【フォーミュラE】 戦前に作られた空港で行われた次世代のモータースポーツ…第7戦レビュー

【フォーミュラE】 戦前に作られた空港で行われた次世代のモータースポーツ…第7戦レビュー
  • 【フォーミュラE】 戦前に作られた空港で行われた次世代のモータースポーツ…第7戦レビュー
  • メルセデスとバンドーンが現在ランキングトップ
  • ドイツでのレースはベルリン・テンペルホーフ空港で行われる
  • FEの中ではコース幅が広くオーバーテイクも多い
  • 「電費」戦略のため序盤は抑えた走り
  • エネルギー効率の良い走りに定評があるモルタラ
  • 2位に入ったベルニュは2度のチャンピオン経験者
  • スピードとエネルギー使用量をベストにバランスした3人

電気自動車のF1とも言える「フォーミュラE世界選手権(FE)」は、シーズンの折り返しに入った。今季のFEは全16戦が予定されており、5月14~15日の週末にベルリンで行われた第7戦・第8戦でスケジュールの半分が終了した。現在、メルセデスのストフェル・バンドーン(ベルギー)がチャンピオンシップのトップ。チームランキングでも「メルセデスEQフォーミュラEチーム」が首位に立っている。

メルセデスとバンドーンが現在ランキングトップメルセデスとバンドーンが現在ランキングトップ

◆歴史ある元空港が舞台のベルリン戦

2015年の「シーズン1」から毎年行われているドイツラウンドは、2016年以外すべて「ベルリン・テンペルホーフ空港」で開催されている。開港が1920年代と歴史のある空港だが、旅客機の大型化に伴う滑走路の拡張ができず2008年に閉鎖された。現在はFEのほか、音楽やスポーツ、各種フェスティバルなどのイベント会場として活用されている。

ドイツでのレースはベルリン・テンペルホーフ空港で行われるドイツでのレースはベルリン・テンペルホーフ空港で行われる

◆FEの中でも特殊なコース

FEのレースは通常、一般道を一時的に閉鎖したいわゆる「ストリートサーキット」で行われる。両脇を壁に囲まれた狭いコースに22台のレーシングカーがひしめき合うため、接触やクラッシュなどのアクシデントも多い。場所によって舗装の状態が異なるためタイヤがスライドしたり、路面の凸凹によってマシンが跳ねたりすることも多く、高度なドライビングが要求される。

一方、「ベルリンEプリ」は空港跡地で行われるため、コース幅を広くとることができる。路面もフラットで、比較的トラブルのないレース展開が観られる。直線区間が長く、1周約3.5kmのコースを高速で45分間+1周走り続けるためにエネルギー(バッテリーに蓄えた電気)消費が多い。フルブレーキをかける箇所もあまり多くないため、回生による充電もあまり期待できない。

FEの中ではコース幅が広くオーバーテイクも多いFEの中ではコース幅が広くオーバーテイクも多い

◆特に「電費」に厳しいベルリンでの2連戦

FEのマシンは、充電したバッテリーから供給される電気でモーターを回して走行する。市販車でも増えているバッテリーEV(BEV)によるレースで、二酸化炭素を出さない次世代のモータースポーツと言える。一般のEVでも、一回の充電当たりの走行可能距離が普及のためのハードルの1つになっている。同様に、FEでも「電費」をいかに抑えるかが勝敗の鍵を握る。

今回の2連戦は、コース特性によってFEのレースの中でもエネルギーの効率的な使い方が特に重要なラウンドと言える。土曜日に行われた第7戦では、エネルギーをできるだけ使わないよう、スタートから暫くは“様子見”のレース展開となった。

「電費」戦略のため序盤は抑えた走り「電費」戦略のため序盤は抑えた走り

◆中盤にアタックモードへ

スムーズなスタートが切られると、レースの1/3まではほぼスターティンググリッド順に一列で周回を重ねる。トップのエドアルド・モルタラ(スイス)はバッテリーマネージメントに集中し、抑えた走りを続ける。後続も無理はせず、4秒から5秒ほどの間に10台が連なるテール・トゥ・ノーズ状態で中盤に突入した。

スタートから15分が経過すると、続々と「アタックモード」に入る。通常は最大220kWに抑えられている出力が、一時的に250kWにアップする(第7戦は4分間)。ただ、そのためには通常の走行ラインから大きく外れた場所に設定されているアタックモード・ゾーンを通過しなければならない。後続に抜かれるリスクが高く、タイミングが勝敗を左右する。F1など通常のレースで見られる、ピットインによるタイヤ交換のようなものと言える。

◆効率の良い走りのモルタラが好走

落ち着いた走りでスタートから先頭を守っていたモルタラ(ヴェンチュリ・レーシング)は、アタックモードを遅らせる戦略を採った。絶妙なライン取りでポジションを守ると、他のマシンがアタックモードを終了してからパワーアップし、ゾーン通過のために失った順位を数周で取り戻すことに成功した。

モルタラは現在のFEドライバーの中でもエネルギー消費が少ない走りで知られている。今シーズンの第2戦でも、優勝後のインタビューで「バッテリーマネージメントに注意を払い、冷静なドライビングに心がけた」とのコメントが聞かれた。このレースでも、アタックモード中もオーバーテイク時以外はペースを抑えた走りで常にライバルたちよりも充電量が多い状態で終盤に突入していった。

エネルギー効率の良い走りに定評があるモルタラエネルギー効率の良い走りに定評があるモルタラ

◆ゴールでは電気残量0.0%

チェッカーフラッグまで5分を切った段階でも、トップのモルタラから9番手まではテール・トゥ・ノーズ状態の僅差。各車ギリギリのエネルギー残量で走行を続けながらもバトルを演じたため、「(エネルギー量が)目標を下回っている。消費に注意!」とピットから無線が飛ぶ展開となった。

結局、残り1分を切ったところでエネルギー残量不足により上位陣がペースダウン。それまでよりも1周あたり2秒遅いラップタイムでの走行となった。結局、終始バッテリー残量に1%の余裕があったモルタラが優勝。予選4番手から落ち着いた走りで上位をキープしたジャン=エリック・ベルニュ(フランス)が続いた。3位でゴールしたバンドーンはスタートに失敗し一時は12位まで後退したが、効率とスピードを両立する切れ味鋭い好走を見せた。

2位に入ったベルニュは2度のチャンピオン経験者2位に入ったベルニュは2度のチャンピオン経験者

チェッカーフラッグを受けた時、上位陣のすべてのマシンにはバッテリー残量が0.0%と表示されていた。最終ラップの大幅なペースダウンがなければ、ゴール直前で劇的な順位変動があったことだろう。第7戦は、そんなギリギリの電費バトルのレースとなった。

スピードとエネルギー使用量をベストにバランスした3人スピードとエネルギー使用量をベストにバランスした3人

第8戦は翌日の5月15日(日)に予選と決勝レースが行われた。このレースでは、メルセデス製のパワーユニットを搭載した4台が圧倒的な強さを見せた。次回は、その様子について振り返る。


《石川徹》

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