ダイハツ工業が挑む共同送迎MaaS…モビリティで福祉・介護業界の課題を解決するには

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とよなか荘老人デイサービスセンターからの共同送迎の様子
  • とよなか荘老人デイサービスセンターからの共同送迎の様子
  • 三豊市社協が運営する共同送迎サービスで使用される車両
  • プレ運行から参加している「とよなか荘老人デイサービスセンター」
  • とよなか荘の介護職員の清水氏
  • とよなか荘の介護職員の近藤氏
  • 本山タクシーの矢野澄子代表取締役
  • 共同送迎のドライバーをされている佐藤さん
  • 福祉介護における送迎は地域サービスのひとつとして検討する時期に来た

前回に引き続き、2022年6月に香川県三豊市で正式運行を開始した福祉介護・共同送迎サービス『ゴイッショ』だ。

今回は、三豊市で実際に共同送迎サービスの運営に関わる地元の交通事業者とドライバーや、共同送迎サービスを利用する介護事業所の職員に直接話を伺った。また、本年度から調査事業をダイハツ工業と進めている島根県江津市の担当者にも直接話を伺うことができた。

◆共同送迎サービスを検討するには

三豊市社協が運営する共同送迎サービスで使用される車両三豊市社協が運営する共同送迎サービスで使用される車両

福祉介護・共同送迎サービス『ゴイッショ』の特長は、介護送迎に特化した人材が 「調査・検討」から「運行」までを一貫してサポートすることと、複雑かつ相反する送迎ニーズをすり合わせる介護送迎専用のアルゴリズムを搭載したシステムの提供だ。導入に際しては3つのステップで提供する。

ステップ1の調査・検討サポートでは、その地域の課題と合わせて送迎共同化の必要性を自治体と一緒に検討する。三豊市でもしたように、介護施設を直接訪問し困りごとの調査を実施する。また、送迎の共同化による効果をシミュレーションする。

ステップ2の運行準備サポートでは、共同送迎が適正に運行できる環境・体制づくりを自治体と一緒に推進する。運行開始に向けたロードマップなど収支計画策定の支援から運営フロー、マニュアル化構築支援、ドライバー研修(介助・接遇研修)まで行う。

ステップ3の運行サポートでは、共同送迎運行管理システムの提供とサービス拡大・発展に向けて支援を行う。共同送迎運行管理システムでは、送迎計画の作成や、運行状況の確認・ルート表示ができる。また、ドライバー向けアプリを搭載した専用スマートフォンも合わせて提供している。

◆共同送迎に参加する事業所の視点

プレ運行から参加している「とよなか荘老人デイサービスセンター」プレ運行から参加している「とよなか荘老人デイサービスセンター」

2021年のプレ運行から参加している「とよなか荘老人デイサービスセンター」は、80人前後の利用者を登録しており、30人近くを共同送迎サービスに委託している。とよなか荘の介護職員の清水氏は、これまでも別の施設で介護の経験があり、奥さまも別の施設で介護職員をされていると言う。2020年の実証実験時にはその別の施設が共同送迎に参加した経緯があり、今回の参加に至ったと言う。

とよなか荘の介護職員の清水氏とよなか荘の介護職員の清水氏

共同送迎がなければ、職員5、6人が送迎に出てしまうのだが、共同送迎を利用することで、3、4人に減った。これまでも送迎に出る人数を減らしたいという要望があったため、実際に利用してみて助かったと清水氏は話す。送迎にあてていた時間に、受け入れ準備やほかの業務ができるようになり、気持ち的にも楽になったと言う。

とよなか荘の介護職員の近藤氏とよなか荘の介護職員の近藤氏

介護職員の近藤氏からは「送迎の負担は大きかった。これまでは職員全員が送迎に出ないといけなかった。帰ってきた順に、清掃や受け入れ準備、計画書作成などを進めることになるので、共同送迎があるのとないのとでは全然違う」と話す。

一方、利用する家族に対しては課題もあると言う。施設の送迎であれば、ドライバーが介護職員のため、家族と直接交流(一日の出来事や様子の変化など申し送りを伝えること)ができるが、共同送迎にお願いすると、ドライバーは介護職員ではないため、そういった交流がしにくくなり、必要あれば別途電話することになる。現状では、共同送迎とは別の曜日に施設からの送迎もしているため、そのときに家族と直接交流できる機会をつくっていると言う。

また、送迎利用者の選定については一定の条件があるため、介助に時間がかかる方や車椅子などを利用した方も送迎利用できるようになれば、さらに利用者は増えていくと期待する。

◆地元の交通事業者の関わり

今回の共同送迎の運行には、地元の交通事業者である本山タクシーが協力している。本山タクシーの矢野澄子代表取締役はケアマネージャーをされていた経歴があり、同社では「介護くん」というコアラのキャラクターで2000年ごろから介護タクシーを運行している。

