【MaaS体験記】観光列車で日本初のトレインワーケーションも、千曲市モデルに見る地域活性化の形

「観光列車ろくもん」を使ったトレインワーケーション
  • 「観光列車ろくもん」を使ったトレインワーケーション
  • 日本ワーケーション協会の箕浦龍一氏によるプレゼン風景
  • グループごとにアイデアを発表する
  • 観光列車ろくもんでのトレインワーケーション風景
  • 「観光列車ろくもん」背景に紅葉の山々が見える
  • 実際にトレイン内で仕事をする様子
  • LINEアプリでタクシー配車をしたところ
  • 千曲市役所で説明するふろしきや田村氏

今回の取材は、株式会社ふろしきやが、千曲市、信州千曲観光局、長野県と提携し、長野県千曲市で開催した「秋の千曲市ワーケーション・ウェルカムデイズ(全7日間)」の取り組みだ。一般企業が参加する「学び深まる秋の温泉ワーケーション」プログラムに密着し、信州周遊フィールドワーク&アイディアソンと観光列車をカフェ利用できる「ろくもん駅カフェ」を体験してきた。

千曲市のワーケーションとは

2019年10月から「快適な働き方の実践」と「温泉・絶景など地域資源を活かすこと」を目的に始まった長野県千曲市でのワーケーション体験会は今回で7回目となる。主催のふろしきやが進める「ワーケーションまちづくり事業」は、令和3年度長野県地域発元気づくり支援金事業に認定されており、長野県が提案する新しいライフスタイル「信州リゾートテレワーク」の一環だ。

今回は、COP26開催に合わせたゼロカーボンやダイバーシティ&インクルージョンなど、社会課題をテーマに専門家・参加者と学びを深める「信州周遊フィールドワーク&アイデアソン」を実施し、秋の味覚や景色を堪能し、観光列車をカフェ利用できる「ろくもん駅カフェ」を体験しながら、仕事やフィールドワークで信州を満喫できるプログラムだ。11月14日から11月20日までの全7日間のプログラムで、LINEアプリ上で動くウェブアプリ「温泉MaaS」が使える。

「観光列車ろくもん」背景に紅葉の山々が見える「観光列車ろくもん」背景に紅葉の山々が見える

アイデアソンとトレインワーケーション体験

今回は、長野県が主催するプレスツアーに参加した。新幹線で上田駅まで向かい最寄りの屋代駅まで移動し、2019年に新庁舎となった千曲市役所でアイデアソンに参加した。ワーケーションは5日目(全7日間)となるため、参加者は前日にフィールドワークも終えており、専門家やメディア関係者を合わせると総勢30名以上とこれまでで最多の人数での開催となった。専門家からは、ワークスタイルについては日本ワーケーション協会の箕浦龍一氏、モビリティについてはマイクロソフトの清水宏之氏、フードについては信州地域デザインセンターの倉根明徳氏よりプレゼンがあった。

メディア側での参加だったが、せっかくなので参加者に混じってアイデアソンにも参加した。はじめに自由にアイデアを書き出して、似たようなアイデアでグループ分けをしていく。参加したのは、ワイナリーとモビリティをテーマにしたグループで、長野県の方や鉄道会社の方などさまざまなジャンルの方と話すことができた。ワイナリーが多い長野県の特長をモビリティの視点で解決するアイデアを議論し、次世代モビリティサービスを発案することができた。

日本ワーケーション協会の箕浦龍一氏によるプレゼン風景日本ワーケーション協会の箕浦龍一氏によるプレゼン風景

その検討途中には、今回の社会テーマでもあるゼロ・カーボンについてEYストラテジー・アンド・コンサルティングの早瀬 慶氏、ダイバーシティ&インクルージョンについて国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の小林奈穂氏からプレゼンがあり、多くの気づきと刺激をもらうことができた。そうした専門家からのインプットがあることで、日頃見過ごしがちな社会性の高いテーマを参加者自身が主体的に考える雰囲気づくりができていることを実感した。

観光列車ろくもんでのトレインワーケーション風景観光列車ろくもんでのトレインワーケーション風景

翌日は、日本初のリゾート列車貸切りのトレインワーケーション「観光列車ろくもん」に乗車した。長野駅から軽井沢駅まで運行している実際の観光列車を貸し切ってコワーキングスペース&カフェにする試みは他府県ではあまり見ない。六文銭をモチーフに内装・外装ふくめて改造された車両は、ワーケーション参加者にとっても鉄道好きな方にとっても楽しく移動することを体現した形になっていた。

屋代駅から戸倉駅までを往復するなか、佐久郡(小諸市の南側)から参加されている年配ご夫婦にもお話しを聞くことができた。もともと東京と地元の佐久郡の2拠点生活だったが、いまはご夫婦で佐久郡に移住されている。3年前に日本初のイエナプラン教育を行う大日向小学校ができた当初はその周辺は活性化したが、そこからさらに遠い場所にある地元の佐久郡(南佐久郡)を自分たちで盛り上げることができないかとワーケーションプログラムの参加に至ったと話す。

