今後のパイオニアを担う新たなプロダクト『NP1』が登場した。これは音声のやり取りだけでカーナビ等の機能を発揮するコネクテッドデバイス。これを中核とするNP事業の今後の戦略についてパイオニア 代表取締役 兼 社長執行役員の矢原史朗氏に話を伺った。
◆「NP1」は“Next Product”の象徴として誕生した
パイオニアは1938年に創業し、多くの名機を輩出してきた世界有数の名門音響メーカーだ。車載機の分野でもその存在は全世界で知られ、特に日本では「carrozzeria」ブランドとしてカーオーディオにとどまらず、カーナビにおいても業界を常にリードする位置にあった。しかし、昨今の長引くオーディオ不況やスマートフォンの台頭の影響を受け業績不振に陥り、ついに2019年3月、パイオニアは上場廃止となった。
「パイオニア再建に関わって欲しい」との打診が矢原氏にあったのは、そんな状況下にあった2019年夏。会社に出向いて話を聞くと、「社内には“パイオニア愛”にあふれる社員がたくさん残っていて、会社の復活を心から願っている」ことを知る。「この想いが本気ならパイオニアは必ず再建できる。かつての輝くパイオニアは必ず取り戻せる」そう矢原氏は確信。これが引き受けるきっかけとなり、2020年1月、矢原氏は社長に就任した。
その矢原氏(以下:矢原社長)が社長に就任して目指しているのが、サービスによってハードウェアでの収益を超えることと、その先にある再上場だ。社長就任して2年、NP1はその目標達成のための第一弾として登場した。NP1の“NP”はNext Productの略称でもあり、NP事業の象徴でもある。その開発にあたっては、車載専用AIプラットフォーム「Piomatix(パイオマティクス)」を用いて、それをベースにパートナー企業と共に成長していく。そんなオープンプラットフォームの世界観こそが新生パイオニアの姿であるとした。
◆4つのある事業の中で、投資して育てていくべきはサービス
矢原社長はNP1発表の席上、NP事業による具体的な売り上げ目標も明言。2025年に300億円、2030年には1000億円のビジネスに成長させるという。そこにはどんなビジネスモデルがあるのだろうか。
矢原社長は「今、我々が持ってるビジネスは、一つはOEMがあり、二つめにカロッツェリアというハードウェア、そして今回のNP1に代表されるNP事業があり、他に業務用ビジネスの4つがある。この中で特にサービス系のビジネスを伸ばしたい」とする。その理由として挙げたのが「ハードウェアだけの戦いでは他社より上を行くというスペック競争があるが、ユーザーは本当にそこに価値を求めているのか」との疑問だ。
矢原社長は、「OEM事業に関してもバッテリーEVとか、ADASだったりとか、自動運転も含め、ものすごい勢いで変化している。彼らは2年、3年後を見据えて発注してくるが、我々として焦点を定めにくい。ならば今のOEM事業で評価いただいているところは大切にしながら、投資して育てていくべきはサービスだと考えた」と話す。サービスであれば利用者が価値を認めてくれれば永続的にその対価を支払ってくれる。販売した時点から価値が下がっていくハードウェアとはそこが大きく違うというわけだ。
また、パイオニアの強みとして「市販製品を通じて、直接エンドユーザーとつながっていること」と矢原社長は話す。「ユーザーはスマホでAppleとかGoogleとかを使っているが、それを車内にまではまだ(本格的には)来ていない。我々はすでにそれができる位置におり、その販路もある。そこで勝てる技術基盤を作り、それにはどんなモノが必要か、具体的な形を作っていく。その第一弾がNP1だ」とした。
◆NP事業の中核が車載専用AIプラットフォーム「Piomatix」
このNP事業の中核となるのが車載専用AIプラットフォーム「Piomatix」だ。クルマの中は情報量が飛躍的に増えて操作が複雑化し、それがドライバーにとって大きなストレスとなっている。今後はこのストレスを低減する、より自由で整理統合された情報提供手段が必要と考えた。そこで主役となるのが「音声を中心」としたインターフェースである。
そこには視線を動かさずとも安全に操作できるNP1の基本コンセプトがある。今までのカーナビなら案内がある度に、地図を確認することが多く、それを不安に思うユーザーも少なかったはずだ。NP1では音声によるコマンドで目的地を設定し、より緻密な案内を音声で行う。ドライバーからの多彩なリクエストにも応えることが可能で、それらは運転に不慣れな初心者や高齢者にとってもメリットとなり得る。
また、音声でやり取りするNP1は「むしろ欧米での受け入れやすい」との声もある。アメリカでは平均で毎日2時間ほど乗るとのデータがあり、それだけに車内でいかに多くのことができるかが重要になっている。つまり、音声系アプリがアメリカからたくさん出てきたのもそういった背景があり、走行中にそうした操作ができる音声インターフェースこそが普及のカギとなる可能性が高いのだ。その意味でもNP1のコンセプトは合致する。
◆アジア、欧米など世界を目指し、4輪だけでなく2輪向けも開発中
そうしたスペックを活かしたNP事業の広がりも期待される。矢原社長は「地域的には日本を皮切りに北米、欧州、アジアといったように世界展開を目指し、そのターゲットは「国内の新車500万台というよりも、国内保有台数8000万台、もっと言えば世界の保有台数の約15億台、これを見据えている」とする。車種についても4輪だけでなく2輪も視野に入れており、すでに「かつてないすごい商品を開発中である」ことも明かした。
Piomatixによるサービスも多岐にわたる。発表会の席上では様々なパートナーが紹介されたが、「今回、NP事業を明らかにしたことで、ウチもやりたいと申し出てもらえることを期待している。もちろん、こちらからもパートナー部隊が声掛けにも出掛ける。スマホ向けでAPIができているアプリならすぐに載せられる。クルマに乗っていて、あったらいいなと思うサービスの搭載を目指していく」と今後の広がりに期待を寄せた。
NP1は販売後もユーザーと繋がり、常に進化させていくことで売り切り型の商品からの脱却を図るものとなっている。矢原社長はこのサービスについて「アプリを組み込んだらそれがどんな価値を生み出すか、収益性も含めて対応していく。ハードウェアにサービスを加えたら、逆にそれは差別化としての武器にもなる。NP1をハードウェアとして見るのではなく、使って便利と思われるサービスとして見られるように発展させていきたい」と今後の展望を語った。