ゼンリンが提供予定の長崎「観光型MaaS」、今後について議論…CEATEC 2021

ポイントとなる“街歩きMaaS”とは?

一つのアプリで決済を横断的にカバー

収集データをどう活用していくか

ゼンリンは「CEATEC2021オンライン」で、長崎「観光型MaaS」のパネルディスカッションを実施した。左からゼンリンの藤尾秀樹氏、日立製作所の渡邉貴雄氏、レイ・フロンティアの田村建士氏
  • ゼンリンは「CEATEC2021オンライン」で、長崎「観光型MaaS」のパネルディスカッションを実施した。左からゼンリンの藤尾秀樹氏、日立製作所の渡邉貴雄氏、レイ・フロンティアの田村建士氏
  • ゼンリンが201年度中に実証実験を予定する長崎「観光型MaaS」のスマートフォン用アプリ
  • 日本全国の狭域エリアでの課題解決のため、ゼンリンが提供するのが「マイクロMaaS」だ
  • 詳細なサービスのベースとなるのが「Mobility based Network」
  • “交流人口の拡大”と“快適な移動環境”を目指した長崎「観光型MaaS」は2021年度中にスタートを予定する
  • 長崎を15ブロックに分けた「マイクロMaaS」により、エリアごとに詳細なサービスで結ぶ
  • スマホアプリ一つでキャッシュレス決済と公共交通との連携を実現する
  • アプリの移動履歴によって観光客の道交法を把握し、そのデータを分析して観光課題の解決につなげる

ゼンリンはCEATEC 2021オンラインに出展し、2021年中に長崎市においてスタートさせる「観光型MaaS」の実証実験について、協業パートナーである日立製作所、レイ・フロンティアと共にパネルディスカッションを実施した。

パネルディスカッションに登壇したのは、日立製作所(日立)金融システム営業統括本部事業企画本部 担当本部長 渡邉貴雄氏、レイ・フロンティア代表取締役 田村建士氏、ゼンリン IoT事業本部部長 藤尾秀樹氏の3名。それぞれの立場で長崎市における「観光型MaaS」について語り合う場となった。

ポイントとなる“街歩きMaaS”とは?

ゼンリンはこれまでも地図情報を通じて、多くの地域が抱える「過疎化」「高齢化」「医師不足」「生活交通の脆弱」といった課題解決に向けた取り組みを行ってきた。今回の「観光型MaaS」はその一環として提案されたもので、観光によって地域振興を目指す多くの自治体にとっても重要な柱となる。ゼンリンはすでに昨年12月より沖縄県で「沖縄MaaS」に参画しており、長崎での実証実験はそれに続く第二弾。今回はゼンリンが自らプランニングし、観光地周遊に必要な決済や、最適な交通ルート設定など移動にまつわるすべてを一つのアプリ上で利用できるサービスとして提供する。

このアプリでは、目的地を設定するだけで案内ルートを地図上に表示。ルート上に乗り物利用があれば、その運賃も一括で精算できるMaaSならではの機能も備えた他、このアプリでは一日乗車券といったお得なチケットの決済も行え、利用者の負荷軽減にも配慮しているという。また、このデータはレイ・フロントに個人情報を特定しない形で利用実績として残り、蓄積したデータは推奨ルートの紹介や機能改善など役立てられる。

このアプリで最大のポイントとしているのが、ゼンリンが提唱する『マイクロMaaSソリューション』を導入していることだ。これまでMaaSは多くの事業者が手がけてきているが、それらはあくまでエリアとエリアを結ぶことにとどまり、地域のより詳細なサービスにまでは入り込んでいない。ゼンリンはそこをカバーする。

ここではゼンリンの『Mobility based Network』がベースとして貢献。そこには網目で整備した自動車用ネットワークをはじめ、鉄道路線、駅構内通路、歩行者用ネットワークなどを組み込む。これらを「交通結節点で接続することでIoTやMaaSに最適化された基板データベースを提供する」(藤尾氏)というわけだ。

そうした背景の下で可能となるのが“街歩きMaaS”だ。藤尾氏は「観光で訪れた人たちは現地の歴史や文化に触れ、それを知ることで、再び訪れたくなるリピーターとなり得る。そのために徒歩での動きを重視したい。長崎市をマイクロ観光エリアとして15ブロック分け、それらを公共交通でつなぐというスタイルを構築する」と説明。「ユーチューバーと一緒に回ることで新たな視点での街歩きができるようになっている」と従来の視点では得られない要素も取り入れていることを強調した。

