ソニーEVのインパクト:PS5連携、ソニーピクチャーズ見放題? だけではない意味

VISION-S 02
  • VISION-S 02
  • VISION-S 02はSUVらしい広い室内空間を特徴とする
  • VISION-S 02でも、前方のパノラミックスクリーンに加え、リアシート各席にはディスプレイを
  • 「360 Reality Audio」に対応したスピーカーはVISION-S 02でも展開
  • ソニーがCES 2022で発表したVISION-S 02(向かって左)とセダンタイプのVISION-S 01
  • ソニーがEV事業会社「ソニーモビリティ」を設立へ(CES 2022)

年明け早々にCES 2022で大きな発表が行われた。ソニーが本格的なEV事業を検討するというニュースだ。

◆ソニーEVは「異業種参入」として見るべきではない

ソニーは、MEMSやカメラ、映像システム等ですでにTier2、3として自動車産業のサプライチェーンの一員となっている。EVパワートレインやシャーシ・ボディ、サスペンションなどはマグナインターナショナルとのパートナー戦略によって、オートモーティブグレードの製品製造に大きな問題はない。

発表では「360 Reality Audio」対応の音響システム、「Bravia Core for VISION-S」(映像配信サービス)、PlayStationへのリモート接続など、AV機能やエンターテインメント機能に言及した点も注目だ(筆者としてはぜひPS5標準搭載にしてほしいが、PS5は定格消費電力350Wもある。ネットワーク帯域なども考慮すると簡単ではない)。

こんなことを言うと「テスラは走行中の動画再生機能についてNHTSAに指摘されたばかりじゃないか」という反応が返ってきそうだが(テスラはOTAですぐさま問題の機能をキャンセルするとしている)、車両のUI/UX研究において、エンタメ要素や車両の停止中の利用もまた成長分野のひとつである。

事実、テスラオーナーの一部は運転目的でなく車を利用している。ゲームをしたり映画鑑賞したり音楽鑑賞するためにわざわざ車に乗り込んで時間を過ごしている。移動中でも同乗者がゲームや動画視聴を楽しむのが普通になっている。ソニーが今回車室空間が広いSUVモデルを発表したのも、運転・移動以外の利用スタイルを意識しているはずだ。

「ソニーがEV」という字面だけでもインパクトがあるが、業界としてはこの意味をあらためて考える必要がある。とくに早急のEVシフトは必要ないといまだに思っているメーカー、サプライヤー、ディーラーは要注意だ。

VISION-S 02でも、前方のパノラミックスクリーンに加え、リアシート各席にはディスプレイをVISION-S 02でも、前方のパノラミックスクリーンに加え、リアシート各席にはディスプレイを

◆参入ではなく彼らの戦場に取り込まれている

確かに焦って右往左往する必要はないが、EV市場の立ち上がりから10年、全方位も言われ始めて少なくとも5年近く経つ。先が読めない未来をいつまで待っていても意味がない(戦略のひとつではあるが)。方向性が固まったとき、いまの事業が同じ状態で続いている保証はない。事業計画というのは状況の変化に合わせて変えていくものだ。「急ぐ必要はない」は「現状のままでいい」ではない。電動化やEVを頭ごなしに否定するのも「全方位」ではない。

話は電動化やEVの話だけではない。CES 2022の発表でソニーグループ会長 吉田憲一郎氏が「車の再定義」と改めて述べたように、単に「ソニーがEVを作る」、自動車産業に新興プレーヤーが参入してくるという問題では収まらない。ソニーやアップル、中国EVメーカーのような新規参入組は、既存の自動車産業の土俵で勝負するために参入するのではない。彼らの主戦場の戦線を広げてきていると考えるべきだ。

100年の歴史のある自動車産業はそんなに甘くはない、などと思っていると足元をすくわれる。彼らは歴史ある既存のルールで勝負するつもりは端からない。安全性や設計思想について普遍的な価値観はあるが、それが既存メーカーしかクリアできないと考えるのも他企業を過小評価しすぎだ。EVに関していえば、安全性や機能性の考え方・製品アウトプットにトヨタとソニーの本質的な違いはあるのだろうか。また、価値観は同じでも基準やルールは変わるものだ。

ソニーがCES 2022で発表したVISION-S 02(向かって左)とセダンタイプのVISION-S 01ソニーがCES 2022で発表したVISION-S 02(向かって左)とセダンタイプのVISION-S 01

◆業界サプライチェーンへのインパクト

たとえば、ソニーのEVである『VISION-S』はマグナが作っている。BMWとトヨタは同社からそれぞれ『Z4』と『スープラ』の供給を受けている。現状の自動車産業さえ、すでに生産国や製造ブランドだけで品質を語ることはできない。この事実は、マグナやBYD Autoのような企業が、半導体産業におけるTMSCやサムスンのようなファウンドリのような立ち位置になり、トヨタやVWはNVIDIA、クアルコム、フリースケールのようなセミファブレスになる可能性も示唆する。

既存の大手自動車メーカーは、車両とサービスエコシステムの企画と設計を行う。実際の生産はマグナやBYD Auto、さらにはその他の完成車メーカーが行う。このシナリオでは、ソニーやアップルの立ち位置は車両ハードとソフトの設計を担い、グループ企業やパートナー企業が生産を担当する。

もちろん現実には、垂直統合型ピラミッドがきれいに水平分業・パートナーシップモデルに切り替わることはない。ソニーやアップルの参入は、結果的にはプレミアムカーやシェアリングカーなど限定的になるのかもしれない。だとしても(ならばなおさら)今回の発表は業界の大きなうねりになることは間違いない。

予想はされていたことだが、自動車を製造・販売するスキームはいくつも成立するようになった。同じやり方や過去の成功事例の焼き直しで現在の市場ポジションを維持できるとは限らない。業界のビジネスモデルとサプライチェーンの構造は確実に変わっていく。

《中尾真二》

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