本山タクシーの矢野澄子代表取締役本山タクシーの矢野澄子代表取締役

共同送迎については、2020年から複数回、三豊市から全タクシー事業者に説明があった。共同送迎の運行エリアはもともと交通の便が悪いエリアで、本山タクシーが走っているエリアも含んでおり、かつ介護タクシー業もしていることから協力するに至ったと言う。

2020年の実証実験では市社協が運営と運行を行い、市社協で1種免許ドライバーを雇用した。2021年のプレ運行以降は市社協が運営を担い、本山タクシーに送迎計画に基づく運行の管理を委託している。「共同送迎のドライバーは、本山タクシーが新たに雇用した1種免許ドライバーの方々中心に担ってもらっており、本山タクシーに所属するタクシードライバーには主に緊急時の対応をしていただいている。具体的には、送迎車両の到着が大幅に遅れそうな場合の臨時車両として出動していただている」と三豊市政策部交通政策課の近藤佳隆課長補佐は話す。

コロナ禍の影響もありタクシー利用者がそもそも減ったことで、今回の共同送迎には関わりやすかった面があると矢野代表は話す。当該エリアの財田町は過去にタクシー事業者が撤退した背景もあり、今回の共同送迎で財田町の運行ができたことは、地元の理解という点で大変勉強になっているという。

要介護者や施設利用者の状況を知ることはもちろん、ルートや道に関することでも大いに役立っている。例えば、一般的にタクシーはセダンなどの普通車だが、共同送迎の場合は軽自動車でも運行する。これだけ走り慣れた地元でも、軽自動車でしか入れない道や普通車では走っていない箇所(道)があることを痛感したと言う。矢野代表は「タクシー車両にも軽自動車を導入できないかと思う」と話す。

◆共同送迎のドライバーになってわかること

2020年の実証実験時から共同送迎のドライバーをされている佐藤さんは、利用者との関係ができてきたことで、介助の仕方も自然にできるようになったと話す。

共同送迎のドライバーをされている佐藤さん共同送迎のドライバーをされている佐藤さん

精神病棟でも従事していたことがある佐藤さんは、現場を見たことで「親にはこうなってほしくない」という思いが強くなり、その後手話を習いはじめた孫にも影響し、非言語での対話の大切さや、相手に安心感を与えることの重要さを学んだと言う。その経験を活かすように、今回の共同送迎のドライバーに参加した。

「将来の自分の姿かもしれない」と、介護に関わることは、将来の自分を支えることにつながると力強く話した。

もし自分に介助が必要になったときに、どうしてほしいのかを考えることがもっとも大切だと言う。また、そのためには笑顔が欠かせないと話す。「自ら笑顔で接することで、要介護者との関係性ができてくる。それまで全く話さなかった利用者もだんだんと話すようになった」という。

共同送迎のドライバーは、介護施設の専門職員ではないため、佐藤さんのように介護についての関心を持ち、利用者やその家族との対話を通じて地域貢献をしていく専門職にも見えた。

◆自治体の介護人材確保への向き合い方(島根県江津市)

島根県江津市職員の政策企画課 無川未来也課長(左)地域包括支援センター 包括支援係 猪木迫聡係長(中)高齢者障がい者福祉課 高齢者福祉係 千代延明係長(右)島根県江津市職員の政策企画課 無川未来也課長(左)地域包括支援センター 包括支援係 猪木迫聡係長(中)高齢者障がい者福祉課 高齢者福祉係 千代延明係長(右)

福祉・介護に関する課題を抱えている自治体は多い。島根県江津市では、令和2年度(2020年)に実施した市独自での調査を皮切りに、令和4年度以降ダイハツと共同で福祉介護に関する調査を進めている。

島根県江津市は、島根県中央部の海岸に面した市で石州瓦の産地でもある。山陰地方で人口が少ない市でもあり、人口約2万2000人に対して高齢化率は約39.7%にもおよぶ(2022年7月末時点)。江津市のデイサービスや通所リハビリテーション、小規模多機能、ショートステイといった通所系サービスの法人数は17あり、利用者数は約1000人/月(2022年3月時点)だという。これまでも福祉介護に関する課題はあったが、本格的な調査を実施したのは今回がはじめての取り組みだ。

江津市の高齢化率は増加傾向にあるが、要介護認定率(2022年3月時点では21.6%、全国平均よりも高い)は徐々に下降傾向、と江津市の高齢者障がい者福祉課 高齢者福祉係の千代延明係長は説明する。団塊ジュニア世代が65歳以上になる2040年問題を見据えて、福祉介護に関する施策を検討しているところだ。

