EV充電:インフラ事業としての難しさへの挑戦…e-Mobility Power代表取締役社長 四ツ柳尚子氏[インタビュー]

EV充電:インフラ事業としての難しさへの挑戦…e-Mobility Power代表取締役社長 四ツ柳尚子氏[インタビュー]
  • EV充電:インフラ事業としての難しさへの挑戦…e-Mobility Power代表取締役社長 四ツ柳尚子氏[インタビュー]
  • EV充電:インフラ事業としての難しさへの挑戦…e-Mobility Power代表取締役社長 四ツ柳尚子氏[インタビュー]
  • EV充電:インフラ事業としての難しさへの挑戦…e-Mobility Power代表取締役社長 四ツ柳尚子氏[インタビュー]
  • EV充電:インフラ事業としての難しさへの挑戦…e-Mobility Power代表取締役社長 四ツ柳尚子氏[インタビュー]

脱炭素社会においてEV普及は重要な課題のひとつ。日本市場はグローバルに比してEV化が遅れているとされているが、その克服はメーカーの取り組みと同じくらいに充電インフラの整備が必須である。

だが、インフラ事業の常として投資とビジネスのバランスが非常に難しい。EV普及と充電インフラ整備の問題は「鶏と卵のどちらが先か」という状態に陥っていると言っても過言ではない。もちろん官民ともこの問題は認識しており、それぞれの取り組みが行われている。

e-Mobility Powerは国内最大手の充電ネットワークを持つサービスプロバイダーだ。4月20日に開催する無料のオンラインセミナー カーボンニュートラルとEV普及の潮流において、同社代表取締役社長の四ツ柳尚子氏が、充電インフラにおける課題と取り組みについて講演を行う。講演に先立ち、四ツ柳氏に話を聞いた。

充電を4つのマトリックスで考える

――EVの充電インフラについて、メディアでは充電スポットの設置場所や充電器の台数の増減、海外との違いがよくとりあげられています。しかし、その一方で急速充電と普通充電の区別もついていない議論も見かけます。まず、このあたりの整理もかねてe-Mobility Powerとしてのサービス領域について教えてください。

四ツ柳氏(以下同):e-Mobility Powerの「e」には、いつでも(everytime)、どこでも everywhere)、誰もが(everyone)、自動車はもとよりすべて(everything)の乗り物に充電サービスを提供するというミッションが込められています。そして、社会インフラの一部であるという認識から、24時間365日安定した品質を維持するユニバーサルサービスの原理原則も持っています。

EVの充電サービスを考えるとき、車両はその車格や搭載バッテリーの大きさから「大型車」と「乗用車」という分類が可能です。充電器の設置場所は、自宅や事業所の拠点・営業所といった「プライベート充電」と高速道路やコンビニ、トラックステーションなど移動中にだれもが利用できる「パブリック充電」に分けることができます。

この4つをマトリックス状に配置するとEV充電のサービス領域を図のように整理できると思います。

EV充電:インフラ事業としての難しさへの挑戦…e-Mobility Power代表取締役社長 四ツ柳尚子氏[インタビュー]EV充電:インフラ事業としての難しさへの挑戦…e-Mobility Power代表取締役社長 四ツ柳尚子氏[インタビュー]

このうちトラック・バスが経路上で自由に充電できる領域(大型車・パブリック充電)はまだ具体的なサービスが存在していない、これからの領域ですが、それ以外の3つの領域ではe-Mobility Powerによるサービス提供実績があります。

――4つ領域、それぞれに急速充電器・普通充電器のサービスが考えられるわけですか。

四ツ柳氏:理屈の上ではそうですが、個人の自宅に急速充電器を設置する人はまずいません。逆に高速道路などの経路充電では短時間での充電が可能な急速充電器(国内では20~90kW)でないと設置する意味がなくなってしまいます。

急速充電と普通充電は、充電にかけられる時間や車両の運行形態の違いで使い分けます。個人の乗用車、タクシー営業所、運送会社や事業所の車庫など、待機中や保管中に充電時間を確保できる場合は普通充電が向いています。トラックなどでも夜間稼働しなければ普通充電で運用できますが、長距離トラックなどで稼働率を上げたい場合は急速充電が必要となります。

充電器インフラの課題

――現状、ユーザーにとっていちばん馴染みがあるのは、高速道路や道の駅にある急速充電器だと思います。これらについて、充電渋滞、自治体や道の駅での充電器撤去などが話題になりますが、e-Mobility Powerとして、昨今の充電器事情にどのような課題があると見ていますか。

四ツ柳氏:質問の充電器は、乗用車・パブリック充電となるサービス領域ですね。現在日本にはおよそ8000基の急速充電器があります。このうち7000基ほどがe-Mobility Powerのネットワークの直営・提携充電器です。普通充電器は21700基(内ネットワークは14000基)あり合計で約30000基になります。人口カバー率でいくと93%に達します。設置場所としていちばん多いのは自動車ディーラー(41%)、次いでコンビニ(14%)と続きます。

