新車で買える国産2ストマシン「YZ125」

マッハ、RZ、ガンマ、NSR…、環境規制によって国産では絶滅したはずの2ストロークエンジンだが、なんとヤマハが密かに新開発を進め、ニューモデルを新発売してくれた!それが、17年ぶりのフルモデルチェンジとなる『YZ125』(2022年式)だ。
さすがにナンバー付き公道向けモデルではなく、競技専用のモトクロッサー。それでも誰もが購入できる市販向けで、2ストエンジン搭載の新車が買えるのだから嬉しいではないか。スポーツランドSUGOのインターナショナルモトクロスコースで試乗した。
キックペダルを踏み下ろせば、エンジンは「ベーンッ!」とすぐに始動し、なんとも懐かしい音、そしてオイルの焼ける匂い。2000年に4ストエンジン搭載の『YZ250F』が登場するまでは、2スト125ccモトクロッサーを長らく所有していた筆者としては、もうこれだけで感動的!さらにコースを走れば、胸のすくエンジンフィーリングに興奮せずにはいられない。
大坂も余裕で駆け上がっていける

高回転の伸びがなんとも気持ちがいい。頭打ちせずにジワジワとパワーを絞り出し、傾斜角30度、高低差約35mの名物「大坂」も平然と駆け上がることができる。坂の途中でもシフトアップができ、回転を落とし込んでしまっても加速してくれるし、低いギヤのまま引っ張り上げても力を絞り出す。
パワーバンドが狭く、神経質なはずの2ストローク125ccエンジンだが、ギヤの選択を間違えても坂はのぼってくれるし、コーナーも立ち上がれる。低中速域のトルクが太く、タイトコーナーでスピードを落としてしまっても加速が鋭く、すぐにまたスピードに乗ってリズムに乗っていけるのだ。
100kg切りの超軽量な車体

コーナリング時は積極的に前寄りへ荷重をかけるなど、乗り手はスタンディングし、車体の上で前後移動しなければ車体をうまくコントロールできないが、シートがスリムかつフラットで、シュラウドの張り出しも最小限に抑えられているから、とても動きやすい。
従来型よりタンク部を6mm低くし、着座位置を5mm上げたことで、シートはほとんど真っ平らに。滑るようにして、腰を前後に動かせる。
前後サスペンションは、エンジンのパワーアップに合わせて減衰の効いたコシのあるセッティングが施された。4ストYZ-Fのような上質な減衰フィールで、車体の姿勢変化が少なく落ち着きがある。コーナー進入でハードにブレーキングしても、リヤからキックバックを食らうなんてことがない。
ブレーキもコントロールしやすい。フロントディスク径は270mmのまま変更ないが、ピストン径を12%、パット接触面積を30%増しし、制動力とタッチを向上している。リヤはディスク径を245→240mmにするなどし軽量化が図られた。アルミスプロケットの形状変更やドライブチェーンも見直され、徹底的に重量が減らされている。車体重量は100kgを切り、95kgと超軽量だ。
扱いやすくパワフルな完全新作エンジン

試乗を終えると「気持ち良さそうにジャンプしていましたね」と、プロジェクトリーダーのOV開発部YZグループ上村正毅(かみむら まさき)さんが笑顔で迎えてくれた。
新開発の2ストエンジン。「レスポンスが良く、リニアなトルク特性のおかげです」と伝えると、「特に中高回転域のパワーアップに力を入れました。扱いやすさも向上するため、スロットルボジションセンサー付き(エンジン回転数やスロットル開度に応じて最適に点火を制御する)のケイヒン電子キャブを採用し、ギヤレシオも最適化しています」と教えてくれた。
リードバルブには吸気抵抗を低減し、正確な開閉により燃焼に必要な新気を適切なタイミングで供給するMoto Tassinari社製「V-FORCE4」を新採用。YPVS(ヤマハパワーバルブシステム)もバルブ位置と形状を見直し、パワーデリバリーがよりスムーズに。燃焼室、シリンダー、クランクケース、チャンバーに至るまですべてを刷新し、扱いやすく、そしてトップエンドまで気持ちよく回るエンジンに仕上げたのだ。

発表後に予約殺到で一時受注ストップの大反響
「ライダー育成のため」「レースで勝つため」を主眼に置きつつ、車体の軽さやアクセルを開ける楽しさから休日にファンライドを満喫するベテラン層にも根強く支持される2ストモトクロッサー。フルモデルチェンジの新型が渇望されていただけに、発表すると瞬く間に年内の生産計画を上回る予約が入り、オーダーを一時停止するほどの反響となった。
受注は11月上旬より再開。2ストの感動を新車で味わうことが、モトクロスならできる。ヤマハよ、ありがとう!!

■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
コンフォート:★
足着き:★
オススメ度:★★★★★
青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。