一つのアプリで決済を横断的にカバー

ここで重要となってくるのがキャッシュレス決済と公共交通との連携だ。今回の場合、スマートフォンのアプリ一つで交通チケットや観光スポットなどの体験などでも決済できるようにしているが、「ゼンリンは地図の会社なので、決済のノウハウがない。そこでその分野で実績のある日立と連携してそれを実現した」(藤尾氏)。

この電子決済について渡邉氏は「日立が担当するのは観光資源の見える化を実現するため、アプリ上に電子チケットを表示し、そこに情報と在庫の管理をしながらスマホ上で決済すること。その実現のために日立が提供するのが“権利流通基盤”と“IoT決済プラットフォームサービス”だ。この二つを使って長崎市の観光型MaaSを支援する」と説明した。

この権利流通基盤はブロックチェーンの中にあって、利用者のID同士を連携するサービスを担う。今回、(このサービスを活用して)観光資源の見える化を電子チケットで表示しつつ、複数のサービスを連携する横断的な機能を持たせるようにしている。IoT決済プラットフォームはすべての金融経済を安全・安心の下で利用可能にする。

藤尾氏は「これらによって利用者を中心としたサービスを実現できるようになる。今後は地域で使われているポイントカードを共通化していったり、(現金を使う)アナログでの利用にもチャレンジしていきたい」とした。

また、ダイナミックプライシングについても意見交換がなされた。田村氏は、「ウーバーやグラブではすでにこれを導入していて、需要がリアルタイムでわかることで価格の最適化が図りやすい。一方でデータだけでは現地の声はわからない。我々はデータ分析の会社だが、その意味で現地での肌感覚を捉え、そのギャップを埋めていくのも重要と思っている」と語り、藤尾氏も「位置情報を活用したダイナミックプライシングにチャレンジしていきたい。利用者の行動から生まれる記録をどう活用するか、そこに決済を組み合わせていく」考えを明らかにした。

収集データをどう活用していくか

一方、集められたデータを分析し、それをどう次のサービスにつなげるかも重要だ。この部分ではレイ・フロンティアの知見を活用し、個人情報を特定しない形で位置情報や購入履歴などをデータとして収集できる手法をアプリに組み込んでいる。田村氏はアプリ上から収集するデータとして、「健康」「観光・小売」「社会予測」「データ管理」の4つを挙げ、これらによって「社会の変化が加速する中で、利用者の心理変化をいち早く捉えることが可能になる」と話す。

具体的には収集した人流データを基軸とした情報分析から、「どうやって観光客を誘導するか、ベストなゴールデンルートはどこであるかを収集したデータの中から導き出すことをアプリ上で展開できるようになる」という。基本は利用者に役立つ情報を提供するのは大前提としながらも、「こうしたリアルタイム性の高いデータは行政や調査機関、都市開発の事業者にも二次利用を進めていける」(田村氏)とした。

今回の実証実験について藤尾氏は、「長崎を訪れる多くの観光客に使ってもらえるアプリを目指して開発しており、そのためにゼンリンが自ら投資をし、長崎市側の負担は一切ない形で進めている」という。これにより「観光で始まる地域のデジタルプラットフォームの構築を目指し、今後は長崎県内へとエリアを拡大。将来的にはその先の全国への展開を目指して各地域の様々な課題解決につなげていきたい」(藤尾氏)とした。

また、田村氏は「マスの統計データからは見えてこないミクロな発見によって生まれたデータが今の時代は大切だ。これまでマニアックと思われていたロイヤルユーザーから(新たな需要が)拡がっていく可能性が大きい。ゼンリンの位置情報からそういったデータが分かれば事業者にメリットがある」と、収集データの横展開の広がりにも期待を示した。

最後に渡邉氏は、「ゼンリンがエンドユーザーにこれまでにないアプリを提供することを日立としても評価している。今回は移動情報を核にして、自分が思っていた以上の情報を提供されればそれはとても魅力的だ。新しいサービスだけに実際に体感してもらう機会を持つことが何より重要で、ゼンリンのアプリには個人的にも期待している」とアプリの広がりに期待を寄せた。

《会田肇》

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