課題としては、充電器空白地帯の解消と充電渋滞箇所の解消があります。充電器への投資はEVユーザー(充電会員)が増えれば回収しやすくなりますが、ユーザーを増やすには充電スポットを増やす必要があり「鶏と卵」の状態である問題があります。都市部であれば採算には乗せやすいのですが、設置スペース、土地の確保が難しいという課題があります。充電器は、数と密度をバランスさせることが大変難しい存在です。

――e-Mobility Powerは、全国の充電器からのデータを持っているので最適化の戦略はとれると思いますが、逆にそうなると現状、不採算の充電器がどんどん減っていくことになるのでしょうか。

四ツ柳氏:設置してくれている事業者や地域ごとでケースバイケースですが、インフラ事業者としてユニバーサルサービスの原則を維持すべく、空白地帯解消に寄与するなどの観点で必要な「交通の要衝」にあたる箇所はe-Mobility Powerが採算に関係なく維持していきます。

幸いなことに、土地がすくない都市部を除いたエリアでは、充電器を設置したいという自治体、企業からの問い合わせは増えています。ユーザーの利便性、設置事業者の採算性の落としどころは難しいですが、これまでのデータから、高速道路、道の駅、コンビニ、商業施設、ガソリンスタンドなど場所ごとの利用形態、充電時間、最適出力などを分析した知見が、我々にはあります。コンサルティングを含めて、設置から運営、メンテナンスまでサポートできるのがe-Mobility Powerの強みですので、安心してくれてよいと思います。

車種とともに増える充電パターンとニーズ

――このノウハウは近年増えているバスやトラックなどの事業者向けプライベート充電でも有効と考えていいですか。

四ツ柳氏:はい。交通事業者や物流事業者向けでは、バッテリー容量、導入台数、走行距離とパターン、待機時間などによって最適な充電方式(急速・普通)、充電器出力、台数を決めていきます。路線バスなど走行距離・稼働率が比較的高い運用でも、シフトや待機時間から最適な出力を決めることができます。

EV充電:インフラ事業としての難しさへの挑戦…e-Mobility Power代表取締役社長 四ツ柳尚子氏[インタビュー]EV充電:インフラ事業としての難しさへの挑戦…e-Mobility Power代表取締役社長 四ツ柳尚子氏[インタビュー]

たとえば、運送会社でも待機時間が11時間あれば6kWの普通充電でも運用可能です。ただし、近年はEVの種類も増えてきたので、このシミュレーションや見積もりは事業者ごと、運行パターンごとに常に変わってきます。以前は、想定できるEVは数車種に限定できたのですが、現在はバッテリー容量も対応する充電器出力もさまざまで、最新のデータを見ながら検討しています。

外資系を中心にSDGs、脱炭素社会戦略として社用車、事業車両のゼロエミッション化のニーズが高まっています。グローバル企業、外資の多い製薬会社などからEV化、プライベート充電の問い合わせが増えています。

路上充電スポット実験の成果

――最近では、経路充電の実証実験として道路上の充電スポットを稼働させました。これらのデータからなにか新しい発見や課題は浮かび上がったのでしょうか。

四ツ柳氏:この実証は、都市部の充電スポットの設置場所問題に端を発しています。都市部は採算に乗せやすく設置を希望する企業も少なくないのですが、スペースがないので有料駐車場の中など、ユーザー利便性が必ずしも高くない場所に偏りがちです。路上や、公開空地と呼ばれるビルの合間などが活用できれば都市部のスペース問題の解消につながるのではと考えています。

EV充電:インフラ事業としての難しさへの挑戦…e-Mobility Power代表取締役社長 四ツ柳尚子氏[インタビュー]EV充電:インフラ事業としての難しさへの挑戦…e-Mobility Power代表取締役社長 四ツ柳尚子氏[インタビュー]

結果は良好で事故もなく実証はいまも続けられています。わかったことは、想定を超えた利用数があったこと。一方で、安全面での課題もいくつか再認識しました。たとえば、充電器本体が、路上脇に設置するには少し大きいこと。路上の設備については歩行者やドライバーの死角を作らないような高さとするなどの制限があります。対応するためには、設備のコンパクト化、ユニットの一部を地下に埋めるなどが必要と考えています。

また、ケーブルが路上、歩道にはみ出たまま放置されると危険なので、ケーブルを吊り下げるなどの工夫をしたのですが、充電口との位置関係の問題で取りまわしが悪くなるといった声もありました。

――最後に充電器の普及について、行政側への要望はありますか。

四ツ柳氏:eMPにくる問い合わせ件数から分かるように、充電器の設置を考えている事業者は増えています。しかし、現状、すぐに採算に乗せられるところは多くありません。先般、受電設備への補助金の施策が発表されましたが、脱炭素への貢献という視点でも、設置する事業者へのインセンティブになるような施策をもっとお願いしたいです。

たとえば、海外では充電器にサイネージを設置して充電器の場所を提供する事業者が広告収入を得ることができます。国内では屋外広告に関する規制が厳しくそれが実現できません。海外事例をそのまま適用できるかは一概にはいえませんが、このような規制や条件が少しでも緩和されれば違うと思います。

四ツ柳氏が登壇する無料のオンラインセミナー カーボンニュートラルとEV普及の潮流は4月20日開催予定。
《中尾真二》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集