アバルトの伝統と復活…サソリの毒でチューンナップ[フォトヒストリー]

カルロ・アバルトとラインナップ(1965年)
  • カルロ・アバルトとラインナップ(1965年)
  • フィアット500アバルトチューン
  • フィアット500アバルトチューン(1958年)
  • アバルト595SS、アバルト695SS、アバルト695SSアセットコルサ(1965年)
  • アバルト595(フランクフルトモーターショー2013)
  • アバルト595(2018年撮影)
  • フィアット131アバルト・ラリー
  • フィアット131アバルト・ラリー(2020年、オーストリアでのラリーイベント)

イタリアの自動車メーカー、フィアットのスポーツ仕様ディヴィジョンとして知られる「アバルト」。オーストリア生まれのエンジニア兼レーサー、カルロ・アバルトが1949年に北部イタリアの工業都市、ボローニャで同社を創業。数年後、トリノに移転したのをきっかけにフィアットとの接点が生まれた。

会社創業前から創業当初はレーシングカーや記録樹立用車の製作を主体にしていたが、小型エンジンをリアに積んだ斬新なミニカー、フィアット『500』(ヌオヴァ500)のデビュー翌年の1958年にエンジンのパワーアップキットを登場させ、それが同モデルの人気を爆発的に上げる原動力のひとつとなった。アバルトはさらに性能を大幅に引き上げた「アバルト595」、半開きのリアエンジンフードで知られる「アバルト695SS」などのコンプリートモデルを立て続けに発売した。今日販売されているアバルトモデルの595、695はこれらを踏襲したヘリテージネームである。

1971年、フィアットはアバルトを買収し、傘下に収め、1981年には完全に吸収合併した。この時期アバルトは創業期のようにラリーやトラックレースのマシン開発を本業とするようになるが、ラリーカーのフィアット『131アバルト』、フィアットグループのランチア『ラリー037』、『デルタHFインテグラーレ』のように一部は公道用のホモロゲーションモデルとして市販もされた。

フィアット131アバルト・ラリー(2020年、オーストリアでのラリーイベント)フィアット131アバルト・ラリー(2020年、オーストリアでのラリーイベント)

もう少し公道走行寄りのモデルも作っている。ひとつは世界的に有名な自転車メーカー、ビアンキの自動車部門としてかつて存在したアウトビアンキの小型車『A112』を高性能化した「A112アバルト」。700kgのボディに70psのエンジンを積み、パワーウェイトレシオ10.0kg/psというホットハッチで、日本でも結構な人気を得た。

もう一例はフォルクスワーゲン『ゴルフ』へのカウンターモデルとして作られたハッチパック車、フィアット『リトモ』に2リットルDOHCエンジンを詰め込んだ「リトモ125TCアバルト」、さらにそれをツインキャブレター化した「リトモ130TC アバルト」。とくに後者の動力性能は当時のCセグメントコンパクトとしては驚異的。2500rpmくらいまではトルクが薄いかわりにそれを超えると背中を蹴っ飛ばされるような勢いで加速するという、小さいクルマを速く走らせるのが好きなイタリア人好みのモデルに仕立てられていた。

しかし、リトモ130TC アバルトを最後にアバルトチューンの市販車はバッタリと出なくなった。同時期にサブコンパクトカー、フィアット『ウーノ・アバルトターボ』が発売されていたが、普通のターボモデルにアバルトの装飾を施したものだった。当時は日本での輸入代理権が混乱しており、リトモアバルトの輸入代理店が「本物のアバルトはリトモだけ」と広告で主張する一幕もあった。

フィアット500アバルト(パリモーターショー2008)フィアット500アバルト(パリモーターショー2008)

1997年、チームアバルトはフィアット社内から消滅。このまま歴史は途絶えるかに見えたが、2007年に突如、フィアットグループ内の独立組織として再登場した。ブランドを復活させたのは、イタリアのカルロス・ゴーンとも評された剛腕経営者にして希代のカーガイでもあった、故セルジオ・マルキオンネCEO。まずフィアットのサブコンパクトクラス『グランデプント・アバルト・ターボ』、続いてフィアットがかつての名車、ヌオヴァ500の誕生50周年記念モデルとしてリリースした「500」をベースに、強力な1.4リットルターボエンジンなどを搭載した『500アバルト・ターボ』を送り出した。

かつての500におけるアバルト伝説の復活かと熱狂したユーザーの数はマルキオンネ氏の予想を超えており、消えかかっていたアバルトブランドは輝きを取り戻した。今日ではフェラーリやマセラティなどのトリビュートモデル、イタリアの高級ウッドボートメーカーRIVAとのコラボモデルなどの高級限定車を出しながら、内燃機関の最後のタームを軽やかに駆け抜けている。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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