半導体不足、ファウンドリの巨人は自動車を見限った?…TSMCジャパン社長講演

TSMCジャパン 代表取締役社長 小野寺誠氏
  • TSMCジャパン 代表取締役社長 小野寺誠氏
  • IDM、ファウンドリ、ファブレスの役割
  • 半導体のリードタイム:OEM納品までには半年かかる
  • 筑波の3DIC R&Dセンター
  • 5G、AIは自動車分野でも伸びる市場
  • シリコンディスプレイ技術
  • オートモーティブワールド2021 なごや:TSMCジャパンの取り組み
  • オートモーティブワールド2021 なごや:TSMCジャパンの取り組み

世界的に半導体が不足し、ファウンドリにとって自動車業界はけっして美味しくない顧客であり、供給を後回しにしているとの報道がある中、「名古屋オートモーティブワールド2021」において、TSMCジャパン代表取締役社長小野寺誠氏による講演が行われた。

世界市場のおよそ半数を寡占するファウンドリの巨人、TSMCは本当に自動車業界を見限っているのだろうか。

半導体産業の特殊事情

ファウンドリのTSMCについて、自動車業界の人にあらためて説明する必要はないかもしれない。インテルのように垂直統合型で半導体設計からデバイス(チップ)販売までを行うIDMと、デバイスの商品企画とマーケティングを行うファブレス半導体メーカー(ブロードコム、クアルコム、nVIDIA、ザイリンクスなど)の間に位置するのがファウンドリである。

ファウンドリは、半導体の設計はIDMやファブレスから請負い、それをシリコンウェーハ―に焼き付ける技術開発とその製造を担う。半導体の微細加工、積層技術は非常に高度だ。高い設計および工作精度と高純度な水やクリーンルームを必要とする。設備投資が膨大になり維持コストもかかる。近年は、半導体の高性能化(集積度・消費電力・周波数特性)が進み、長期にわたって安定した品質と供給を確保できる企業は限られてしまう。

結果として中規模のIDMは市場で成立しなくなり、インテルやサムスンのような巨人しか残らなくなった。それ以外のIDMはチップ製造はファウンドリにまかせてファブレスビジネスにシフトせざるを得ない。ファウンドリは巨大IDMと同程度の生産能力と財務体力が求められるため、これもTSMCとサムスンの2社で全世界の半導体供給の約7割を担うという現状が生まれた。

半導体製造はリードタイムの長さが課題

現在の半導体不足は、以上のような特殊な産業構造によるものと考えられる。小野寺氏(TSMCジャパン代表取締役社長)によれば、「半導体製造はリードタイムの長さも課題のひとつで、今回の問題の原因にもなっている」という。

自動車産業のサプライチェーンでいえばTSMCのようなファウンドリはTier3に位置付けられる。ファウンドリが受注を請けてすぐに製造にとりかかったとしても3~4か月の期間が必要だ。Tier2のSoC・ICサプライヤー(チップベンダー)などでさらに2~3か月ほど製造およびテストにかかる。Tier1ではコンポーネントやモジュールとして組み立て、さらにOEMの検査を受けて納品となる。最短でも受注から半年のリードタイムだ。

「2019年、コロナパンデミックの前からTSMCのラインは各国の需要で埋まっていた状態。自動車業界からの受注が減ったとき、需要が落ちていない、あるいは急速に回復したIT産業他への生産能力の振り分けは必然だった。しかし2020年後半に自動車の回復基調が見られたものの、すぐに製造できたとしても出荷は3から4か月先になる。出荷が決まった分について返却してもらうなど異例の措置をとったが、とても足りる状態ではなかった。」(小野寺氏)

生産拠点増強でレジリエンスな体質をつくる

完全にビジネス領域の話で、技術でどうにかなる問題ではない。小野寺氏は、TSMCは今後ビジネスイノベーションでサプライチェーンの可視化、3兆円規模の投資による工場の増設を考えているとする。5nm、3nmといった最先端の工場ではなく、既存技術の工場も増やす計画があるという。

TSMCでは、半導体不足の教訓としてレジリエンスの強化は急務と考え、グローバルでの生産能力増強を進めている。中国南京の新設工場は22年下期には28nm技術の工場を稼働させ、23年半ばには月産4万枚のウェハー生産能力を確保したいとする。また北米ではアリゾナに5nmの工場を24年第1四半期に稼働させる。ここでは月産2万枚を目指す。

日本では、昨年横浜にデザインセンターを開設。筑波には3DIC R&Dセンターをオープンする。日本は装置技術のノウハウがあるため、筑波では主に3次元の積層技術、パッケージ技術の研究開発を進める。

また、新聞報道がされた九州に28nm技術の工場を新設する計画については「22年に着工、24年に出荷開始を目指す計画で、正式には取締役会の承認が得られれば発表する。」(小野寺氏)とした。前述、レジリエンス戦略のため既存技術の工場を世界に増やす戦略に含まれるものだろう。

自動車産業向けの取り組み:N5A技術

小野寺氏は講演の中で何度となく、TSMCは自動車産業をないがしろにしているわけではないことを強調していた。注目しているのは5GやAIといった技術が今後の自動車に深くかかわってくることだ。これらの技術に半導体は欠かせない。

具体的な分野としては、自動運転やクラウドサービスと連携したエッジコンピューティング。5G通信などコネクテッド機能のインフラにはRF(無線周波数)領域のチップも必要となる。デジタルコックピットではグラフィック処理を含む高度なプロセッサが要求されている。EV化はさらなるパワー半導体(バイポーラ・CMOS・DMOS)ニーズを高めている。

最新技術では、TFT液晶ディスプレイより高精細・高解像度を実現する半導体ディスプレイの研究も進められている。

これらの領域では16nm~5nm技術が主流となり、TSMCは「N5A」というテクノロジーポートフォリオを設定して、自動車向け半導体の強化に取り組んでいる。N5は5nmを意味し、現在最先端のプロセスルールだ。AはAutomotiveを意味し、自動車向けの5nm技術ということになる。

自動車向けに特化するのは、業界の特殊事情に合わせるためだ。通信機器やIT機器とは違った安全性能や品質基準があるため、ソリューション群としては分ける必要がある。また、消費電力、EMC、コスト要件も特殊だが、TSMCは優先領域として取り組むという。

《中尾真二》

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