高齢者障害者福祉課 高齢者福祉係の千代延明係長高齢者障害者福祉課 高齢者福祉係の千代延明係長

特に、介護人材の確保は、これまで市でも検討課題としてあがってはいたが解決策が見いだせずにいたところ、ダイハツからの福祉介護に関するアンケートがキッカケとなった。施設の介護職員の業務を整理し、専門性を必要としない部分については省力化するなど、共同で検討を進めることになった。

送迎は施設の業務のひとつではあったが、必ずしも専門性を必要としない部分もあるため、共同送迎にすることで施設側の負担を減らし、送迎に充てていた時間に他の業務を充てることができる。「介護人材の確保は、新しく人材を確保するだけではなく、介護業務を整理し介護職員の手間を減らすことも解決策のひとつではないか」と千代延係長は話す。

また、福祉送迎の他にも、高齢者の生活支援としての移動や移送についても同サービスの取り組みの中で検討を進めていると言う。かつて島根県江津市から広島県三次市まであった三江線(JR西日本)が2018年に廃線になり、公共交通網は縮小傾向、今後は地元の足にも影響してくる、と政策企画課の無川未来也課長は話す。

政策企画担当の無川未来也課長政策企画担当の無川未来也課長

共同送迎サービスの取り組みの中には、朝夕の決まった時間帯での送迎の他に、日中に在宅の高齢者などの移動なども支援できれば、将来的には交通弱者対策にもなってくるのではないかと期待をのぞかせる。

◆調査研究と次のステップ

地域包括支援センター 包括支援係の猪木迫聡係長地域包括支援センター 包括支援係の猪木迫聡係長

地域の実情に合わせて考えていけそうな自由度の高さと、高齢者の生活支援としての将来性に魅力を感じている、と今回のサービス導入を検討している地域包括支援センター 包括支援係の猪木迫聡係長は話す。共同送迎サービスありきではなく、さまざまな福祉・介護に関する課題をダイハツと一緒に調査し検討を進めていると言う。

これまでの取り組みでは、ダイハツと共同で7月~9月頭にかけて江津市の全通所系介護事業所に各2回程度訪問し、困りごと調査を実施している。具体的には、一巡目の訪問ではヒアリングとアンケートを実施、二巡目の訪問では共同送迎を実施した際のシミュレーション結果などを提示した。9月には調査研究結果をまとめ、次のステップに進めるかどうかを判断していく。

今回の調査で、通所系介護事業所のニーズをしっかりと理解したうえで、共同送迎サービス導入が解決策になり得るのかを判断していく考えだ。送迎だけではなく、さまざまな施策にもつながっていることが期待されている。江津市では、本年度から福祉・介護についてのアクションプランを立てて計画しており、本件もそれに含めて検討を進めている。

◆共同送迎で変わる社会とは

福祉介護における送迎は地域サービスのひとつとして検討する時期に来た福祉介護における送迎は地域サービスのひとつとして検討する時期に来た

今回の取材でさまざまな立場の方に直接聞いてわかったことは、やはりこれまでと同じ方法では介護サービスの事業継続は難しいという現状だ。高齢化率も相まって送迎だけを考えてみても、要介護者の増加やドライバー不足は年々深刻度が増す一方、有効な解決方法を見いだせていないのは、全国どの地域でも同じだ。

今回の福祉介護・共同送迎サービス『ゴイッショ』は、その解決方法のひとつとなっている。

島根県江津市の取材でも触れたとおり、まずは実態調査をすすめることが肝心だ。実際に、介護事業所や介護職員は何に困っているのか、どうすれば解決するのかを“ご一緒に”議論をすすめることが最初の一歩となる。「まずは、たくさんの事業所に参加してもらうことが重要」と三豊市社協の野村氏も話す。今回共同送迎サービスを開始した三豊市では、コスト面やサービス面での質的向上に努め、3年の計画で安定稼働を目指して利用者を増やしていく試みだと言う。

調査、運行準備、プレ運行と、実際には年度単位でのステップに見えるかも知れないが、調査からサービス開始までのステップをすでに経験している三豊市をベースに着手できることは、他の自治体としても比較的取り組みやすいサービスとも言える。調査さえできれば、その調査結果からわかった課題やニーズをもとに、さまざまな政策や施策に応用していくことができるため、送迎に限らず福祉・介護分野での調査事業のひとつとして見ることもできる。

福祉介護における送迎は、単に施設の介護職員の業務という面だけではなく、その地域の福祉介護事業におけるスマート化の推進であり、地域サービスのひとつとして検討する時期に来たと言えるのではないだろうか。

ダイハツ工業『ゴイッショ』の詳細はこちら


著者:坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室 室長
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

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