今回の参加者の中には、長野県茅野市や塩尻市など千曲市に隣接する市からの参加もある。千曲市のワーケーション参加をキッカケに、地元で同様のワーケーション活動ができないか検討されている方が多くいる印象を持つことができた。

実際にトレイン内で仕事をする様子実際にトレイン内で仕事をする様子

LINEとAzureの取り組み

今回のワーケーションには、LINEアプリ上で動くウェブアプリ「温泉MaaS」が使えることも特長のひとつだ。利用するには、LINE公式アカウント「千曲市ワーケーション・ウェルカムデイズ」を友だち登録することで使える。ワーケーションイベントの申し込みはもちろん、マップから観光スポットの探索ができ、タクシーの呼び出し配車までできる。また、地元の方でも複雑な路線バスの時刻表(全路線)を見ることができたり、上田市・千曲市広域シェアサイクルにも連携している。

これらは、2020年11月の第4回千曲市ワーケーション体験会でマイクロソフトの清水氏が発案し「温泉MaaSアイデアソン」として参加者と議論して具体化したもので、2021年2月にはLINEアプリを使って地元のタクシー会社と実証実験まで実施されている。LINE APIを使い、システム構成にマイクロソフトのAzureを使用している取り組みは、同5月にLINEが発表した『地域×MaaS』につながる先進事例としても見ることができる。

これを実現したのは、千曲市ワーケーション体験会に参加した参加者はもちろん、地元のWebエンジニアらだとマイクロソフトの清水氏は話す。スモールスタートでできる範囲の取り組みからはじめて今後さまざまなニーズに合わせて展開していくことが考えられる。

LINEアプリでタクシー配車をしたところLINEアプリでタクシー配車をしたところ

ワーケーションのポイントは「遊休資源の活用」

千曲市ワーケーション体験会を主催している株式会社ふろしきは2016年の設立で、代表の田村英彦さんは京都出身で東京から長野に移住されたひとりでもある。長野県にはリゾート・テレワーク事業があり、地域資源を活用する取り組みがあったため、それまでの仕事を活かすように2019年10月からワーケーションの取り組みをスタートしたと話す。

ワーケーションの大きなポイントは「遊休資源の活用」だと田村氏は話す。使われていないものを新しいニーズで使われるようにする、日常使われているものを非日常でも使えるようにするなど。言葉の定義もワークとバケーションだったことから、仕事と休暇や本業と副業、日常と非日常などを組み合わせるようになってきている。平日運行する観光列車を休日に運行させたり、非日常でしか使われない施設を開放し日常使いできるようにしたりしていると言う。

また、温泉MaaSの特長でもあるタクシー配車については、タクシー会社のドライバーも高齢の方が多くスマホだけでは管理しきれないため、LINEアプリからの配車予約をタクシー会社の配車係(PC)に連携し、あとは通常の配車指示で運行していると言う。そのためドライバーが高齢の方でも降車時にチケットの確認さえすれば対応できるようにした。これらの取り組みが実現できたのも、タクシー会社との関係性や信頼性が根底にあるようにおもう。

田村氏は「MaaSを構築することで、いろんな方との関係性を作っていくことに大きな意義を感じる」と話す。ワーケーションをキッカケに、ちょっとずつ関係者を増やしていくこの取り組みは、今後いろいろな場所やテーマで発展していくように感じた。

千曲市役所で説明するふろしきや田村氏千曲市役所で説明するふろしきや田村氏

ワーケーションと地域活性化

ワーケーションのワークとは、コワーキングだと思う。普段ひとりで仕事している人が違う場所で仕事をするというだけではなく、ひとりの活動ではなく人との交わりや複数人と一緒に取り組むことにこそワーケーションの意味がある。さらに、固定化された場所の変更というだけでなく、自然と接することや普段できない体験をすることで、普段の仕事に戻った際に違った見方や意識が変わっていることに気がつく。

短い間しか参加できなかったこのワーケーションの取り組みは、温泉MaaSの体験がキッカケではあるが、モビリティの体験にとどまらず、地域の活性化を地元の人たちといっしょに作り上げていく大きなムーブメントに感じた。今回実際にワーケーションに参加し、参加者たちとも話し、ふろしきや田村氏の話を聞けたことで、それが実現可能なことであり現在進行系なことが理解できた。

一方で、今回のふろしきや田村氏のようなリーダーシップを地元で生み出し、事業を継続していくパワーを市や県が支援できるのかが大きな課題となるだろう。緊急事態宣言が開け、アフターコロナ化していく流れのなかで、さまざまな地域でも同様の取り組みが行われていくことになるのは必至だ。今回の地域活性化とワーケーションの組み合わせをひとつのモデルケースに、全国にも展開していくことに期待する。

■MaaS 3つ星評価

エリアの大きさ:★☆☆
実証実験の浸透:★☆☆
利用者の評価:★★★
事業者の関わり:★★★
将来性:★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室 室長
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

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