日本時間の10月27日早朝、現地では26日の夜、ロンドンのロイヤル・オペラハウスで新型『レンジローバー』の発表会が開催された。ジャガー・ランドローバーのティエリー・ボローレCEOが冒頭挨拶を行い、続いて壇上に立ったのは同社のチーフデザインオフィサーであるジェリー・マクガバン。まだ新型車の姿はない。彼はこう語り始めた。
「初代レンジローバーはパリのルーブル美術館に初めて展示されたクルマでした。模範的なデザインの例として展示されたのです。あれから50年、4世代を経て、レンジローバーは世界をリードする高級SUVの地位を固めてきました。文化的かつ創造的なものを映し出して、その独自のステータスがあります。だから私たちは今、創造性と情感の砦とも言うべきロイヤル・オペラハウスにいるのです」
持続可能性と欲望を包含するモダニズム
次にマクガバンが語ったのは、高級という概念の変容だ。
「もちろんレンジローバーはラグジュアリーの世界に生きてきました。しかし初代が登場した頃とは世の中が劇的に変わってきて、今は持続可能性や洗練性が重要になっている。ラグジュアリーの世界がそれに関係ないとは言えません。いや、むしろラグジュアリーの世界こそ深く関係するのです」
「その一方、欲望なくしてラグジュアリーはあり得ません。高級ブランドはその製品やそれを使う経験を通じて、情感のレベルで顧客と共鳴し合っています。ですから私は、自分がそれを欲しいかをまず考えます。顧客が欲しいと思わなければ、先に進まないですからね。欲望こそが私たちのデザイン・フィロソフィーの第一の要素です」
顧客の欲望に応えるために、マクガバンがデザインで重視するのは「モダニズム」だという。
「私たちにとってモダニズムとは、装飾過多にならず、過度なディテールやラインに頼らず、要素を減らしたクリーンなデザインであること。抑制的でありながら冷たい印象ではなく、情感の部分で顧客とつながっているデザインです」
ジャガー・ランドローバーのチーフデザインオフィサーであるジェリー・マクガバン氏
そしてマクガバンは新型を披露する前のスピーチの締め括りとして、モダニズムを象徴する二人の偉人の言葉を紹介した。まず、20世紀前半に活躍したモダニスト建築家の巨匠、ミース・ファン・デ・ローエが残した“Less is Moreという言葉”。要素を減らしてこそ伝わる内容が増えて豊かな表現ができる、という主旨である。
「レンジローバーにおいて“Less is More”は、やらずにはいられないものなのです」とマクガバン。
もうひとつはココ・シャネルの言葉である。
「彼女はかつてこう語りました。ラグジュアリーとはモノが豊かにあるところではなく、下品さがないところに宿るのだ、と」
シンプルさを極めた“Less is More”のデザイン
レンジローバー 新型
壇上に新型レンジローバーが現れた。少し時間をおいて再びマクガバンが登場し、プレゼンテーターを務める。
「息を飲むようなモダンさです。この素晴らしいプロポーションをご覧ください。レンジローバー以外にはありえないシルエットです。そして、美しくて洗練されたサーフェスがいかにクリーンかを見てください。過剰さは微塵もありません」
「3本か4本のラインでこのカタチを語ることができる」と、マクガバンはシンプルさを強調する。「穏やかに下降するルーフラインがあり、長く延びるウェストラインがあり、そしてボディの全長を駆け抜けてボディに緊張感を与えるフィーチャーラインがあります」
フィーチャーラインとは、ボンネットの開口線から始まってショルダー部を走るライン。その後端には彼が“インゴット”と呼ぶアクセントが埋め込まれている。あたかも文章の句点のように、ラインの終点を明示するのがこの「インゴット」の役割だ。
レンジローバー 新型
フロントは上下二つの要素で構成されている。「上はグリルを包む要素。ヘッドランプより少し下まで延ばすことで、フォーマルな印象にしました。ヘッドランプは技術を凝らしたところで、高価なカットガラスで作られたように見えるでしょう」
もうひとつの要素はバンパーの開口部だ。「2本のバーが幅一杯に広がってスタンスの良さを表現しながら、レーダーやパーキングセンサーをそこに取り込んで目立たなくしています」とマクガバンは告げ、こう続けた。
「そしてもちろん、これはレンジローバーですから、その歴史へのオマージュとしてクラムシェル型の(サイド見切りの)ボンネットを採用しました」
「スプリット・テールゲートでなければ、レンジローバーではない」
レンジローバー 新型
続いてリヤ。新型が載るターンテーブルを回しながら、「この丸みを帯びたリヤをご覧ください。それが、我々が“コードライン”と呼ぶものに収斂し、リヤのショルダーの鍛え上げられた筋肉のような力強さを強調しています」。“コードライン”とは水平線と垂直線を組み合わせた黒いライン。垂直部分はテールランプで、水平部分にはターンランプを内蔵する。
「リヤエンドのシンプルな美しさは、複雑なエンジニアリングの賜物です」とマクガバンは告げる。テールゲートはレンジローバーの伝統に沿って上下二分割。その分割線は“コードライン”の下端を水平に結ぶガーニッシュに沿って入れている。「スプリット・テールゲートでなければ、レンジローバーではないですからね」。伝統を尊重しながら、それをシンプルに表現したのだ。
モダン・ラグジュアリーを表現するために、マクガバンは新型レンジローバーでシンプル&クリーンを極めた。さまざまな機能要件を満たさねばならないカーデザインで、シンプルなカタチを追求するのは容易なことではないが、「レンジらしさ」を進化させるにはそれ以外に道はなかったのだろう。
ひと目でレンジローバーとわかるデザインである一方、進化の度合いも大きい。それはまさに“Less is More”の精神を体現するものなのである。