に委託せざるを得ない場合もあるという業界の特性も配慮する必要がある。契約条件の明確化については、契約の書面交付を求める内航海運業法や建設業法の例がある

要するに、省エネ法をはじめとする既存法令を参考に、より実効性のある規制的措置を検討するということだ。物流が抱える諸問題を解決すべく、一歩踏み込んだ対策を講じようとする政府の姿勢がうかがえる。

中間取りまとめでは、今後、「事務局において講ずべき措置や施策の具体化を進める」としている。「講ずべき措置や施策については、可能な限り前倒しして実施するとともに、制度整備など時間を要するものについては、制度施行以前から実効的な取組が進むよう検討していく」という記述を踏まえると、より短い期間でさまざまな対策が具体化・実行されることも予想される。物流クライシスの影響は日本経済全体に及ぶ。トラック輸送に関わる物流事業者はもちろんのこと、荷主企業の経営者層も本検討の推移を注視し、適切な方策を速やかに実行すべきであろう。

物流クライシスの解消に向けた5つの処方箋

日本政府としての措置・施策が今後具体的に進むとして、トラックドライバーの不足に端を発する物流クライシスを解消するためには、どのような方策があるだろうか。論理的・合理的に考えると、その方向性は5つに大別される。

自動運転トラックやドローンの実用化により「A. 人なしでも運べるようにする」というのは一案だ。

外国人労働者の受入拡大などによりドライバーの「B. 人数を増やす」、待機時間の解消などにより「C. 運転時間を増やす」、積載率の向上などにより「D. 時間あたりの運べる量を増やす」ことができれば、人が運べる量を増やせる。

真逆の発想として、地産地消の拡大などによって「E. 運ぶ量を減らす」ことも考えられる。

物流クライシスを解消するための処方箋は5つあるが、大きく分けて人なしで運ぶ、人が運べる量を増やす、運ぶ量を減らすの3種類に分けられる。

では、2024年問題の発生を見据えるに、どの処方箋を用いることが有効だろうか。それぞれの実効性を考えてみよう。


《小野塚 征志》

株式会社ローランド・ベルガー パートナー 小野塚 征志

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。 ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントをはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。 内閣府「SIP スマート物流サービス 評価委員会」委員長、経済産業省「持続可能な物流の実現に向けた検討会」委員、国土交通省「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」構成員、経済同友会「先進技術による経営革新委員会 物流・生産分科会」ワーキンググループ委員、日本プロジェクト産業協議会「国土創生プロジェクト委員会」委員、ソフトバンク「5Gコンソーシアム」アドバイザーなどを歴任。 近著に、『ロジスティクス4.0-物流の創造的革新』(日本経済新聞出版社)、『サプライウェブ-次世代の商流・物流プラットフォーム』(日経BP)、『DXビジネスモデル-80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』(インプレス)など。

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